Vol.4 No.10 【特 集】 調査研究が拓くクロマグロ安定供給の未来 |
特集のねらいと内容 |
水産研究・教育機構 西海区水産研究所 まぐろ増養殖研究センター 岡 雅一 |
太平洋クロマグロは,日本国民にとって重要な食材であり,その安定供給には大きな関心が寄せられている。このため,本種を将来にわたって食べ続けることができるように,関係者の絶え間ない調査,研究が行われている。本特集では,太平洋クロマグロに関係する生態,漁業,資源管理,養殖技術,ゲノム情報,加工の幅広い分野の専門家から,調査研究の現状と展望を解説いただいた。 (キーワード:太平洋クロマグロ,安定供給,調査研究) |
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クロマグロの生態 |
水産研究・教育機構 国際水産資源研究所 大下 誠二 |
本論文は太平洋クロマグロ(Thunnus orientalis)の生態に関する最新の知見を取りまとめることを目的とした。本種は日本人になじみがある魚ではあるが,その生態には依然として不明な点が多い。主産卵場とされる南西諸島海域と日本海西南海域で孵化したクロマグロは早い成長を示し,孵化後1年後には体長が約50㎝に達し,その後3歳で120㎝になり,10歳以上の個体は200㎝を超える。一部の個体は1歳から2歳に太平洋を渡洋して,北米・メキシコ沿岸にまで達し,しばらく滞在したのちに産卵のため再渡洋する。産卵は3歳魚から始まり,4歳ではほぼすべての個体が再生産に関与するようになる。これらの生態を把握することが資源評価や資源管理の礎となる。 (キーワード:年齢査定,成長,再生産,分布・回遊) |
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太平洋クロマグロの漁獲の特徴 |
水産研究・教育機構 国際水産資源研究所 伊藤 智幸 |
クロマグロは,体長約20cmから体重300kg以上の幅広い大きさで漁獲される。2014年の漁獲量は約1万7千tであった。漁獲国は多いほうから日本,メキシコ,韓国,米国,台湾であり,漁法はまき網,定置網,はえ縄,ひき縄による。漁獲魚の平均体重は約6kgと,1950年代から一貫して小さい。魚の年齢や季節に応じて分布が変わるため,各漁業者が漁獲できる魚の大きさは制約される。クロマグロ資源および漁業の適切な管理には,魚の大きさ・年齢,地域や漁法に応じて異なるクロマグロの漁獲の多様性の理解が必須である。 (キーワード:まき網,ひき縄,回遊,平均体重,多様性) |
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クロマグロの資源状況と管理 |
水産研究・教育機構 国際水産資源研究所 島田 裕之 |
2016年8月に太平洋クロマグロの最新の資源評価の結果が公表された。資源状況は,最近年である2014年における親魚資源量は約1.7万tと推定され過去最低レベル付近にあるが,ここ10年あまりの資源の減少傾向は止まったと見られる。加入量は明瞭な傾向無く変動しており,2014年の加入量は低位で,最近5年間の平均加入量は歴史的平均値より低いと考えられた。将来予測においては,現行の保存管理措置を確実に実行すれば,低加入の下でも暫定目標とする歴史的中間値を2024年までに60%以上の確率で達成することが予測された。2016年8月末から開催されるWCPFC北小委員会において,この結果に基づいた資源管理措置や著しい低加入が発生した場合に発動する緊急ルール等が議論された。 (キーワード:太平洋クロマグロ,資源評価,資源管理) |
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国内クロマグロ養殖の現状と課題 |
水産研究・教育機構 西海区水産研究所 まぐろ増養殖研究センター 塩澤 聡 |
