Vol.4 No.7 【特 集】 光を利用した新たな害虫防除法"光防除"の新展開 |
光防除-光や色を利用した新しい害虫防除技術- | ||||||||
農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 霜田 政美 | ||||||||
近年,昆虫の光や色に対する応答反応の研究が進み,その特性を利用した防除技術である"光防除"が脚光を浴びている。野菜や果物の生産現場では,害虫の殺虫剤抵抗性の発達が大きな問題になっているが,光防除は,殺虫剤抵抗性の発達を抑制して,環境に優しい農業形態を確立するための一つの手段として期待されている。本稿では,光防除の基礎となる昆虫の視覚応答反応について概説するとともに,実用化が進んでいる光防除技術の事例を紹介する。 (キーワード:視覚応答反応,IPM,減農薬,環境保全型農業,LED) |
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昆虫の視覚メカニズム | ||||||||
総合研究大学院大学 先導科学研究科 蟻川 謙太郎・佐藤 綾・木下 充代 | ||||||||
害虫防除に光を使う場面は多い。紫外線を用いた電撃殺虫器や農業用ハウスの黄色蛍光灯照明は,昆虫が光に誘引されて寄って来る,いわゆる正の光走性を利用した技術である。光走性にはもちろん,複眼を受容器とする視覚系が深く関わっているが,これはいわゆる視覚機能─ものを"見る"という知覚機能─とは区別して考えることが多い。 光を使った高度な害虫防除を実現するためには,昆虫が見ている世界を理解しておくことが不可欠である。たとえば,夜行性の昆虫に色は見えるのか,視力はどの程度かなど,直感ではわかりにくい疑問も多い。本稿では,昆虫の視覚世界がいまどのように理解されているか,その概略を解説する。 (キーワード:複眼,形態視,色覚,動き知覚,偏光感覚) |
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昆虫の光受容に基づく波長選好性のモデル化 | ||||||||
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昆虫は光の波長組成という物理的な情報を視細胞で生理的な信号に変換し,その信号に基づき様々な行動を起こす。光受容から行動にいたるこの過程を数値化し,統計学的モデルで解析することで,光に対する昆虫の行動を予測する事ができる。光に対する基本的な反応である波長選好性を例に,モデル化の方法を紹介する。 (キーワード:光防除,モデリング,ブランコヤドリバエ) |
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紫外線カットフィルムによる害虫防除のメカニズム | ||||||||
農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門 太田 泉 | ||||||||
紫外線カットフィルムを被覆した施設では,アザミウマ類,アブラムシ類,コナジラミ類,ハモグリバエ類などの害虫の発生が抑制されるため,物理的防除資材として普及している。紫外線透過能が異なる農業用被覆フィルム下でオンシツコナジラミの移動行動を観察した結果,「野外に生息しているオンシツコナジラミは,紫外線カットフィルムを被覆した施設内への侵入が抑制され,侵入しても野外に向かって再び移動する」という行動パターンが推測された。これが紫外線カットフィルムによる害虫発生抑制メカニズムと考えられる。 (キーワード:紫外線,被覆フィルム,移動抑制,害虫防除) |
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青色光照射の概日リズム攪乱機構を活用した チャノコカクモンハマキ制御技術の開発 |
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農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 佐藤 安志 | ||||||||
チャや果樹の重要害虫であるチャノコカクモンハマキは,特定の時間帯に交尾する習性がある。これは本種の交尾行動が概日リズムに支配されているためである。そこで,夜間に人工光を照射して本種の概日リズムを攪乱し,交尾行動を抑制して次世代密度を制御することを考えた。本法は,野外茶園のチャノコカクモンハマキに対しても効果があり,ロープ状青色LEDを茶園に設置し夜間点灯すると,本種の交尾が妨げられ,次世代の密度が低下した。なお,本法には青色光が有効であり,黄色光や赤色光では本種の交尾行動抑制効果は認められない。 (キーワード:チャノコカクモンハマキ,行動制御,交尾阻害,物理的防除法,概日リズム) |
