Vol.31No.11 【特 集】 養殖場環境の評価と環境保全型漁業の将来展望 |
底質環境の変化からみた養殖許容量の考え方 |
大分県農林水産研究センター水産試験場 宮村 和良 |
魚類養殖場における過剰な有機物負荷は養殖漁場の悪化をもたらし,有害赤潮や魚病の蔓延を助長する要因となっている。
そこで本研究では,新規漁場の投餌量,底質環境を調査し,「漁場のAVS―Sが対前年比で増加しなければ,
当該漁場の負荷量は海域における自浄作用の範囲内に留まっていると見なす」との考え方を提唱し,
漁場における自浄作用の範囲内に収まる適正投餌量を算定する手法を提案した。 (キーワード:硫化物,投餌量,養殖,ベントス,適正) |
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硫化物量を指標とする養殖漁場環境の評価手法 |
愛媛県農林水産研究所水産研究センター 小泉 喜嗣 |
給餌養殖では,過剰な有機物汚染が養殖漁場環境の悪化をもたらし,有害赤潮や魚病の蔓延を助長する"自家汚染"が問題視される。
生産基盤である海の環境悪化を阻止するため,西日本沿海3県の養殖漁場から得られた表層堆積物と海底に生息する生物データを用いて,
"硫化物量を指標とした養殖漁場環境の評価"を試みた。
硫化物は測定が容易な環境指標であり,これらにより生産者自らが実践可能な"環境に優しい持続的な養殖生産"への転換が期待される。 (キーワード:養殖漁場,環境指標,底生生物,硫化物,評価手法) |
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数値シュミレーションによる魚類養殖場の環境評価 |
(独)水産総合研究センター養殖研究所 阿保 勝之 |
魚類養殖が環境へ与える影響は大きい。養殖魚に与えた餌のうち,魚肉として収穫されるのは31%であり,その他は溶存物質,
残餌および糞として環境中へ放出される。海水中に放出された溶存物質は海域の富栄養化の原因となる。
海底へ堆積した養殖由来の有機物は,好気的および嫌気的に分解され,海底における硫化物の生成や貧酸素化の原因となる。
数値シミュレーションは,魚類養殖場の環境評価のためのツールの一つである。養殖由来有機物の分散,堆積,分解などの各過程を定式化することにより,
養殖に伴う水質,底質の環境変化や養殖場の環境容量(養殖許容量)を推定することができる。 (キーワード:魚類養殖場,環境負荷,底質環境,数値計算モデル) |
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魚類養殖場における残餌と糞の定量と適正給餌 |
(独)水産総合研究センター養殖研究所 横山 寿 |
飼料高騰の中,魚類養殖の残餌を最小限にとどめることは経営にとっても環境にとってもプラスとなる。
しかし,これまで養殖現場で残餌や糞を定量する方法がなく,給餌量が適正か否かを評価できなかった。
筆者の研究グループは炭素・窒素安定同位体比を用い,沈降物や堆積物中に含まれる残餌と糞の定量法を開発した。
さらに,堆積物中の残餌が糞量に比して多く含まれる漁場において給餌量を2割削減した現場実験を行い,通常給餌区と比べマダイの成長に差がなく,
堆積物への残餌の蓄積が減少することを確認した。 (キーワード:魚類養殖,適正給餌量,残餌,糞,安定同位体) |
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魚類養殖の給餌に伴う有機物負荷と海底堆積物の化学的特性 |
和歌山県日高振興局 上出 貴士 |
魚類養殖の給餌に伴う消化過程及び残餌・糞の排出収支,それによって生じる海底堆積物の化学的特性について紹介する。
MP飼料の給餌ではEP飼料の2.4倍の懸濁物が排出され,特に残餌としての負荷が多かった。
EP飼料の場合,残餌に含まれる窒素は全懸濁態排出窒素のほぼ過半を占め,糞としての排出が多い炭素やリンとは違った。
このことから残餌の削減は窒素負荷軽減に有効と考えられた。
また,魚類養殖漁場の海底堆積物には高濃度のリンが蓄積されており,その主成分はカルシウム結合型リンであった。
EP飼料の主成分である魚粉に含まれるリン酸カルシウムが高濃度のリンの由来と考えられた。 (キーワード:魚類養殖,有機物負荷,懸濁態排出物,窒素,リン) |
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海藻類の栄養塩吸収能力を利用した魚類養殖漁場水質の浄化 |
和歌山県農林水産総合技術センター水産試験場 奥山 芳生・木村 創 |
魚類養殖による漁場への環境負荷は養殖魚の尿,残餌や糞からの窒素,リンの溶出によるもので,養殖漁場の富栄養化の一因として問題となっている。
しかし,窒素やリンは海藻類の生長にとって極めて有効な成分であることから,
本研究では魚類養殖と海藻類の養殖を同時に行う複合養殖によって環境負荷を軽減することを目的に,和歌山県の漁場環境に適した複合養殖の対象藻類の
探索を行った。その結果,高水温期はアオサまたはセイヨウオゴノリを,低水温期はヒロメを用いることにより効率的に窒素,リンを吸収できることがわかり,
それら用いた複合養殖における水質浄化効果を検討した。 (キーワード:複合養殖,窒素・リンの吸収,水質浄化効果) |
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