Vol.35 No.5
【特集1】 第7回若手農林水産研究者表彰


湯通しワカメおよびコンブの迅速塩漬技術の開発
地方独立行政法人 岩手県工業技術センター     小野寺 宗仲
 湯通しワカメやコンブ(マコンブ)に40%の食塩を加え,タンク中で重石をし1〜2昼夜塩漬するのが従来の塩漬法であるが,連続的な生産ができず,塩漬後のタンク揚げ作業や洗い作業が重労働であった。この塩漬工程の短縮化を目的に,飽和食塩水中で海藻を攪拌しながら塩漬する塩漬装置を民間企業と共同開発した。最後まで飽和濃度を維持することにより,500kgの湯通しワカメやコンブの塩漬は1時間以内で完了した。2008年に販売を開始したところ,塩からめ機,塩漬タンク,洗いは不要となり,脱水(芯抜き)後に出荷できるため生産者からの評価は高い。東日本大震災以降の受注も多く,2012年の春には200台が稼働している。本研究成果は三陸ワカメやコンブの復興に大きく貢献した。
(キーワード:湯通しワカメ,湯通しコンブ,塩漬装置,飽和食塩水,攪拌)
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マイコウイルスを利用した植物糸状菌病防除に関する研究
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所    佐々木 厚子
 植物の糸状菌病害から発見されたマイコウイルスには,感染してその病原力を低下させるものが知られている。しかし,様々なマイコウイルスを人為的に感染させる技術はほとんど存在せず,有望なマイ コウイルスが見つかっても利用が極めて困難な状況であった。そこで,本研究では果樹の難防除土壌病害である白紋羽病菌を対象とし,マイコウイルス感染株からウイルスの純化粒子を得て,これを健全株から 調製したプロトプラストに導入して菌糸へと再生させることによって,任意のマイコウイルスを白紋羽病菌および他の糸状菌病害に感染させることを可能とした。
(キーワード:マイコウイルス,白紋羽病菌,プロトプラスト,純化粒子)
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市場評価を取り入れた豚肉および牛肉の品質評価法の基準化に関する研究
地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所    西岡 輝美
 食肉市場において,豚肉や牛肉は格付員や食肉業者によって品質が評価される。このなかでも脂肪は,食肉の品質を左右する重要な因子である。しかし,現在のところ脂肪の品質を評価する客観的な基 準がなく,市場評価をそのまま食肉の品質向上に活かすことが難しい。そこで,豚肉や牛肉の脂肪に着目し,食肉市場における品質の調査を行い,豚,牛ともに個体差が大きいことを明らかにするとともに,市場 での評価を反映させた客観的な品質評価基準を示した。
(キーワード:豚肉,牛肉,脂肪,品質評価,エコフィード)
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地震・洪水に強い堤防・水路護岸等の盛土の補強技術の開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所    松島 健一
 ため池,堤防など土を突き固めた盛土構造物は,越流すると容易に侵食され,破堤に至ると大規模な二次災害を引き起こす。このような問題に対して筆者らは簡便かつ耐久性の高い盛土を構築するた め,応急復旧に用いられる土のうに着目し,地震・洪水に強い盛土の新しい補強技術を開発した。本研究では,土のうの形状や載荷方向等に様々な工夫を凝らした実験を行い,土を効果的に補強する方法を 確立した。さらに,この基本技術を応用し,実規模大の震動実験および越流実験により耐久性を調べた。その結果,従来の盛土に比べて耐震性,耐侵食性が飛躍的に向上し,兵庫県南部地震を上回る地震や, 実規模の洪水レベルの越流に耐えられることがわかった。現在,地震や洪水で決壊したため池の強化復旧や途上国のインフラ整備等に導入され始めている。
(キーワード:土のう,洪水,地震,盛土,自然災害)
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モノクローン抗体を用いたイムノアッセイによる口蹄疫診断技術の高度化に関する研究
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所    森岡 一樹
 口蹄疫ウイルスの血清型O,A,CおよびAsia1と特異的に反応するモノクローン抗体,および口蹄疫ウイルスの全血清型に共通して反応するモノクローン抗体を作製して,口蹄疫ウイルス抗原検出用E LISA,抗原検出用イムノクロマト法(簡易抗原検出法)および口蹄疫ウイルス感染抗体検出ELISAなどの抗原抗体反応を利用したイムノアッセイに応用し,口蹄疫診断技術の高度化を推進した。本成果を用い ることにより,今までより特異的かつ迅速な診断を可能とし,早期防疫が期待される。
(キーワード:口蹄疫,血清型,モノクローン抗体,抗原検出法,抗体検出法)
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Vol.35 No.5
【特集2】 2011年農林水産研究成果10大トピックス