我が国のクロマグロ養殖では,1990年代よりその生産量が拡大してきたが,そのためには養殖用種苗(全長約30㎝の幼魚)の確保,餌の確保,養殖場の確保の3つの条件が満たされることが必要であった。しかし,近年の太平洋クロマグロの資源の悪化に伴って養殖用種苗の安定確保が難しくなる中,養殖用種苗の大部分を天然魚に依存しているクロマグロ養殖のあり方が問われ,天然種苗に依存したクロマグロ養殖からの脱却が求められている。今後,現在の養殖規模を維持しつつ事業の安定化を図るためには,漁獲に左右されない養殖用種苗と餌料の安定確保が不可欠であり,種苗生産技術の向上による完全養殖の普及,漁獲に左右されない低魚粉飼料の開発等が喫緊の課題となっている。 (キーワード:太平洋クロマグロ,クロマグロ養殖,完全養殖,資源保護,蓄養) |
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養殖用人工種苗の量産技術開発と養殖技術開発の展望 |
水産研究・教育機構 西海区水産研究所 まぐろ増養殖研究センター 岡 雅一 |
日本国民にとって重要な食資源でありながら,絶滅危惧種に指定された太平洋クロマグロを将来にわたり食べ続けるには,養殖の観点からは,天然資源に影響を与えない完全養殖技術の更なる研究開発と普及が必要である。最近の研究開発の事例として,2012年度(平成24年度)から農林水産技術会議委託プロジェクト研究が産学官連携で,養殖用人工種苗(全長約30cm)の量産技術開発が進められており,この取り組みを中心に紹介する。 (キーワード:太平洋クロマグロ,完全養殖技術,人工種苗) |
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クロマグロ完全養殖技術の開発 |
近畿大学大学院 農学研究科・水産研究所 澤田 好史 |
クロマグロの全生活史を人工環境下で実現する完全養殖技術は,親魚を養成して産卵させる親魚養成,卵から幼魚までの種苗生産,幼魚から出荷サイズまで飼育する養成の3つの過程からなる。それらには課題が多く,受精卵のうち成魚にまで育つのは数%程度である。しかしながら,天然資源枯渇が危惧され,漁獲による供給が少なく販売単価が高いことを背景に,完全養殖生産物は既に市場に出回っている。今後は完全養殖技術のさらなる向上と,キハダなど他のマグロ類への応用,また国内消費のみならず輸出拡大を視野に入れた生産・販売戦略の構築が必要である。
(キーワード:クロマグロ,完全養殖,人工種苗,資源保全,キハダ) |
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クロマグロ養殖へのゲノム情報の活用 |
水産研究・教育機構 中央水産研究所 水産生命情報研究センター 菅谷 琢磨 |
クロマグロ養殖では,完全養殖の実現によって人工種苗の活用が進んでおり,生産性の向上を目指した研究開発が進められている。そうした中で,新たな観点からの研究開発として,大量のゲノム情報を高速に解読可能な次世代シーケンサーを用いた,遺伝子情報からの生物学的特徴の分析が試みられている。さらに,飼育現場で活用可能な新たな分析技術として,全ての遺伝子の活性を分析できるDNAチップや,有用な個体や遺伝子の識別に有効なDNAマーカーが開発されている。本稿では,クロマグロのゲノム解析の研究成果を紹介し,クロマグロ養殖への活用について述べる。 (キーワード:クロマグロ,ゲノム解読,DNAチップ,DNAマーカー,連鎖地図) |
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冷凍マグロ肉の品質向上技術 |
水産研究・教育機構 中央水産研究所 水産物応用開発研究センター 今村 伸太朗 |
生食用として利用される凍結マグロ肉は高鮮度な状態を維持したまま流通されるが,解凍後の肉質劣化が極端に速く食品ロスが発生しやすい。凍結マグロ肉は超低温(-50℃以下)の貯蔵によって長期間の保冷が可能になったが,解凍によって生じる魚肉の「褐変」と「解凍硬直」が問題になる。本稿では,凍結マグロ肉の特性,凍結・解凍による肉質劣化について解説し,著者らが取り組んでいる凍結マグロ肉の褐変と解凍硬直を抑制する新しい技術について紹介したい。 (キーワード:冷凍マグロ肉,解凍硬直,褐変,メト化) |
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