Vol.29 No.3
【特 集】 農林水産省における最新の研究とトピックス


花粉症緩和米の開発とモデルマウスを用いた有効性の評価
(独)農業生物資源研究所    高木 英典・高岩 文雄
 スギ花粉症の軽減に効果のあるスギ花粉アレルゲンのT細胞エピトープを,イネ種子(米)の中の胚乳部位に特異的に発現させることに成功した。 この米をスギ花粉症のモデルマウスに経口投与したところ,アレルギー症状を引き起こす免疫応答の抑制のみならず,典型的な花粉症の症状であるくしゃみの回数が減少した。 これらの結果から,開発を進めている花粉症緩和米を日常の食事として摂取することで,スギ花粉症の症状を緩和することが期待される。
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イネゲノム塩基配列国際コンソーシアムが37,000個の遺伝子を解析
(独)農業生物資源研究所    松本 隆・呉 健忠・片寄 裕一・水野 浩志・佐々木 卓治
 国際コンソーシアムによって行われていたイネゲノム塩基配列の解読は2004年末に完全解読が終了したが,その後の解析によってイネゲノム上に37,544個の遺伝子を同定した。 これらの遺伝子に関する情報はイネの機能遺伝子の解明に重要な役割を果たすとともに,イネ科全体のゲノム解析,遺伝子解析の加速化をもたらす。
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微生物を生きたまま種子にコーティングし保存可能にする技術の開発
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 近畿中国四国農業研究センター    石川 浩一
兵庫県立農林水産技術総合センター 農業技術センター    相野 公孝
(株)サカタのタネ    橋本 好弘
 微生物を生きたまま種子にコーティングし,3カ月間保存を可能にする技術を開発した。この技術で内生細菌をコーティングしたレタス種子を使用することによってレタスビッグベイン病の発病が抑制できる。 この技術は生物農薬の低コスト化を可能にするとともに生産者の病害防除にかかる労力軽減に貢献できる技術である。
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カドミウムで汚染された水田の土壌洗浄法による修復
(独)農業環境技術研究所    牧野 知之
 農作物など食品中カドミウム(Cd)含量の国際的な基準値が策定されつつある。わが国では,Cd汚染水田を修復して米のCd含量を低減することが要望されているが, 既往の客土工事では対応が困難な場合がある。本研究では,水田土壌に塩化第二鉄を添加すると,生成する水素イオンと塩化物イオンの働きによって土壌に吸着したカドミウムが効率よく抽出されることを明らかにした。 この原理に基づき,カドミウム汚染水田に塩化第二鉄を施用後土壌を洗浄し,さらに,カドミウムを含む廃液をオンサイトで処理する実用的な土壌洗浄技術を開発した。 本法により土壌洗浄を実施した水田で栽培した水稲には収量の減少などの悪影響はなく,稲わらおよび玄米中のカドミウム含量は大幅に低減した。
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メチル化カテキンを含む茶葉「べにふうき」を原料とした緑茶を容器詰め飲料として製品化
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 野菜茶業研究所    山本(前田)万里
名古屋女子大学    佐野 満昭
静岡県立大学    宮瀬 敏男
九州大学    立花 宏文
アサヒ飲料(株)飲料研究所    永井 寛・鈴木 優子
 野菜茶業研究所およびアサヒ飲料株式会社は,メチル化カテキンを含む「べにふうき」の茶葉を原料とした緑茶の製品化を目指して共同研究開発を進め, 「べにふうき緑茶容器詰め飲料」を発売した。メチル化カテキンは,茶葉を発酵させて紅茶にすると消失してしまうため,緑茶として加工する必要がある。 今回の研究では,メチル化カテキンについて,その抗アレルギー作用メカニズムを明らかにしたほか,体内への吸収率(腸管吸収)や血中滞留性が高いといった特性とべにふうきの茶葉特性も明らかにするとともに, 飲みやすい飲料としての加工方法を開発した。
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新部材・新工法による施設園芸用大型鉄骨ハウスの開発・低コスト化
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 野菜茶業研究所    高市 益行