人類が目にした初めてのウナギ卵−ウナギ産卵場2000年の謎を解く−
東京大学大気海洋研究所    塚本 勝巳
 1973年から約40年間ウナギ産卵場調査に取り組んできた東京大学は,2008年より水産総合研究センター・水産庁・他5研究機関とともに,マリアナ諸島沖で大規模なウナギ研究航海を展開した。その 結果,2009年5月の新月,西マリアナ海嶺南端部において世界初となる天然ウナギ卵の採集に成功した。これは東アジア全体に広く分布するニホンウナギの産卵場の位置と産卵タイミングを厳密に特定する 決定的証拠となった。これらの知見は,人工シラスウナギの種苗生産技術の開発に大きなブレークスルーをもたらすと同時に,世界的に激減したウナギ資源の保全と国際管理のための貴重な科学的根拠になる と期待される。2011年のNature Communications誌に発表された論文の概要を中心に述べる。
(キーワード:ウナギ,天然卵,産卵生態,新月仮説,海山仮説)
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放射性セシウムに汚染された農地土壌の除染技術開発・実証
農林水産技術会議事務局    安東 郁男
 農林水産省は,関係省庁と連携して,農地土壌の除染技術の開発・実証を行い,8月までに研究機関で得られた成果を基に,地目,圃場の状態(耕起の有無),放射性セシウム濃度に応じた農地土壌除染 の技術的な考え方を9月に公表した。引き続き様々な研究機関で農地土壌の除染に必要な研究・開発を実施中である。
(キーワード:農地土壌,放射性物質,セシウム(Cs),除染,除去技術)
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口蹄疫の簡易迅速・低コスト診断:迅速な行政対応を目的としたmultiplex RT-LAMP法の開発
宮崎大学農学部    山崎 渉・三澤 尚明
 口蹄疫の感染拡大を防ぐには,初発例を迅速かつ確実に診断した上で遅滞なく殺処分し,早期に封じ込めることが重要である。それゆえ簡易・迅速かつ低コストの検査法であるmultiplex RT―LAMP法を用いた口蹄疫の診断法を開発した。牛豚由来の286臨床検体を使用して,OIEの推奨するリアルタイムRT―PCR法と比較を行った結果,我々が開発したmultiplex RT―LAMP法はリアルタイムRT―PCR法と同等の診断能力を有することが明らかになった。本診断法はバイオセキュリティ上の問題を回避できる安全な遺伝子検査であり,口蹄疫の一次スクリーニング法として 有用であることが示唆された。
(キーワード:Multiplex,RT―LAMP,口蹄疫,遺伝子検査,行政対応)
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水田利用除草ロボット「アイガモロボット」の開発
岐阜県情報技術研究所   光井 輝彰・田畑 克彦 ・藤井 勝敏・横山 哲也・遠藤 善道
岐阜県中山間農業研究所 広瀬 貴士
みのる産業株式会社 陶山 純
株式会社常磐電機 葛谷 和巳
岐阜大学応用生物科学部 大場 伸也
岐阜県農政部 吉田 一昭
岐阜県岐阜農林事務所 神田 秀仁
 化学合成農薬の使用量を低減し,環境にやさしい農作業を実践する現場では,雑草対策が大きな課題となっている。そこで,ロボット技術を応用した新たな除草手段として,水田用除草ロボット(アイガモロボット)の研究開発を開始し,除草効果とロボットの各種改良を進めてきた。そして平成23年度は,農家の現地圃場においてシーズンを通したロボットの運用を行い,本除草技術の実用性について検証を進めた。これらの結果を基に現在も研究開発を進めており,研究終了後の平成25年度に実用化を目指している。 (キーワード:水田除草,ロボット,自律走行,株間除草)
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ジャガイモシストセンチュウふ化促進物質の化学合成−環境調和型シストセンチュウ駆除剤への期待−
北海道大学大学院理学研究院    谷野 圭持
 ソラノエクレピンAは,ジャガイモシストセンチュウ(PCN)のふ化促進物質としてバレイショから発見された微量天然有機化合物である。国内外での活発な合成研究にも関わらず,極めて複雑な分子構造 を有するためにその合成は困難を極めていた。筆者らは独自の戦略に基づき,市販の化合物から52回の有機合成反応を経てソラノエクレピンAの世界初の化学合成に成功した。生物試験において,合成品は 極めて低濃度でふ化促進活性を示したことから,PCN根絶を目指した応用研究が期待される。
(キーワード:シストセンチュウ,ソラノエクレピン,グリシノエクレピン,全合成,ふ化促進物質)
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ピーマンモザイク病を予防する植物ウイルスワクチンの開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター    小粥 理絵・北條 絢美・津田 新哉
