Vol.7 No.3
【特 集】 第19回民間部門農林水産研究開発功績者表彰受賞者の業績


「密苗」栽培技術による田植作業の革新的省力・低コスト化の実現
ヤンマーアグリ株式会社    伊勢村 浩司・土井 邦夫
ヤンマー株式会社    澤本 和徳
株式会社ぶった農産   佛田 利弘
農事組合法人アグリスターオナガ    濱田 栄治
 稲作の生産コスト低減に向けて直播栽培,疎植栽培などの技術開発が行われてきている。また,育苗箱に種籾を高密度に播種し,移植に使用する箱数を削減する技術は乳苗をはじめとして各地で取り組まれているが,いずれも経営的に安定した技術評価を得るに至っていない。今回紹介する密苗栽培は,一般的な播種量をはるかに超える250〜300g(乾籾)の高密度に播種した稚苗を移植することで,必要な育苗箱数を約1/3にまで大幅削減を可能にする栽培技術で,これにより大幅な田植え作業の省力・低コスト化を実現した。さらに収量安定性も高く,2012年の研究開発着手から短期間に全国で広く取り組まれている。
(キーワード:密苗,高密度育苗,稲作,省力化,軽労化,低コスト化)
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作物育種を加速する培養不要で汎用性の高い
革新的ゲノム編集技術の開発
株式会社カネカバイオテクノロジー研究所    濱田 晴康・三木 隆二
株式会社カネカ 新規事業開発部    田岡 直明・柳楽 洋三
 近年,特定の遺伝子を狙って改変する「ゲノム編集技術」の開発が進み,作物の品種改良への応用が期待されている。これまで,ゲノム編集技術を主要作物に適用する際は,「組織培養」が必須だったが,コムギ等の多くの作物種では,農業的に優れた品種での組織培養が難しく,ゲノム編集の利用が困難だった。そこで,カネカは,農研機構との共同研究により,茎頂の生長点にDNA等を直接打ち込むことにより組織培養が不要となる革新的な導入技術「インプランタパーティクルボンバードメント法(iPB法)」を確立し,当手法を用いたゲノム編集技術を開発した。これにより,主要作物における有用品種の開発を劇的に加速できることとなった。
(キーワード:ゲノム編集技術,形質転換技術,作物育種)
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肉用牛産肉形質のゲノミック評価技術及び評価実施体制の確立
一般社団法人家畜改良事業団     黒木 一仁・荻野 敦・野崎 隆義・
渡邊 敏夫
元一般社団法人家畜改良事業団
    小野木 章雄
 ゲノム情報を活用し肉用牛の遺伝的能力を推定するゲノミック評価の手法として,現行の遺伝的能力評価(BLUP法)にゲノム解析技術を付加した信頼度の高い産肉能力予測評価法(ssGBLUP法)の効果を検証・確認した。この評価法は,血液や毛根があれば一塩基多型(SNP)情報が得られることから,手軽に遺伝能力を推定できることや,両親との産肉能力差を子牛の段階で推定できる。また,肉用牛の育種改良,優良雌牛の選定等において,本評価法を有効活用するための評価実施体制を構築し,育種改良団体や和牛繁殖農家等で広く利用されている。
(キーワード:肉用牛・産肉形質・SNP検査・ゲノミック評価)
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「花けずりこんぶ®」の発明およびその製造装置開発と商品化
東和食品株式会社    辻見 重勝
 昆布という食品に魅せられ,多くの方の応援を頂いて「花けずりこんぶ」は誕生した。この度,民間企業として功績を表彰されたことは,思いがけぬ光栄であった。商品開発の過程をここに述べる。
(キーワード:昆布,食品加工,南かやべ,田老,花けずりこんぶ)
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てんさい,たまねぎの安定生産に有用な微生物資材の開発と普及
十勝農業協同組合連合会    三口 雅人
 窒素固定能と植物ホルモン産生能を有するアゾスピリラム菌を含む資材を開発した。本資材は対象作物を移植作物であるてんさいとたまねぎとし,育苗中の作物にアゾスピリラム菌を接種することで,圃場で接種するよりも効率的に感染させることを可能とした。また,施用は灌水作業と兼ねて行なうことができ育苗期間中に1回施用するだけでその効果が発揮される。 2017年の北海道での使用面積はてんさい用とたまねぎ用合わせて8,404haであり,その普及率はてんさい用で12.4%,たまねぎ用で8.2%と,販売から10年経過した現在も増加している。
(キーワード:てんさい,たまねぎ,微生物資材,アゾスピリラム菌,ネフエール)
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生物農薬スワルスキーカブリダニを中心とした総合防除技術の普及
アリスタライフサイエンス株式会社    山中 聡
 これまでの病害虫防除は化学合成農薬の使用に立脚したいわゆる慣行防除が中心であったため病害虫の薬剤抵抗性が発達し,防除手段の限界だった。このような状況でスワルスキーカブリダニ剤を開発し,以降,多くの知見を積み重ね,作物,害虫種の適用拡大,ボトル製剤に加えてパック製剤も開発した。また,本種は定着性,増殖性が高いため,害虫発生前から事前に放飼して予防的に使用する天敵利用プログラムを開発でき,利用方法を含めた普及活動にも努めた。これにより薬剤防除では抑えきれなかったアザミウマ類,コナジラミ類,ハダニ類の加害するピーマン,パプリカ,ナス,キュウリ,カンキツ等でIPM防除体系を構築,化学合成農薬の大幅な使用削減が実現できたことから今後の我が国における病害虫防除に大きなインパクトを与えたと考える。
(キーワード:総合防除技術,IPM,スワルスキーカブリダニ,薬剤抵抗性)
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