Vol.35 No.11
【特 集】 加工・業務用野菜の品種および生産技術開発


加工用野菜生産技術開発の課題とポイント
(独)農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所    岡田 邦彦
 加工・業務用野菜のなかでも,技術開発による対応が重要なのは加工用野菜である。対応すべき要素として,一般的な青果品とは異なる品質・規格や端境期解消,生産安定,低コスト生産が挙げられ,こ れらに対しては,新たな品種育成と新栽培体系の開発,栽培様式の改変,新作型,生育予測に基づく協調的出荷システムおよび収穫作業を中心とした機械化や収穫体系の改善などによる省力生産体系の開発 が重要である。
(キーワード:加工用野菜,端境期,出荷予測システム,機械収穫,省力生産)
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加工用トマト黄化葉巻病抵抗性品種の開発
カゴメ株式会社 総合研究所    伊藤 博孝・中村 浩介・小野 里歩・金原 淳司
 トマト黄化葉巻病が国内で健在化する以前に,台湾におけるカゴメグループ契約産地において本病害の被害が拡大し,深刻な事態となった。Ty―2保有の抵抗性品種を開発,導入したことで被害は収束 し,単収は本来の水準まで回復した。ところが,これまで台湾にはなかった異なるタイプのウィルスが広がり,Ty―2では効果が低いことがわかった。現在Ty―1,Ty―2およびTy―3を複合保有した品種の開発を 進めている。今後国内および海外の他の産地においても被害が広がる可能性があり,またウィルスにより効果的な抵抗性遺伝子が異なることから,様々な抵抗性遺伝子を保有した育種素材の開発が重要と考 える。
(キーワード:トマト黄化葉巻病,TYLCV,ToLCV,抵抗性品種,感染性クローン)
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スライス等業務用トマト品種の育成
愛知県農業総合試験場    大藪 哲也
 スライス等の業務用に適したトマト品種を育成するために,育種素材としてオランダの品種「グレース」と愛知県農業総合試験場で育成した単為結果性系統「MP」を用いた。育種目標は,単為結果性を保 有し,多収性で,業務・加工用需要に適する果実形質を有することとした。果実形質は,容易に測定できる果重,子室数および果肉厚によって選抜を行い,系統を育成した。6系統を用いたF1組合せ検定の結果 ,「試交10―2」が安定した単為結果性を示し,良果収量が多く,業務用に適する果実形質を持ち,病害抵抗性も優れていた。
(キーワード:トマト,業務用,スライス,品種,単為結果性)
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高品質キャベツの端境期解消による周年供給
神奈川県農業技術センター    高田 敦之
 キャベツは,各産地のリレー出荷により周年供給が実現しているが,春キャベツの収穫時期にあたる4〜5月は,抽苔等の問題から寒玉系キャベツは作られず,端境期になっている。近年,外食・中食が 増え,キャベツ消費の約半分を占めるようになった加工・業務用には,葉質が硬く,歩留まりのよい寒玉系キャベツが求められている。そこで,新たに育成された品種を用いた夏まき4月どりおよび秋まき5月ど りの作型開発,ならびに実需者等との連携による加工適性評価による寒玉系キャベツの端境期解消技術の開発を行った。
(キーワード:寒玉系キャベツ,加工適性,在圃性,抽苔)
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加工・業務用タマネギの品種開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター    室 崇人
 タマネギは約6割が加工・業務需要で消費されているが,国内産地の対応は鈍い。不足分は海外から輸入されているが,その量は国内消費量の25%にも及ぶ。こうした状況の打破に向けて,加工需要タマ ネギの利用実態を調査し,加工歩留まりに関連する特性を明らかにした。得られた情報をもとに品種育成に取り組み,国内初の加工専用品種「北交1号」を開発し,「北見交54号」を育成した。また,低コスト栽培 の実現に向けて,直播栽培における問題点を整理して,改善に向けた技術開発を検討している。国内産地全体で,加工需要に向けたタマネギ生産に取り組む必要があり,輸入品から国内シェアを奪回すること が課題である。
(キーワード:タマネギ,加工・業務用需要,加工歩留まり,加工用品種)
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加工時に黄変しないダイコン新品種の開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所    石田 正彦・森光 康二郎
 わが国の主要農産物の一つであるダイコンは,その60%が加工・業務用途で消費されている。ダイコンの主要な加工品として漬物が挙げられるが,ツマやおろし,おでん等の加工用原料としての利用が 増加している。一部の大根加工品では,貯蔵時に生じる黄変やたくあん臭が品質保持上大きな問題となっていた。2012年に育成した「だいこん中間母本農5号」は,黄変やたくあん臭の起因成分である4―メチ ルチオ―3―ブテニルグルコシノレートを含まない,画期的なダイコン品種である。本品種を育種素材として利用することで,黄変やたくあん臭が生じない大根加工品の創出が可能な新たな品種を育成すること ができる。
(キーワード:大根,加工品,育種,実需,6次産業)
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ホウレンソウなど軟弱野菜の加工向け専用収穫機の開発と普及への取り組み
株式会社ニシザワ    西澤 准一
 ホウレンソウなどの軟弱野菜については,加工用にも青果用と同様に根付きの手取り収穫を行っている生産現場が多く,収穫作業に時間と労力を費やし,栽培規模拡大のネックにもなっていることから, 輸入品との価格差が極めて大きい。そこで,ホウレンソウなど軟弱葉菜類を対象として,加工向け出荷専用の収穫機MNSH―1300を開発した。
(キーワード:ホウレンソウ,加工用野菜,軟弱野菜,収穫作業機)
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