 土壌くん蒸用不可欠用途臭化メチル剤は2012年末日で全廃される。それ以降に備え,トウガラシマイルドモットルウイルス(PMMoV)に高い干渉能を持ち,ウイルス抵抗性遺伝子L3を有したトウガラシ 類でも機能を発揮する植物ウイルスワクチンL3―163株を開発した。圃場での実用化試験において,ワクチンを接種したピーマンに対し強毒ウイルスで汚染した摘果ハサミで管理作業を行っても感染は皆無で あった。また,茨城県農家圃場でL3―163株の経済性評価を行ったところ,収穫量に健全苗と有意な差はみられなかった。現在,このワクチンは,脱臭化メチル全廃後の普及に向けて生物農薬登録を申請してい る。
(キーワード:生物防除,PMMoV,弱毒ウイルス,干渉効果)
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ミツバチの幼虫を女王バチに成長させるタンパク質の発見
富山県立大学工学部    鎌倉 昌樹
 ミツバチは女王バチと働きバチからなる階級社会を形成している。これまでに女王バチへの分化のしくみについては全く明らかになっていなかったことから,ミツバチの女王バチ分化誘導機構を解析した 結果,ローヤルゼリー中に含まれる成分「ロイヤラクチン」が上皮増殖因子受容体を介して女王バチへの分化を誘導することを新たに見出した。今回の研究成果は,女王バチ安定供給のための新たな飼育法 の開発につながるものと期待できる。
(キーワード:ミツバチ,女王バチ分化,ロイヤラクチン,ローヤルゼリー,ショウジョウバエ)
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乳心白粒の多発を予測する装置−収穫前の玄米横断面内部の白濁から読み取る!−
(独)農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター    森田  敏
株式会社ケツト科学研究所    江原 崇光
 近年,夏から秋にかけての高温などの不良気象条件により,西日本を中心に水稲の白未熟粒が多発している。2007年には九州南部の早期水稲で,日照不足と台風により乳白粒あるいは心白粒(以下,乳心白粒とする)が激発した。こうした気象被害に対し農業共済制度の適用を受けるには,被害調査の体制準備のため収穫前10日頃には農家が被害申告を行う必要があるが,2007年の場合,稲の外観からは被害を予想できなかったため申告が行われず,多くの農家が被害補償を受けられなかった。そこで,筆者らは乳心白粒の発生推定技術の開発に取り組んだ。その結果,収穫前の未熟な玄米でも,玄米横断面内部にデンプン蓄積の粗い白濁部があり,その周囲が透明化しているという特徴が見出されれば,乳心白粒になると推定できることがわかった。この判断基準を元に,玄米切断装置,横断面の撮像装置(スキャナー),画像解析ソフトから構成される機器の開発を行った。
(キーワード:水稲,乳心白粒,玄米横断面,気象災害,被害推定,温暖化)
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DNAマーカー選抜による根こぶ病と黄化病に抵抗性のハクサイ新品種「あきめき」の育成
(独)農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所    松元 哲・畠山 勝徳
株式会社日本農林社    高下 新二・宮崎 俊夫・近藤 友宏
 ハクサイの生産量は,消費の減少に加えて生産面での問題点として重量野菜であることや難防除の病害の存在などから,減少傾向にある。特に根こぶ病と黄化病はハクサイ栽培にとって防除が難しく,抵抗性品種の育成が望まれている。農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所と株式会社日本農林社は,DNAマーカー選抜技術により多様な根こぶ病菌および黄化病に対して抵抗性を有するハクサイ新品種「あきめき」を育成した。「あきめき」の育成により,マーカー選抜による根こぶ病抵抗性育種が今後より効率的になることが期待できる。
(キーワード:根こぶ病,黄化病,ハクサイ,DNAマーカー,抵抗性育種)
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藻類バイオマスエネルギー資源開発研究の技術開発動向
筑波大学    渡邉 信
 バイオマス燃料資源としての藻類について,バイオアルコール,オイル(トリグリセロール,炭化水素)およびバイオガス(水素とメタンガス)生産に関して,最近の主要な知見をまとめた。バイオアルコール生産については,ピルビン酸デカルボキシラーゼとアルコールデヒドロゲナーゼをコードするDNAがくみこまれたシアノバクテリアのSynechococcusを使った技術が,オイルでは,緑藻Botryococcusやラビリンツラ類Aurantiochytriumなどの炭化水素産生藻類の実用化技術が,水素ガス産生では緑藻Chlamydomonasを使った技術が注目される。オイル産生藻類のほとんどはトリグリセリロールを産生するが,運輸燃料としての利用を考えた場合に,それから側鎖型炭化水素に効率よく転換する技術の開発が必要とされる。微細藻類は極めて有望なメタンガス生産の原料とみなされるが,産業化技術開発が今後の課題となる。
(キーワード:微細藻類,バイオアルコール,トリグリセロール,炭化水素,水素ガス,メタンガス)
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