Vol.29 No.8
【特 集】 進化する大規模施設栽培


施設園芸を取り巻く現状と最新技術
(社)日本施設園芸協会   石内 傳治
 施設園芸が発達し始めたのは,熊沢三郎が「作型」の概念を提唱したことと,農業分野でも塩化ビニールフィルム(以下ビニル)の利用が可能になった昭和30年代(1955年)に入ってからであり, 本格的で急速な進展は昭和40年代(1965年)に入ってからである。そして,現在,農業の国際化の進展や原油価格の高騰などに伴う収益性の低下や担い手の減少などの問題が顕在化する一方で,大規模化と技術開発も進み,新たなターニングポイントを迎えている。
←Vol.29インデックスページに戻る

新部材・新工法による低コスト施設園芸用大型鉄骨ハウスの開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所    高市 益行
 近年,耐候性が高く周年栽培が可能な大型高軒高鉄骨ハウスの要望が高まっている。そこで,建設工賃を含めたハウス本体の建設コストを硬質プラスチック鉄骨ハウスの約1/2まで低減することを目標に, 新部材,新工法を導入したハウスを検討し,約1,000m2の実用規模で建設実証を行った。土の掘削が不要なパイプ斜杭打ち込み基礎, 現場加工の不要な薄板軽量形鋼の構造部材への利用,迅速で安全に屋根部の地上組み立てが可能な屋根ユニット工法を導入することで, 工程数や工期の大幅な削減が可能となり,従来に比べて約4割のコストダウンの見通しが得られた。ハウス内にトマトを栽培し, 生産ハウスとしての性能評価を行った。
←Vol.29インデックスページに戻る

施設園芸生産のためのユビキタス環境制御システムの開発
東海大学 開発工学部    星  岳彦
 自律分散型の全く新しいコンピュータを用いた施設園芸用環境制御システムであるユビキタス環境制御システムは,施設の規模や制御目的に応じて, 低コストで導入可能なため,今後,園芸施設への普及が期待できる。コンピュータ化により,施設園芸生産の情報化が進み,生産性の向上, 国際競争力の強化に貢献できる。本システムは,暖房機や温度センサなどの各機器に小型のネット化マイコン基板を内蔵したノードを施設内LANに接続することで, 各ノードが協調して各機器を自律的に制御することに特徴がある。施設機器会社と共同で実用化に向けた試作機を開発し, 約1,000m2のトマト生産モデル温室でシステムを稼動させ,実証試験した。
←Vol.29インデックスページに戻る

夏期高温期の環境制御技術
東海大学 開発工学部    林  真紀夫
 施設栽培において,夏期の生産力を高めるための高温対策は重要課題である。換気だけで不十分な場合は,遮光や冷房の導入を検討することになる。 しかしこれらは万能ではないので,原理や装置の特徴・特性をよく理解したうえで,実効の挙がる利用法が必要となる。 ここでは,高温対策のための換気・遮光・冷房に関する最近の話題,方式,効果,特長などについて紹介する。特に最近,冷房に対する関心が高まっているので, 冷房については詳述する。
←Vol.29インデックスページに戻る

閉鎖型苗生産システムの開発と利用
太洋興業(株)    土屋  和
 季節や気候の変動に左右されず,良質で均質なセル成形苗を大量かつ省力的に生産する閉鎖型苗生産システムが開発された。 閉鎖系内の人工環境下で苗生産に最適な環境調節や灌水管理を自動的に行う装置で,蛍光灯や家庭用エアコンなどの安価で省エネ性の高い一般工業製品を利用し, 低コストで環境負荷の低い苗生産を計画的に行うことができるものである。苗生産の分業化にともない発展をしている育苗業において接ぎ木苗生産施設としての導入が進むとともに, 苗を大量に必要とする大規模施設栽培において自家育苗施設としての導入が進むなど,普及が進展している。無病,無農薬で生産され, 定植後の生育も旺盛であるなど,苗としての実用性も高い。
←Vol.29インデックスページに戻る

トマトの低段密植栽培による高収量周年生産
兵庫県立農林水産技術総合センター    時枝 茂行
 トマトの低段密植栽培は高収量が可能なだけでなく,秀品率が高く,高糖度などの高品質化が容易にできる。また,栽培管理が簡単で誘引などの作業性の改善に繋がり, 高度な技術が不要なために雇用による単純労力の導入が容易に図られ,栽培期間が短いために病害のリスクが少なく,季節に応じた適切な品種の導入による, 計画的な周年定量出荷が可能となる。今後は残された補完技術の開発により生産現場への普及が見込まれる。
←Vol.29インデックスページに戻る

大規模トマト生産温室の現状と展望
世羅菜園株式会社    久枝 和昇
 西日本最大級の8.5haのトマト生産温室について,温室や環境制御などの施設概要,作型や栽培品種などの栽培概要, 流通経路やブランドなどの販売概要について解説する。また,大規模生産の今後の展望について,発展していくためには産官学の連携が必要であること, このような連携には生産者の視点も重要であること,産業としての農業を守るためには変革が必要であることなどについて述べる。
←Vol.29インデックスページに戻る

人工光完全制御型植物工場の現状と将来性
−LEDを利用した植物工場システムの開発−
玉川大学 農学部   渡邊 博之
 太陽光併用型植物工場と並んで人工光完全制御型植物工場の技術開発が進んでいる。最近の高圧ナトリウム灯や白色蛍光灯を光源とした植物生産システムの現状を紹介し, 筆者らが中心になって進めた発光ダイオード(LED)植物工場の開発の経緯を紹介する。人工光完全制御型植物工場の将来性については, さらに安全性や機能性を高めた作物生産システムへの技術開発や,遺伝子組換え植物を導入した機能性物質生産システムへの応用が期待される。
←Vol.29インデックスページに戻る