 耐候性が高く周年栽培が可能な大型高軒高鉄骨ハウスの建設コストを約1/2まで低減することを目標に,新部材,新工法を導入したハウスを検討し, 実用規模(約1,000m2)で実証建設を行った。新技術として,土の掘削が不要なパイプ斜杭打ち込み基礎,現場加工の不要な薄板軽量形鋼の構造部材への利用, 迅速で安全に屋根部の地上組み立てが可能な屋根ユニット工法を導入することで,工程数や工期の大幅な削減が可能となり, 耐候性のある大型鉄骨ハウスの大幅な低コスト化の見通しが立った。
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交雑育種によるカーネーションの花持ち性の向上
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 花き研究所    小野崎 隆
 花持ち性は花きの重要な育種目標であり,筆者らは交雑育種によるカーネーションの花持ち性の向上に関する研究を1992年より行ってきた。 切り花の花持ち日数を指標とした選抜とその選抜系統間での交配の繰り返しは効果的であった。交雑育種により従来にないほどの優れた花持ち性を持つ系統を多数獲得した。 優れた花持ち性に加え,その他の諸特性も対照品種とほぼ同等の2系統を選抜し,2005年にカーネーション農林1号「ミラクルルージュ」, 同2号「ミラクルシンフォニー」として命名登録,品種登録出願を行った。両品種は,老化時のエチレン生成量が極めて少なく, シム系品種「ホワイトシム」の約3倍の極めて優れた花持ち性を示す。
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バイオメディカル産業に貢献する遺伝子組換えブタとヤギの生産
(独)農業生物資源研究所    大西 彰・徳永 智之
 近年,ゲノム研究および体細胞クローン技術の発展により,人為的な遺伝子組換え家畜の作出が可能となり,特にバイオメディカル分野への利用が注目されている。 そこで,体細胞クローン技術を用いた遺伝子組換えブタおよびヤギの開発を行った。その結果,ヒト血清タンパク質の乳汁中への生産を可能とするヤギ, 緑色蛍光タンパク質(EGFP)を発現するブタおよびヒト補体制御因子(hDAF)を高発現するブタの作出に成功した。これらの遺伝子組換え家畜は, 医薬分野,再生医療分野,臓器移植分野などへの応用が期待される。
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農薬の効かないイネいもち病菌が九州全域に発生拡大
−MBI-D耐性菌は複数の起源に由来−
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 九州沖縄農業研究センター    荒井 治喜・鈴木 文彦
 水稲の最重要病害であるいもち病の防除には,育苗箱に処理する長期持続型の殺菌剤が広く普及している。しかし, 主要薬剤であるMBI-D剤に対する耐性菌の出現と防除効果の低下事例が2001年に九州地域で認められ,その後も西日本地域を中心に関東や東北地域でも分布が確認された。 MBI-D耐性菌の分布拡大によるいもち病被害の増大が懸念されたことから,新たに開発したDNA簡易個体識別技術を用いてこれら耐性菌の個体群構造の解析を行った。 その結果,九州各地に分布していた耐性菌は遺伝的に多様であり,耐性菌の起源は単一ではなく複数の起源に由来し,各地で同時並行的に発生したことが判明した。
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砂漠化等不良環境に対応できる作物の開発
(独)国際農林水産業研究センター    篠崎 和子
東京大学大学院農学生命科学研究科    (篠崎 和子)・神代 隆
 水稲の最重要病害であるいもち病の防除には,育苗箱に処理する長期持続型の殺菌剤が広く普及している。しかし, 主要薬剤であるMBI-D剤に対する耐性菌の出現と防除効果の低下事例が2001年に九州地域で認められ,その後も西日本地域を中心に関東や東北地域でも分布が確認された。 MBI-D耐性菌の分布拡大によるいもち病被害の増大が懸念されたことから,新たに開発したDNA簡易個体識別技術を用いてこれら耐性菌の個体群構造の解析を行った。 その結果,九州各地に分布していた耐性菌は遺伝的に多様であり,耐性菌の起源は単一ではなく複数の起源に由来し,各地で同時並行的に発生したことが判明した。
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