Vol.4 No.12 【特 集】 「機能性をもつ農林水産物・食品開発プロジェクト」の成果 |
機能性をもつ農林水産物・食品開発プロジェクトの意義 |
農業・食品産業技術総合研究機構 大谷 敏郎 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 山本(前田) 万里 |
2013年7月から2016年3月までの3年間行われた「機能性をもつ農林水産物・食品開発プロジェクト」の背景や研究のコンセプト,概要,さらに,本プロジェクト開始後に検討が開始され,2015年4月から施行されている機能性表示食品制度への対応などを概説する。特に新たな機能性表示食品制度では,農林水産物など生鮮食品への表示が実質認められることになったことから,本プロジェクトの成果が生鮮食品の表示に繋がるように課題の追加などを行った。本稿では,最後に食品の機能性研究の今後の方向について考察し,本大型プロジェクトの意義について報告する。 (キーワード:食品の3次機能,科学的エビデンス(根拠),ヒト介入試験健康食品,機能性表示食品制度) |
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表面加工玄米のヒト介入試験による機能性評価 |
筑波大学 医学医療系 橋本 幸一 |
肥満や生活習慣病の予防・改善効果が期待される玄米の普及を目的として,表面加工玄米が開発された。表面加工玄米は吸水性が高く炊飯時間が短い,また成分は玄米とほぼ同様である特性を有する。ヒト介入試験の質問紙調査により,表面加工玄米は玄米と比較して食べやすく,長期間食べ続けられることが示唆されている。また,白米とのランダム化比較において,12週間の連続摂取により,表面加工玄米は体重減少効果,脂質改善効果を有することが示された。玄米と同様の機能性成分を保ち,食べやすい表面加工玄米を主食として普及させることは,国民の肥満や生活習慣病の予防・改善に貢献できると期待される。 (キーワード:表面加工玄米,玄米,体重減少,食味,ヒト介入試験) |
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大麦と小麦全粒粉を用いた食品の機能性検証 |
農業・食品産業技術総合研究機構 次世代作物開発研究センター 柳澤 貴司 |
機能性食品開発プロジェクトの「高β―グルカン大麦・小麦全粒粉を用いた低GI/抗メタボ食品の開発」で取り組んだ研究成果の概要を紹介する。水溶性食物繊維であるβ―グルカンを高含有する大麦品種や小麦全粒粉を用いた食品でヒト介入試験結果による機能性を検証したところ,大麦を使った食品にβ―グルカン含有量が増えるほどGlycemic Index(GI)が下がり,もち性大麦品種「キラリモチ」入りの麦ご飯を用いて内臓脂肪面積が低下するという成果を得ることができた。 (キーワード:大麦,小麦全粒粉,β―グルカン,食物繊維,ヒト介入試験) |
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ダッタンソバ「満天きらり」と大豆「ななほまれ」の脂質代謝改善効果 |
北海道情報大学 医療情報学部 西平 順 |
超高齢社会を迎え,健康増進や疾病予防の観点から食の機能性が注目されている。本研究では,健康機能性の高い食材として期待されるルチン高含有ダッタンソバ「満天きらり」とβ―コングリシニン高含有大豆「ななほまれ」についてヒト介入試験を実施し,これら食品の脂質代謝改善作用について検討した。ヒト介入試験は,プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験で摂取期間を12週間とするプロトコールで実施した。その結果,ルチンを豊富に含むダッタンソバは体重と体脂肪の減少を促し,またβ―コングリシニンを豊富に含む大豆は中性脂肪の低減効果があることが明らかとなった。本研究の成果は,ルチンやβ―コングリシニンなど機能性成分を豊富に含む食材を長期摂取することにより脂質代謝が改善し,肥満と血管病変を主な病態とする生活習慣病の進展を抑制する可能性を示唆しており,今後の「機能性食材と健康増進の研究分野」にインパクトを与える成果が得られた。 (キーワード:ダッタンソバ,大豆,ルチン,β―コングリシニン,脂質代謝改善) |
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タマネギの認知機能改善効果の検証と利用技術開発 |
農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 小堀 真珠子 |