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青色光の照射殺虫効果 | ||||||||
東北大学大学院 農学研究科 堀 雅敏 | ||||||||
UVBやUVCといった短波長の紫外線は生物に強い毒性があることが古くから知られている。一方,可視光の毒性は紫外線と比べて非常に小さく,昆虫を含む比較的複雑な動物には致死効果はないとされてきた。しかし,筆者らは可視光の中でも短波長可視光(青色光)は昆虫に致死効果があることを発見した。また,青色光の効果的波長や有効光強度は昆虫の種により異なることも明らかにした。青色光を害虫の発生源に照射するだけで殺虫できるので,ケミカルフリーで安全性が高く,簡便な殺虫技術として,今後開発が進むことが期待されている。 (キーワード:青色光,殺虫,LED,害虫防除,可視光) |
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赤色系防虫ネットによるネギアザミウマ防除効果 | ||||||||
京都府農林水産技術センター 農林センター 徳丸 晋・上山 博 | ||||||||
ネギアザミウマに対して0.8㎜目合いの赤白,赤黒,赤赤,黒白,黒黒および白色の防虫ネットを用いて,成虫の侵入抑制効果を調べた。その結果,赤色系(赤白,赤黒および赤赤)の防虫ネットは白色の防虫ネットに比べて高い侵入抑制効果を示した。また,ネギほ場において試験を行った結果,赤白の防虫ネットで覆ったネギではネギアザミウマの寄生虫数および被害度が白の防虫ネットおよびネット無しのネギに比べて有意に少なく(低く)抑えられた。以上のことから,ネギアザミウマに対して赤色系防虫ネットは有効であると考えられた。 (キーワード:ネギアザミウマ,赤色防虫ネット,物理的防除,侵入抑制,防除) |
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赤色LED照射によるナスのミナミキイロアザミウマの密度抑制 | ||||||||
大阪府立環境農林水産総合研究所 食の安全研究部 柴尾 学 | ||||||||
ミナミキイロアザミウマは果菜類の重要害虫であり,多くの殺虫剤に対して抵抗性を発達させていることから,殺虫剤のみに依存しない総合的な防除対策が求められている。そこで,ナス植物体への赤色LEDの
照射によるミナミキイロアザミウマの密度抑制効果について検討した。環境農林水産総合研究所内の雨よけ網室で635nmおよび660nmの赤色LED光源をワグネルポット栽培のナス直上20cmの位置から光強度を3.0×>1017photons ・ (キーワード:ミナミキイロアザミウマ,ナス,赤色LED,照射,密度抑制) |
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昆虫走光性の特徴からみた光捕虫器の使用方法 | ||||||||
浜松医科大学 医学部 弘中 満太郎 | ||||||||
光捕虫器による捕獲は,昆虫の走光性反応にもとづいており,波長(色)や光強度,形,高さといった光源の視覚的属性や,その他の環境条件により大きく影響を受ける。それゆえ,光源の視覚的属性をうまく制御し,より適切な環境条件で光捕虫器を使用することで,その捕獲効率を高めることが可能となる。農業および食品産業で使用される光捕虫器を紹介すると共に,昆虫走光性の行動学的研究例から,光捕虫器に用いるべき光源の特徴や光捕虫器の設置場所など,より適切な使用方法について検討する。 (キーワード:昆虫走光性,光捕虫器,ライトトラップ,光源,視覚的属性,誘引) |
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色彩トラップの特徴と利用 | ||||||||
兵庫県立農林水産技術総合センター 農業技術センター 八瀬 順也 | ||||||||
色彩トラップは,「農作物の安全性」や「環境への配慮」に応える防除手段として広く利用されているとともに,より性能の高い資材の開発が期待されている。対象害虫であるアザミウマ類やコナジラミ類といった微小な昆虫は,決して高い性能とはいえない視力と飛翔能力にもかかわらず,色彩に対して驚くほど正確にアプローチしている。色彩トラップの利用には,資材の視認性が重要な要素であり,対象害虫の行動様式に合わせた設置方法と,色彩への定位をサポートする視覚コントラストを考える必要がある。 (キーワード:害虫,色彩,誘引,トラップ,物理的防除) |
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