Vol.29 No.11
【特 集】 水産工学技術開発の現状と展望


水産工学技術開発の現状と展望
(独)水産総合研究センター 水産工学研究所   武内 智行
 昨今、水産業に関しては、漁船漁業の危機的状況などの重要な問題が種々指摘されているが、これらの問題を具体的にどう解決して「水産業を活性化」するかが課題である。 ここでは、実践的な研究・技術開発で問題解決に貢献しようとする水産工学分野の姿を紹介した。この分野の中心的な役割を担っている水産工学研究所の設立の経緯に立ち戻るとともに、 その後の研究・技術開発の展開を述べた。また、今後の展望にも言及した。
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大型クラゲ漁業被害軽減対策技術
(独)水産総合研究センター 水産工学研究所   渡部 俊広
 エチゼンクラゲが近年大量に来遊する頻度が増え、そのたびに深刻な漁業被害をもたらしている。そのため農林水産省が中心となり、漁業被害を軽減するためのさまざまな調査や技術開発が行われている。 ここでは、これまで行われてきたプロジェクト研究の概要、底びき網や定置網に入った大型クラゲを網の外へ排出することによって漁業被害を軽減するための技術開発の現状、 ならびに大型クラゲを沖合において駆除するために表中層トロール網のコッドエンド(袋網)を改造して、大型クラゲを細かく切断できるようにした駆除漁具の開発について紹介する。
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底魚資源を合理的に利用するための離着底兼用トロール技術
長崎大学水産学部     松下 吉樹
(独)水産総合研究センター水産工学研究所     山崎 慎太郎
愛知県水産試験場漁業生産研究所     冨山  実
ニチモウ株式会社下関研究所     熊沢 泰生・武内 要人
東京海洋大学海洋科学部     稲田 博史
 伊勢湾周辺において資源水準の低下が懸念される底魚資源への漁獲圧力を緩和しながら、海底から離れて分布する魚類の漁獲の増加を図るために、 新たな底びき網漁業技術の開発に取り組んだ。対象とする生物の鉛直分布に応じて、網の形状と海底への離着底を制御することができる漁具を開発し、 底びき網漁船の漁獲情報の解析から、この漁具を有効に利用できる対象種とそれらの出現時期・水域を特定した。開発した技術は既存漁船の能力の制約により、 遊泳能力がそれほど高くない魚類には有効であることが明らかとなった。
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イルカ型ソナーをモデルとした次世代魚群探知技術
(独)水産総合研究センター 水産工学研究所    赤松 友成
 持続的な水産資源の管理のため、魚種ごとに資源量を計測する技術の開発が望まれている。本研究では、進化の過程で魚類探索に最適化されたイルカのソナーをモデルとし、 イルカの探索戦略を明らかにした。これをイルカソナーシミュレーターに応用し、海中でのターゲット弁別能力の飛躍的向上を目指した。
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中深層性魚類の音響・光学観測システム
(独)水産総合研究センター 水産工学研究所    澤田 浩一
 ハダカイワシ類、小型のイカ類、オキアミ類などのマイクロネクトンは、世界3大餌生物とも言われ、生態系における鍵種であり、 その定量的なモニタリングが求められている。そこで、水産総合研究センターでは、計量魚探機と高感度ステレオビデオカメラを組み合わせた新しい海洋生物観測システムの開発に取り組んでいる。 開発中のシステムは、調査船から懸垂して、魚群に接近させ、高精度な音響データ、映像データを収録することができる。これまで深度220mにいるイカ類や、 表層のサンマ、サバ類、カタクチイワシなどの浮き魚類の観測に成功している。本稿では、これまでの成果と今後の開発計画について紹介する。
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ウニ漁場造成に関わる事前評価法
(独)水産総合研究センター 水産工学研究所    桑原 久実
 磯焼け海域では、ウニなどの餌料海藻を確保するため藻場造成施設が設置されてきた。施工後、数年経過すると元の磯焼けになる場合が多く、問題になっている。 まず、既存の藻場造成施設について、詳細な現地調査を実施した。次に、コンブの生産とウニの摂食を表現できる計算モデルを用いて、毎年コンブ群落が形成され、 ウニの生産性を増大させるのに良好な施設の設置位置や断面条件について検討した。最後に、持続的に利用可能なウニ漁場造成に関する事前評価方法について照会した。
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波による渦流れを利用する海水交換防波堤
(独)水産総合研究センター 水産工学研究所    大村 智宏
 滞留海域の水質環境問題を克服するため、波浪制御効果と海水交換促進効果を併せ持つ構造体として、新たな機構を活用した遊水室内に没水平版を設置した構造である。 遊水室内のピストンモードの波動運動を原動力に、前面壁下部付近に強い渦流れを発生させ、波から渦流れへとエネルギー変換する。同時に、没水平版による渦流れの制御により、 堤体下部に設けた通水部で有意な平均流が生成され、海水交換が図られる。特長は、港内水を港外へ排水すること、また曝気および鉛直混合が促進され、 貧酸素問題の積極的解決に資することが挙げられる。
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