農研機構ではケルセチンを多く含むタマネギ「クエルゴールド」を開発した。ケルセチンは生活習慣病予防効果を示すことが期待されている。本研究では,新たなケルセチンの健康機能性として認知機能改善作用とそのメカニズムを動物試験により明らかにすると共に,ヒト介入試験によりケルセチン高含有タマネギが高齢者や早期アルツハイマー病患者の認知機能を改善することを示唆する結果を得た。有効な摂取方法を提示するため,タマネギからのケルセチンの体内への取り込みに影響する食べ合わせも明らかにした。さらに,ケルセチン高含有タマネギの利用と普及を目指して,栽培試験で「クエルゴールド」が北海道のみならず本州でも栽培できる可能性を示すとともに,種子販売を開始した。 (キーワード:タマネギ,ケルセチン,「クエルゴールド」,認知機能改善,食べ合わせ) |
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緑茶の動脈硬化予防効果のヒト試験による評価 |
大阪医科大学 内科学Ⅰ 忌部 尚・佐野 寛行・谷本 啓爾・ 寺前 純吾・花房 俊明 |
脂質異常症の中でも高コレステロール血症は脳梗塞・心筋梗塞など動脈硬化性疾患のリスク因子であり,日常的に摂取する食品に配慮することで脂質異常を改善し,動脈硬化性疾患のリスク低減を図ることが重要である。これまでの研究で緑茶の脂質代謝改善効果が明らかになっているが,今回,われわれは,通常のお茶に含まれるカテキン類よりも強力な脂質代謝改善効果が期待されるメチル化カテキンを高容量に有する高カテキン緑茶品種「べにふうき」の脂質代謝に対する影響をヒト介入試験で検証し,有効性を確認した。特に変性LDL低減作用など,血管老化の予防効果について「べにふうき」緑茶は優れた効果を示したので,その内容について解説する。 (キーワード:べにふうき,メチル化カテキン,動脈硬化,LDLコレステロール,アポリポプロテインB含有レクチン様酸化LDL受容体リガンド) |
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栄養ケアステーションでの機能性農産物認知活動について |
神奈川県立保健福祉大学 中村 丁次 神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 倉貫 早智 |
機能性食品の活用には,生体側の健康・栄養状態と食品が持つ機能性とのマッチングが必要であり,消費者は,その科学的根拠を自らが判断しなければならない。機能性農産物を正しく普及・啓発するために,神奈川県内のスーパーマーケットおよび神奈川県立保健福祉大学に「栄養ケアステーション(NCS)」を創設し,機能性農産物の活用を含めた栄養指導を行い,その対象者に機能性農産物の認知度と利用状況を調査した。その結果,機能性表示食品の認知度は,男性で45.1%,女性で28.3%であったが,今後,約7割の者が利用すると答え,NCSでの紹介があれば86.5%が利用すると答え,NCSの有効性が明らかにされた。また,食生活の改善レベルで分析すると,ステージが高くなるほど,「利用したい」と答えるものの割合が高くなることが明らかにされた。 (キーワード:栄養ケアステーション,機能性食品の活用,機能性表示食品の認知度) |
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「機能性弁当」の健康維持増進効果の検証と今後の展開 |
農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 山本(前田) 万里 |
農研機構「機能性農林水産物・食品開発プロジェクト」(2012~2015年度)では,高アミロース米,高β―グルカン大麦,玄米,高タンパク大豆,高ルチンダッタンそば,ゴーヤ,高リコピン人参,高ルテインケール,高ケルセチンたまねぎ,高β―クリプトキサンチンカンキツ,高メチル化カテキン緑茶などの機能性農産物の生活習慣病予防効果について,ヒト介入試験で評価を行い,栄養・機能性,安全性,特性情報等を盛り込んだ農林水産物データベースの開発を目指してきた。また,個別の機能性農産物だけではなく,機能性農産物を組み合わせた「機能性弁当」の健康維持増進効果についてもヒト介入試験により検証した。 (キーワード:機能性弁当,機能性農産物,ヒト介入試験,健康維持増進効果検証) |
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