Vol.30 No.4 【特 集】 開発進むキチン・キトサンの利用 |
日本キチン・キトサン学会とその研究動向 |
千葉大学大学院 自然科学研究科 安藤 昭一 |
キチン・キトサン関連分野の研究はわが国が世界中でもっとも進んでおり,研究者の数も最大である。日本キチン・キトサン学会にはキチンとキトサンに関する学問的分野の研究者はもとより, 応用研究に携わっている民間の方々や,すでに商品化に成功し,製造を担当している技術者の方々も多数参加している。 さらに,キチン・キトサンの類縁のアミノ基含有多糖類に関する研究者,またその利用研究を行っている企業の方々も加わっている。 酵素,生化学,薬学,応用科学,医用材料,化粧品,食品など幅広い分野の研究者,技術者によって構成されているのも本学会の特徴といえよう。 この報告ではそれらの研究分野の詳細を紹介する。 |
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食品用キトサンの製造と開発 |
日本化薬フードテクノ株式会社 研究所 亀山 博 |
キトサンは生分解性のある塩基性ポリマーであることから,カチオン系の凝集剤として汚泥や発酵菌体などの排水処理に使用されてきた。 近年では天然の中で唯一アミノ基を有した食物繊維としての特性に着目し,キトサンのコレステロール低下作用,尿酸値低下作用などが報告され, 機能性食品素材としての需要が増えてきている。食品業界では,相次ぐ不祥事,輸入健康食品の健康被害,農産物の残留農薬問題などにより, 安全で安心して食べられる品質が求められ,多くの企業や工場でHACCP,ISO22000,食品GMPなどの導入が進められている。 同様にキトサンの食品用素材としての開発が進むにつれて安全性への要求が高まっている。ここでは食品用キトサンの製造に関する異物の混入防止, 含有金属,脱色,脱臭,物性改良などについて紹介する。 |
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N−アセチルグルコサミンの開発と応用 |
焼津水産化学工業株式会社 又平 芳春 |
カニ・エビ殻由来の天然多糖類キチンを原料として,N-アセチルグルコサミン(NAG)の開発を行った。緩やかな酸分解と酵素分解を併用して天然型NAGを遊離させ, さらに逆浸透膜を利用した膜型バイオリアクターシステムによる効率的製造方法を構築した。NAGはショ糖の約半分の甘味をもち,水溶性であり, pHや温度変化に対して安定である。経口投与されたNAGは吸収・代謝され,その一部は皮膚組織や軟骨組織に存在するムコ多糖類の合成に利用される。 臨床試験によって肌質の改善作用,変形性関節症改善効果などの生理機能性が認められ,化粧品や機能性食品の素材として応用されている。 |
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食品素材からのキチン分解酵素探索とGlcNAc増強の試み −素材のもつ酵素パワーを個性豊かな食品開発に活かせ− |
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 食品総合研究所 徳安 健・與座 宏一・松木 順子 |
地域特産食品などの開発を行う際には,高度加工技術を活用した個性化・差別化が重要な鍵の一つとなる。本稿では,素材のもつ酵素活性を利用した食品熟成・加工技術について, キチン質分解酵素に注目した研究成果を中心に概説する。130種類を超える食品素材・食品に存在するキチン質分解酵素活性を調べた結果, 唐辛子が高い値を示したほか,トマト,キノコ,魚介類内臓,キムチ,カツオ塩辛,麹などにも活性が見いだされた。そのなかから, 熟成工程を含む加工食品であるキムチについて細かい検討を行った。本知見を生かし,キチンの分解物であり良質な甘味を有する機能性糖質N-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)の食品熟成・加工過程における増強が可能となる。 |
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キチン・キトサンの農業への利用 |
高知大学 農学部 福元 康文 長崎総合科学大学 人間環境学部 西村 安代 農林水産省 農林水産技術会議事務局 筑波事務局 竹崎あかね |
キトサンの園芸作物栽培における有効利用法を検討した。脱アセチル化度約85%のキトサンを重量比で1.0%土壌混和処理することでハクサイ, キャベツの生育促進作用が認められたが,脱アセチル化度が98.6%と高くなると促進作用は低下した。土壌への混和率は2.0%前後で最も生育促進効果が高かった。 キチン質のカーネーション萎凋病(Fusarium oxysporum f. sp. dianthi)への効果についても検討した。殺菌土で病原菌の接種濃度が高い場合,キトサン無添加土では接種53日目に全ての株が枯死したが,キトサン添加土では発病が抑制された。キトサン添加による発病抑制効果は無殺菌土でより顕著であった。 |
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キチナーゼを利用した新規バイオ農薬 |
山口大学 農学部 古賀 大三 |
人や環境に優しい農薬として,人の体にはない多糖類キチンを分解する酵素キチナーゼを中心にした「バイオ(酵素)農薬」の可能性について紹介する。 一つは,ある植物キチナーゼがイチゴうどんこ病を治癒したこと。もう一つは,ある昆虫キチナーゼが松くい虫の媒介害虫であるマツノマダラカミキリの消化管を破壊し殺虫効果を示したことである。 このキチナーゼを利用したバイオ農薬は,植物が長い年月に獲得してきた生体防御機構を模倣したもので,自然に優しく,化学農薬に替わる未来の農薬として期待される。 |
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キチン質の動物医薬への応用 |
鳥取大学 農学部 南 三郎・岡村 泰彦・柄 武志・岡本 芳晴 |
キチン質の動物臨床への応用について,ポリマーの効果とそのメカニズムについて解説した。メカニズムのなかで,キチン質は生体内で分解されるため,
その分解過程で形成されるオリゴマー,モノマーの創傷治癒過程に及ぼす影響も解説した。特に,皮膚再生に関してはN-アセチル-D-グルコサミンの効果を実験成績,
臨床例で示した。また,グルコサミンを初めとするモノマーの動物に対する効果を紹介した。
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キトサンの木材用接着剤への応用 |
京都大学 生存圏研究所 梅村 研二 |
木材接着の分野では,人体や環境への安全性や化石資源の将来的不安から動植物由来の天然物を利用した接着剤の開発研究が進んでいる。その一つとして, キトサンを利用する試みが行われているが,これまで木材接着に関する研究報告は非常に少なく,またそこでのキトサンの接着性能は極めて低いと考えられてきた。 しかし,最近の研究から適切な塗布量で接着すると良好な常態強度や耐水性を発現することが明らかとなり,さらにほかの天然物との併用による高性能化も可能であることが分かってきた。 |
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