Vol.29 No.5 【特 集】 農村の自然環境をまもる |
資源循環型社会の構築による農山村の活性化 |
前 宇都宮大学副学長 高橋 弘 |
わが国の環境に関する考え方は,この30〜40年大幅な変貌をきたしている。環境庁ができた当初は,環境といえば公害防止や自然環境保全が重要な課題であった。 その後,環境庁が環境省になり,環境の持つ意味はより深く幅広いものとなった。身近な環境問題もしかり,グローバルな環境問題, さらには環境と経済の統合化に向けた環境に共生する持続型経済社会の構築が叫ばれ,そして今,資源循環型経済社会の構築が標榜されている。 そうした背景を踏まえ,本稿では,わが国のこれまでの環境変化を省み,農山村社会の持つ特殊性や潜在的価値を再認識し,今後必要とされる農山村における地球社会の持続にむけた資源循環型社会の構築に係るひとつの方向性を模索してみたい。 |
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農村環境整備の展開過程とその将来像 |
岩手大学 農学部 広田 純一 |
農村環境整備は1970年代初頭に農村居住者の生活環境整備として始まり,90年代に入って,農村の自然環境や歴史文化の保全あるいは景観形成など, 国民の共有財産としての農村の総合的な環境整備に力点が移されるようになった。さらに1999年の食料・農業・農村基本法制定以降は, 農村振興というキーワードのもとで,地域住民の主体的な参加による農村の経済的・社会的活性化も視野に入ってきている。 他方,2001年の土地改良法改正によって農業生産基盤整備での環境配慮が本格化したが,将来的にはさらに自然再生の取り組みへと発展する可能性がある。 また農村環境整備の担い手である地域コミュニティの再編強化が今後の大きな課題である。 |
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農村−人と暮らしのある自然環境−を守る |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 山下 裕作 |
農村の二次的自然環境は荒廃しつつある。人の手が入らなくなったからである。これは過疎化による労力の不足というよりも, 現在の農村環境に対する認識構造が住民の実践インセンティブを阻害していることによる。民俗学は伝承を学問の対象とする。伝承とは過去の記憶, 現在の体験,そして未来の計画の連続・連鎖であり,固有名詞を持つ人間による実践そのものである。その方法は住民とのコミュニケーショナルな調査による。 島根県の中山間地域農村では農村環境の「記憶」に関する調査を契機として,住民による環境管理活動が実践された。民俗学的視点・方法論は地域住民の自律性 ・主体性を再構築する効果を持つ。 |
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農村の豊かな植物資源の活用 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 嶺田 拓也 |
雑草植生は農村の景観を構成する重要な要素の一つである。雑草が具備する属性を活用すれば,さまざまな資源として利用することができる。 農村に生育するほとんどの雑草は食用および薬用として利用でき,また飼料,肥料,バイオマス資源としても活用できる。また農村環境の指標として, 帰化率から植生の健全性を表したり,耕地雑草の耕作依存性に着目して休耕田の植生管理指標にも利用しうる。農村は“有用資源の宝庫”であり, たとえ雑草であっても資源と見なしていく姿勢こそが農村の活性化には最も重要である。 |
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里地里山の保全を考える |
(独)農業環境技術研究所 井手 任 |
農業を中心として一体的に管理されてきた二次的な自然が,具体的な保全の対象としてコンセンサスを得るようになったのは比較的最近のことである。 二次的な自然を主体とする里地里山では,景観構成要素が地形的な連なりのうえにモザイク状に分布していることから,それぞれの生態学的な特徴に加えて, 景観構成要素の組み合わせやそれらの境界域の重要性が指摘されるようになってきた。ここでは,こうした里地里山の保全を目標とする研究の展開を概観し, 共有できる保全目標の重要性を指摘した。 |
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農業排水路における魚類の生息環境 −千葉県谷津田流域の調査事例− |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 小出水 規行 |
農業水路整備と魚類など生物に適した環境要因保全の解明が求められるなか,谷津田域の農業排水路を対象に水路環境および魚類の生息分布との関係について現地調査を実施した。 水路は形態的特徴によって4つに分類され,魚類についてはギンブナ,タモロコ,ドジョウなど,水路全体で13魚種を確認した。各水路の魚種数は本川との合流部水位差に依存し, 20cm以上の水位差は遊泳性魚類の移動を阻害していると推察された。ドジョウは水路共通の優占種となり,その生息場を形成させる要因として、 水質および植生の繁茂する砂泥底の確保が重要と考えられた。 |
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地域資源の保全管理のための技術開発 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 高橋 順二 |
新たな食料・農業・農村・基本計画を踏まえ,2005年3月に策定された農林水産研究基本計画においては,農山漁村における地域資源の活用のための研究開発を重点目標の一つとしている。 また,農村振興に関する施策では,2007年度からの農地や農業用水などの資源の保全にかかる新たな対策の導入に向け,2006年度実験的に保全活動を実施する事業を開始することとしている。 そこで,農村の自然環境を守る観点から,農地,農業用水,施設資源,景観などの資源について,その概要と技術開発の基本的な視点,技術開発の現状と方向について述べる。 |
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