Vol.31No.7 【特 集】 広げよう,イネの可能性,コメの利用技術 |
イネとコメの多面的利用技術の最前線 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所 低コスト稲育種研究チーム 根本 博 |
‘食の外部化・多様化’に対応するため,炊飯米用以外の新しい用途に適した水稲品種の開発が進んでいる。
既存のコメとは異なった粘りを持ち,加工米飯用に期待される低・高アミロース米,タンパク質組成を変えた低グルテリン米,
玄米の表面が紫色や赤色の有色素米,胚を大きくした巨大胚米,収量や飼料適性に優れた飼料用品種などが育成されている。
こうした品種の利用によって,コメの新しい需要が開拓されることが期待される。 (キーワード:新形質米,業務用米,多用途米,飼料イネ) |
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“夏ノ暑サニモマケヌ”九州・西日本期待の新品種 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 稲育種ユニット 坂井 真 |
暖地,温暖地の「コシヒカリ」,「ヒノヒカリ」などの銘柄品種への過度の作付け集中を解消するために,九州沖縄農業研究センターでは
「日本晴」熟期の「きぬむすめ」,「ヒノヒカリ」熟期の「にこまる」,「ユメヒカリ」熟期の「あきさやか」および「あきまさり」を開発した。
いずれも「コシヒカリ」,「ヒノヒカリ」と同等以上の食味特性と収量性を備えている。
「にこまる」は,高温条件下での米粒の充実が良く,玄米品質に優れ,「ヒノヒカリ」で問題になっている高温登熟による品質低下を軽減できる品種として期待されている。
「きぬむすめ」は「コシヒカリ」より,「あきさやか」と「あきまさり」は「ヒノヒカリ」より晩生で,熟期面で高温登熟を回避できる品種として作付けが広がりつつある。 (キーワード:水稲,育種,品質,食味,高温登熟) |
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北海道悲願の極良食味米品種 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター 低コスト稲育種研究北海道サブチーム 清水 博之 |
北海道では1980年から"優良米の早期開発試験"プロジェクトが開始され,「きらら397」,「ほしのゆめ」,「ななつぼし」などの良食味米品種が育成されてきた。
さらに最近では「おぼろづき」の育成により府県産ブランド米との食味の差は小さくなっている。
交配母本としては府県の良食味米品種のほか,アメリカ品種「国宝ローズ」や低アミロース突然変異系統「北海287号」を用いた。
これらの遺伝資源の持つ低アミロース性や低タンパク性を選抜できるDNAマーカーが開発されつつあり,今後の北海道の良食味米育種への適用が期待される。 (キーワード:北海道,稲,良食味,アミロース,タンパク) |
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新たな展開を見せる米の加工食品 |
新潟県農業総合研究所 食品研究センター 穀類食品科 吉井 洋一・中村 幸一 |
米の用途は主食を始めとして,酒,餅,米菓など,極めて多岐にわたるものの,米の消費量は依然として減少傾向にあり,米の用途拡大ならびに消費拡大が強く求められている。
これまで米の用途拡大策は種々の検討が行われてきており,その1つとして,当センターでは従来の粒食から一旦粉にしたのち食品への加工を行う米の粉食化の観点から,
小麦粉用途への適性が高い微細米粉の製造技術を確立し,米粉パンとして地産地消の拡大に貢献している。
加えて,機能性に着目した発芽玄米や簡便調理に対応した加工米飯の生産量も拡大しつつある。 (キーワード:米,粉食化,米粉,米加工食品) |
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医薬品としてのイネの育成 |
(独)農業生物資源研究所 遺伝子組換え作物開発センター 高岩 文雄 |
医薬品を植物で生産する場合,目的成分を大量に植物中で蓄積させるシステムの構築が極めて重要である。
植物をバイオリアクターとして医薬品などの有用物質を生産する分子農業は,植物が光合成を行うことから,微生物や昆虫・動物などの生産システムと比較して,
低エネルギー,安全,クリーンで,さらに安価かつ大規模に目的産物を生産できる,などの点で多くの利点を有している。
また種子などの食用組織で生産し,抽出・精製することなく直接経口で摂取する"食べるワクチン"は,培養細胞などの物質生産システムと比較して,
有効性,安定性,安全性および経済性に優れており,植物特有な生産システムを提供する。 (キーワード:食べるワクチン,組換え米,バイオリアクター,分子農業) |
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飼料イネの栽培と利用法 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業研究センター 関東飼料イネ研究チーム 石田 元彦 |
飼料イネを収穫時に穂と茎葉を一緒にロールベールに梱包し,ラップフィルムで被覆,密封して作る稲発酵粗飼料および玄米の利用について述べる。
飼料イネは湛水直播しても乾物1.6t/10aの高い収量を得ることができ,家畜糞尿の液肥は追肥として利用できる。
牛に与えやすいように,イネを細かく切断して稲発酵粗飼料に調製できる収穫機が開発された。
稲発酵粗飼料は乳量の高い乳牛にも給与でき,肥育牛に与えると牛肉の品質やおいしさが向上する。飼料米については,乳牛,肥育牛,鶏(肉用,産卵用),肥育豚に給与した試験研究を紹介する。 (キーワード:飼料イネ,稲発酵粗飼料,飼料米,牛,豚,鶏) |
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バイオマスとしてのイネの育成と生産・利用 |
東京農工大学農学部 共生科学技術研究院 生命農学部門 大川 泰一郎 |
バイオ燃料などのバイオマス資源作物の1つとして,水田を有効利用できるイネが注目されている。
従来の多収性食用・飼料用品種および遺伝資源などを利用して,収量性,バイオマス生産性,倒伏抵抗性,糖化性などの優れた新しいタイプの品種を育成する必要がある。
これまでに,倒伏抵抗性に関与する形質の精度の高い検定方法を確立し,この検定法を利用して初期世代で個体選抜を繰り返し行った結果,長稈品種に極強稈性が付与され,
長稈品種の弱点であった倒伏抵抗性が向上した。長稈品種への倒伏抵抗性の付与により,食用,飼料用だけでなくバイオマス資源として利用可能なバイオマス生産量の高い品種の開発が期待できる。 (キーワード:イネ,長稈品種,倒伏抵抗性,強稈性,バイオマス) |
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