Vol.31No.1
【特 集】 夢のある農林水産研究


宇宙で農業 そして地球を救う
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部    山下 雅道
 遠く地球を離れて,火星に100人ほどの探検隊を送り,20年以上にわたり活動しようと構想している。 隊員の生命を維持するために,物質の再生循環を生物・生態系の働きにより実現する。 限られた空間での宇宙農業を考えて選ばれるコメ,ダイズ,サツマイモ,青菜,カイコガ,ドジョウという日本風な食品の組み合わせは,栄養学的にも優れている。 さらに,高温好気堆肥菌など,日本発の技術に期待が寄せられる。そしてなによりも,宇宙農業は地球上の文明の持続的発展に寄与する。
(キーワード:宇宙農業,昆虫食,高温好気堆肥菌,閉鎖生態系生命維持,持続可能な人類文明)
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アレルゲンを低減したダイズの開発とアレルギーリスク低減化戦略
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所 大豆育種研究チーム    羽鹿 牧太
 ダイズの主要アレルゲンの1つであるa-サブユニットを欠失したダイズ品種「なごみまる」を育成した。 この品種は機械化適性や収量性に優れ,東北中南部〜関東北部で栽培できる。 この品種と適切な加工法を組み合わせることにより,アレルゲンフリー食品の製造が可能である。 また普通品種の代わりにダイズ食品の原料として用いる場合には,「低アレルゲン」などの表示はできないが,アレルゲンリスクを低減できる可能性がある。
(キーワード:ダイズ,a-サブユニット,b-コングリシニン,アレルギー,アレルゲン,「なごみまる」)
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医療への利用を目指した新たなブタの開発
(独)農業生物資源研究所 遺伝子組換え家畜研究センター    大西 彰
 ブタは,解剖学的,生理学的にヒトに類似することから,医療分野への利用が進められてきた。近年,実験用イヌの利用が困難になるなか,実験用ブタへの期待が急速に高まっている。 さらに,体細胞クローン技術と遺伝子組換え技術の併用により,任意の遺伝子改変ブタの作出が可能となり,慢性的に不足する移植用臓器の代換え利用やマウスでは再現できないヒトの疾患モデルの開発など, これまで不可能とされていた分野の新たな展開が現実的になってきた。
(キーワード:医療用モデルブタ,遺伝子改変ブタ,体細胞クローン)
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木造の高層ビルディングは建つのか?
−木質系耐火構造開発からのアプローチ−
(独)森林総合研究所 木材改質研究領域    原田 寿郎
 2000年の建築基準法改正を契機に,高層の木造建築物が建設できることとなった。 木質系材料の耐火構造認定では,耐火加熱試験において強度性能が保たれることに加え,材料自身が燃え止まることが求められる。 このことが木質耐火構造の開発にとって大きなハードルとなっているが,鋼材と木材の組合せ,無機材料による木材の被覆,高密度木材やモルタル,あるいは難燃処理木材を組み込んだ集成材など,木質系材料を用いた耐火構造が開発されつつある。 木質耐火構造開発の現状から見た木造高層ビルディング建築の可能性を探る。
(キーワード:耐火構造,耐火建築物,集成材,木質構造)
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デザインどおりのイネの品種改良が可能に
(独)農業生物資源研究所 植物科学研究領域    遠藤 真咲・土岐 精一
 近年の分子遺伝学的手法の進展により,農業上有用な形質を支配する変異が<CODE NUM=00D5>DNAの塩基配列レベルで同定できるようになってきた。 また,タンパク質の構造解析の結果を基に,改良型タンパク質(およびその遺伝子)をデザインすることも可能になってきた。 このような有用な知見を育種に役立たせるには,特定の遺伝子をピンポイントで改変する技術が必要であり,ジーンターゲッティングはそのような技術の切り札として期待されている。 筆者らは最近この技術を用い,イネの内在性の遺伝子に点変異を導入することにより,除草剤耐性イネを作出することに成功した。本稿では筆者らの研究を紹介するとともに,この技術の課題と将来性について考えてみたい。
