Vol.30 No.5
【特 集】 転換期の精密農業


わが国における精密農業の動向と展望
東京農工大学大学院 共生科学技術研究院    澁澤  栄
 わが国の精密農業研究は、その開始からわずか10年間に、要素技術開発に続き、要素技術開発に続き、実用化研究を経て、民間農場における技術パッケージの普及段階に達した。 技術パッケージは、環境負荷軽減やコスト削減などの具体的な経営目標を実現するために構成される要素技術群の選択と組合せである。わが国の場合、 精密農業技術導入による付加価値農産物の生産・流通・消費や知財戦略の構築が、その出口として要求されている。これは、欧米の精密農業と比して劣らない独自の技術水準に達しつつあることを示している。
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土壌センサから始まる精密農業
エスアイ精工(株)技術開発部    二宮 和則・加藤 祐子
 土壌成分の空間的変動をリアルタイムかつ連続的に計測可能な土壌センサの開発が進められている。この土壌センサで計測された土壌の情報は、 全地球測位システム(DGPS)による位置情報と同時に記録され、土壌マップとして出力される。土壌マップは、圃場の持つ地力やそのバラツキを表現しており、 生産性の向上や環境保全を目的とした精密農業の実現に重要な役割を果たし、さまざまな活用方法が期待されている。現在、全国各地において土壌センサによる圃場の計測と、 計測情報を基にした精密農業への取り組みが始まっている。
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ロボットの精密農業への利用
−ロボットによる情報化−
愛媛大学大学院 理工学研究科    近藤  直
 従来、労働力の代替として用いられてきたロボットが、そのセンシング能力や膨大なメモリ能力を活かして、正確な情報収集を可能にする機械システムとして用いられ始めている。 農業においても、苗生産、栽培管理、収穫、選別などの作業においていくつかのロボットが実用レベルに達しており、正確な情報の収集が可能である。 さらに、その膨大な情報を地域で管理することにより、生産者に対するきめ細かな営農指導、高品質な生産物および高収益の獲得に貢献することが可能である。 同時に、流通業者や消費者に対する安心・安全な農産物のトレーサビリティ情報の提供および地域ブランドの創出に活用が可能である。
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日本型水稲精密農業
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター     西村  洋
 わが国の水田を基盤とした土地利用型農業に対応させるために、精密農業の新たな定義として、ほ場1筆を管理単位とする「広域管理方式」を提唱した。 この考え方に基づいて、携帯式作物生育情報測定装置、無人ヘリ搭載式作物生育情報測定装置、収穫情報測定装置、基肥用および追肥可変施肥装置など、 これまでに開発された精密農業の個別要素技術をシステムとして組み合わせて実際の農業現場に導入し、2003年度から4ヵ年をかけて実証試験を行った。 その結果、「品質の向上、生産コストの低減、環境負荷の低減を同時に可能にする栽培管理技術」として機能することが検証された。
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北海道におけるコムギ収穫
・乾燥作業の人工衛星画像利用による効率化
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 近畿中国四国農業研究センター 奥野 林太郎
 北海道・芽室町を対象として、7月上・中旬に撮影された衛星画像より、コムギの生育の早晩を推定する手法を開発した。 この手法により作成されたコムギ生育早晩マップを共同収穫作業に利用することで、子実水分が低く、均一なコムギが共同乾燥施設へ搬入されるようになり、 子実水分20%までの乾燥費が3割程度減少した。
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茶園における精密施肥技術
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所    深山 大介
 精密施肥技術の導入によって小規模で分散している茶園における施肥量を削減する技術開発が進んでいる。核となるのは、 正確に計測した植栽面積に基づいて施肥設計をすること、設計した施肥量どおりに正確で均一な施肥作業を行うこと、施肥位置の変更によって施肥効率を高めること、 である。それぞれに対応して、全地球測位システム(DGPS)を用いた茶園面積測定および地理情報システム(GIS)の利用、実用的な歩行型精密施肥機の開発、 樹冠下施肥による施肥窒素利用効率の向上、が試みられた。茶園の精密施肥の概念は、施肥作業に関わる各要素の精度を向上させることでこれまで生じていた無駄を排し、 施肥量の削減を実現する点が特徴である。
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食・農・環の融合で新産業を興す
−豊橋市におけるIT農業の取り組み−
株式会社サイエンス・クリエイト    中野 和久
 愛知県豊橋地域では、「豊橋・田原IT農業推進ビジョン」に沿って各種施策が進行している。平成19年度から「食農産業クラスター推進事業」が始まるが、 本事業の一環で平成18年度には「IT活用型営農成果重視事業」(農林水産省)に採択され、IT技術などを活用して圃場から得られる情報を基に、 3年間で肥料成分流出量の5割低減と農薬散布量の5割低減など、環境負荷低減に取り組む。本事業を通じて農工商連携プログラムの事業化を目指す。
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海外における精密農業
京都大学大学院 農学研究科    梅田 幹雄
 筆者は「農業はその時代時代の最先端の技術を駆使して行われてきた」と考えている。精密農業はGPS(全地球測位システム)、リモートセンシング、 フィールドロボットなど最先端の技術を駆使して収量増加、品質向上、および生産費低減をもたらし、加えて環境負荷を削減する効果がある。つまり、 精密農業技術を活用することにより、持続的農業と収益性の向上を両立させることができる。これらの技術は、これまでに研究してきた先進・先端技術を用いながら実用性・実現性が高い。 さらに、精密農業は総合技術であり、これまで個別の研究分野で培ってきた知識の統合による発展が期待できる非常に魅力のある研究分野である。このため、 精密農業発祥の地アメリカだけでなく、ヨーロッパ、アジア、オセアニアなど、世界中で多くの関心を引き付け、精力的に研究が行われている。

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