Vol.31No.5
【特 集】 地球温暖化に挑戦する農業


温暖化環境における作物生産のあり方と展望
(独)農業環境技術研究所 大気環境研究領域    長谷川 利拡
 CO2を始めとする温室効果ガスの濃度上昇は,温暖化とそれに伴う環境変動を通じて,世界の農作物生産に大きな影響を及ぼす。 大気CO2濃度の上昇は,光合成を促進して農作物の成長と収量を増加させるが,温度の上昇は,寒地における低温ストレスの発生頻度を低下させるものの, 一般には生育期間の短縮,高温障害の増加により農作物生産を減少させる方向に働く。将来の気候予測の不確実性に加えて, 環境変化が実際の圃場や地域における作物生産に及ぼす影響にも多くの不確実要因が関与する。ここでは,高CO2濃度や温度上昇による作物生産への影響を実験およびモデル研究の結果を交えて紹介し,適応のための方向性を考察する。
(キーワード:気候変化,高温ストレス,作物収量,大気CO2濃度)
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水循環変動が農業水利用に及ぼす影響と対策
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 農地・水質資源部    増本 隆夫
 モンスーンアジア地域の水資源や農業水利用は多様性を持っているが,そのモデル化の試みについて論述した。 さらに,地球規模の水循環変動や地球温暖化に対して,モデルを用いてその影響評価をどのように行い,またその対策に農地水利用の持つ多様性と持続性をいかに利活用するかの実例について紹介した。
(キーワード:モンスーンアジア,地球温暖化,影響評価,農業水利用,温暖化対策)
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水稲の作柄・品質低下に及ぼす温暖化の影響と対策
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
地球温暖化研究チーム    森田 敏
 近年,西日本を中心とした広い地域で水稲の作柄・品質が低下する高温登熟障害が頻発しており,その背景の1つに気候温暖化があると懸念される。 高温登熟障害を軽減する対策技術には,1)登熟期の高温を避ける,2)高温になっても耐える,という2つの考え方がある。 また,別の視点として,1)水稲の作付け時など,登熟期が高温になるかどうか分からない段階であらかじめセットしておく予防的な技術と,2)高温が発生してから,あるいは高温の発生リスクが相当高まってから施す対症療法的な技術の2つの考え方がある。 本稿では,水稲の作柄・品質に及ぼす高温の影響に関する知見を示しつつ,上記の視点から対策技術を整理する。
(キーワード:水稲,登熟,高温,白未熟粒)
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温暖化に対応した麦類の出穂安定性の改良
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所 大麦研究関東サブチーム    塔野岡 卓司
 温暖地の麦類は,稲作との作期競合や入梅による雨害を避けるために早生化が進められてきた。しかし,近年の気候温暖化に起因する暖冬により,従来の早生品種では幼穂形成や茎立,出穂が早まり過ぎる傾向にある。 そのため,栄養生長期間の短縮や凍霜害の発生による収量の減少が懸念されている。暖冬でも茎立と出穂が早まり過ぎない早生品種の育成が必要となっており,春化要求性や日長反応性などの出穂に関わる形質の改良が進められている。
(キーワード:麦類,暖冬,安定早生,春化要求性,日長反応性)
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地球温暖化が果樹生産に及ぼす影響とその適応策
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 果樹温暖化研究チーム    杉浦 俊彦
 果樹は温暖化により大きな影響を受ける。リンゴ,ウンシュウミカン,ブドウの果実着色不良,果実軟化,貯蔵性低下,ほとんどの樹種で発生する日焼けなどの果実障害が顕在化している。 また,休眠期の温暖化により,施設栽培での発芽不良,地域間の開花期や収穫期の集中,凍霜害などが発生している。 これらに対し,品種や栽培技術によるさまざまな対策が検討されている。温暖化にはメリットもあり,その活用も検討されている。
(キーワード:着色不良,日焼け,休眠不良,凍霜害)
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野菜の結実不良など温暖化の影響とその対策−ナスの例を中心として−
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 野菜ゲノム研究チーム    本多 一郎
 ナスは比較的高温を好む野菜であるが,盛夏期などでは高温での花粉不稔や着果不良などにより減収するため,その栽培は困難であり,今後の温暖化の進行によりその栽培が困難な季節, 地域がより増加すると予想される。野菜茶業研究所がヨーロッパ型単為結果性ナスと日本型ナスの交配により育成中の単為結果性ナスには,高温での着果,果実肥大が優れる系統があることが最近判明した。 この特性には,日本型ナスが本来有する高着果性と,導入した単為結果性ナスの単為結果性の両形質が貢献していると考えられる。
(キーワード:ナス,単為結果性,着果性,石ナス性)
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畜産における温暖化の影響とその対策
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 畜産温暖化研究チーム    永西  修
 夏季暑熱が家畜の生産性に及ぼす影響とその対策技術については,今までにも九州や四国地域を中心に検討がなされてきた。 その中で,暑熱条件下では畜産物生産量が減少するとともに,畜産物の品質も低下することが示されている。 なかでも暑熱条件下での畜産物の品質改善に向けた取り組みはあまりなされてこなかったため,今後の重要なテーマである。一方,飼料自給率の低いわが国にとって, 気候変動に対応した安定した飼料生産を図ることは重要な課題である。 本稿では,暑熱環境が家畜や家禽の生産性に及ぼす影響評価と適応策に関する研究の現況と今後の展開方向について解説する。 さらに,飼料作物生産での温暖化研究を紹介する。
(キーワード:温暖化,家畜,飼料作物,影響評価,適応策)
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