(キーワード:イネ,ジーンターゲッティング,相同組換え)
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花咲かホルモンを使って果樹の花を制御する
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 果樹ゲノム研究チーム    遠藤 朋子
 「花成ホルモン(フロリゲン)」は,過去何十年もの間世界中の研究者が追い求めてきた花を咲かせる物質である。 最近シロイヌナズナやイネなどのモデル植物を中心とする植物科学研究によって,花成ホルモンを作る遺伝子が明らかになってきた。 植物のなかでも特に長いライフサイクルを持つ果樹では,この遺伝子を制御することで,開花までの期間を大幅に短縮して早く果実を結実させることに成功しており, またこの遺伝子の働きを詳しく解析することで,今後品種改良や栽培技術が大きく変わり,開花を自由に調節する夢が実現するかもしれない。
(キーワード:花成ホルモン‘フロリゲン’,FT遺伝子,果樹,早期開花結実性)
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ウイルスの感染でも枯れない植物を作る
京都大学大学院 工学研究科    世良 貴史
 ウイルスは農作物の収穫に多大な損害を与えてきたが,いまだ感染を防ぐ有効な手段を持ち得ず,その開発が望まれている。 筆者はウイルスゲノム複製過程に着目し,ウイルスゲノムの複製の開始に必要な,ウイルス複製タンパク質のウイルスゲノム上の複製起点への結合を,開発した人工DNA結合タンパク質で阻害するアプローチを開拓した。 実際,この人工DNA結合タンパク質遺伝子を組み込んだ植物は,植物DNAウイルスの感染に対して完全な耐性を示した。
(キーワード:DNAウイルス,ジェミニウイルス,ウイルス複製タンパク質,人工DNA結合タンパク質)
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飲み込みセンサで乳牛の健康管理
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 資源化システム研究チーム
石田 三佳
 高泌乳牛では,飼料給与に伴う第一胃(ルーメン)内の環境の変化による疾病の発生が懸念されており,第一胃内の恒常性を保つことが乳牛の生産性や健全性を維持する上で重要といえる。 そこで第一胃内の状態(pHや温度)を連続的に測定するバイオセンサを内蔵した無線式モニタリング装置の開発を進めている。 本装置の実用化により,牛体内の各情報が乳牛にストレスなく収集可能となり,飼養管理に有益であると考える。
(キーワード:ルーメン,無線,モニタリング,pH)
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サバにマグロを生ませる
東京海洋大学 海洋科学部    吉崎 悟朗
 筆者らは,精原細胞と呼ばれる精子の元になる細胞をニジマス精巣から取り出し,これをヤマメの孵化稚魚へと移植することで,雄ヤマメ宿主にニジマス精子を,雌ヤマメ宿主にニジマス卵を生産させることが可能であることを見出した。 さらに,不妊化処理を施したヤマメ稚魚に精原細胞を移植すれば,宿主ヤマメはニジマスの卵や精子のみを生産し,これらのヤマメ両親を交配することでニジマス次世代のみを生産することが可能であった。 本稿では本技術を用いたクロマグロ生産の可能性を紹介する。
(キーワード:始原生殖細胞,精原細胞,生殖細胞移植)
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若齢クロマグロからの大量採卵に成功
(独)水産総合研究センター 奄美栽培漁業センター    二階堂 英城
 水産総合研究センター奄美栽培漁業センターでは,クロマグロの親魚養成と種苗生産の研究開発に取り組んできた。 奄美では5歳魚以下のクロマグロ親魚から大量に採卵できた例はなく,長期間にわたる養成にかかるコストとリスクが問題であった。また,魚体が大きく,生きたまま扱うことができなかった。 そこで,2004年に太平洋および日本海で漁獲した天然幼魚を従来の数倍の養成密度に高めて飼育したところ,3歳となった本年に総採卵数1億6,000万粒の大量採卵に成功した。 これにより養成コストとリスクの軽減が可能となり,魚体が小さければ扱いやすく,人工授精などの可能性も開け,安定かつ計画的な採卵のための取り組みが可能となった。
(キーワード:クロマグロ,親魚養成,大量採卵)
