Vol.3 No.5
【特 集】 カンキツグリーニング病の根絶に向けた技術開発の現状


カンキツグリーニング病の根絶に向けた技術開発の現状
農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所     岩波 徹
 カンキツグリーニング病の発生を2002年に確認した鹿児島県では,感染樹を効率よく発見するための手法を模索してきた。その手法として,感染危険率(伝染圧評価値)に応じて,サンプル採取の労力を配分するという方法を開発した。伝染圧評価値を感染樹の存在期間と感染樹からの距離により推定し,その評価値を3階級(軽,中,重度)に分類した。伝染圧階級と,伝染圧を計算した時点から2年間に感染樹が確認される危険率をオッズ比により評価した。その結果,中度と重度の区画では,軽度の区画に比べて,感染危険率がそれぞれ7倍と42倍高かった。本稿では,感染危険率の求め方と,それを活用した取組を紹介する。
(キーワード:カンキツグリーニング病,地理情報システム,感染危険率,モニタリング)
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病原細菌の培養による検出感度の向上
農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所    藤川 貴史
 カンキツグリーニング病原細菌は難培養性であることから,現在感染樹の検出は遺伝子診断に頼っている。そのため病原細菌が偏在していたり低密度であったりする場合に偽陰性になりやすく,また感染樹に内在する雑菌などの原因によっても検出感度の低下が見られる。そこで本病原細菌の選択培地を開発することで,感染樹の特定を容易にすることが期待できる。著者は本病原細菌のゲノム情報や細菌生理学的,植物生理学的知見を活用して,選択性の高い人工培地を開発することができた。この培地を用いて感染樹から分離される本病原細菌を培養し,遺伝子診断を行うことで現行の検出よりも高感度に検出できるようになった。
(キーワード:カンキツグリーニング病原細菌,培養,遺伝子診断,ゲノム情報)
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LAMP法を利用したカンキツグリーニング病の簡易検定
鹿児島県農業開発総合センター    福元 智博
 カンキツグリーニング病(CG病)の防除のためには,感染樹の早期発見と伐採が重要である。現在,病原菌の高精度な検出方法として定量PCR法が開発されているが,高純度のDNA抽出資材と専用の反応機器が必要なため,診断に要する時間と費用が問題となっている。そこで,CG病の高精度な遺伝子診断法としてすでに実用化されているLAMP法と,ミニホモジナイザーチューブを用いた病原体抽出法を組み合わせることで,CG病の簡易検定法(ダイレクトLAMP法)を開発した。CG病発生地において本法の実用性を検証した結果,検出感度は定量PCR法に劣るものの,検定時間およびコストが削減され,安価な機器で実施できることから,現場における簡易検定法として活用可能であると考えられた。
(キーワード:LAMP法,省力化,簡易遺伝子検定,ミニホモジナイザーチューブ)
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潜伏感染樹からの再拡大を防止するための最小薬剤使用量の推定
鹿児島県農業開発総合センター    宮路 克彦
 カンキツグリーニング病の根絶対策地域では,潜伏感染などによりPCR検定をくぐりぬけた潜在的二次感染源からの再拡大が危惧されており,保毒ミカンキジラミが潜伏感染樹から発生しないように殺虫剤の通年使用が必要となっている。現行の散布回数(3回/年)の低減化を図るために,発生地域において,効率的な殺虫剤散布時期・回数を検討した結果,広域に,複数年,クロチアニジン水溶剤40倍液をゲッキツのみ年2回樹幹散布することで,ゲッキツおよび周囲のカンキツでのミカンキジラミの密度抑制効果が認められ,散布回数を低減できることが示唆された。また,ミカンキジラミが低密度であれば年1回処理でも効果が期待できる。
(キーワード:ミカンキジラミ,クロチアニジン水溶剤,樹幹散布,広域処理,カンキツグリーニング病)
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奄美群島におけるカンキツグリーニング病の感染拡大モデル
株式会社ペコIPMパイロット    浦野 知
 これまでわが国では,カンキツグリーニング病の感染樹の早期発見・除去と薬剤散布による周辺地域のミカンキジラミ抑制によって,この病気の根絶事業を遂行してきた。根絶作業の期間・規模の設定については,理論的な基礎が整備されておらず,感染樹発見の初期に調査と防除の区域を定めることが難しい。そこで,わが国の発生地に特化した感染拡大モデルを統計的手法により構築した。感染拡大モデルを用いて,感染地点より半径500m未満の伝播確率は約99%,500m以上の伝播確率は約1%であることが分かった。
(キーワード:感染確率,数理モデル,意思決定支援,要求分析,GIS)
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