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全国600ヵ所での「屋内型エビ生産」を目指して
株式会社アイ・エム・ティー妙高実験場    野原 節雄
 わが国の食料生産ビジネスは,今,大きく変わろうとしている。その流れは農業,畜産業だけではなく水産業にも押し寄せてきている。 新しい水産養殖のモデルとして「屋内型エビ生産システム(ISPS)」を紹介する。 このシステムは,これまでわが国の水産養殖では使われなかった垂直養殖,過飽和酸素供給,沈殿物回収などの新しい技術を導入し,安全・安心なエビを,事業性を確保して生産するものとなっている。
(キーワード:完全閉鎖循環式プラント,安全・安心な食料生産,持続的エビ生産,新事業創出)
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魚の鳴き声を聴いて資源を測る
(独)水産総合研究センター 水産工学研究所    赤松 友成
 漁業資源探査において計量魚探機などのアクティブな音響手段だけでは対象識別に限界がある。そこで,魚介類の声を受信して対象を識別しながら資源量を測る技術開発に着手した。 始まったばかりのこのプロジェクトは,水産生物鳴音の収集およびデータベース構築を進めている段階である。 わが国周辺のような多魚種海域で,同時に複数個体の鳴音を観測し,資源量推定と種判別の双方を同時に実現することを目指している。
(キーワード:生物音響,受動的音響技術,パッシブソナー,魚の声)
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生ゴミ・糞尿から輸出用無機肥料を生産
−「黄金の水」返還計画−
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 野菜IPM研究チーム    篠原  信
 化学肥料で食料を生産し,アメリカから日本に大量輸出するという一方通行的な物質の流れは,持続可能ではない。 日本で大量に排出される有機性廃棄物をアメリカの大地に戻し,物質循環を図らねばならない。 そのためには有機性廃棄物を無機化し,輸送・保存の容易な無機肥料に変換する技術が必要である。それを可能にしたのが,並行複式無機化法である。 この技術によって有機性廃棄物を原料に無機肥料を製造することができ,アメリカの耕地に還元するという,地球レベルの物質循環が可能になる。
(キーワード:並行複式無機化法,物質循環,資源リスク,硝酸態窒素)
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エネルギー作物イネのホールクロップ利用バイオエタノール化
−日本型モデル構築によるライス・ルネサンス−
東京大学大学院 農学生命科学研究科    森田 茂紀
 地球温暖化対策としてバイオエタノールの生産が急速に進んでいるが,原料の作物をめぐって食料とエネルギーとの競合が生まれ,食料品の値上がりが始まっている。 また,原料作物の栽培に伴う環境破壊も危惧されている。 私たちは,バイオエタノールの生産に関する日本型モデルを構築して世界に発信すべきである。 それは,休耕田などを利用してエネルギー作物としてのイネを栽培し,これをホールクロップ利用してバイオエタノールを作るというものである。 これが実現すれば,地球温暖化対策だけでなく,水田の保全,雇用の創出,農村振興を実現できるライス・ルネサンスの時代が到来する。
(キーワード:イネ,バイオエタノール,農村振興)
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ソフトバイオマスからのバイオ燃料製造
(財)地球環境産業技術研究機構(RITE) 微生物研究グループ    城島  透・湯川 英明
 トウモロコシを原料としたバイオエタノールの生産は限界に近づいており,ソフトバイオマス(リグノセルロース系バイオマス)を原料としたバイオエタノール生産法の開発が急がれている。 また,次世代バイオ燃料として注目されるバイオブタノールは,燃料としてエタノールに勝る性質を有していることから,その製造法開発が大いに注目されている。 筆者らの開発したRITEバイオプロセスは,ソフトバイオマスからの燃料生産に必須な特性を有しており,実用化に向けた検討を進めている。
(キーワード:バイオエタノール,バイオブタノール,ソフトバイオマス,RITEバイオプロセス)
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