Vol.7 No.6 【特 集】 産学官連携によるイノベーション創出 |
JATAFFを中心とした産学連携支援の体制と取り組み |
(公社)農林水産・食品産業技術振興協会(JATAFF) 石脇 尚武 |
わが国の農林水産・食品分野において研究シーズが有効に実用化されるためには,産学が連携を図り,研究の「入口」から「出口」に至るまで幾度と現れるステージゲートが克服され,実用化を担うプレイヤーとのマッチングが効果的に形成されることが求められる。 農林水産省はこのような課題認識の下,産学連携を重要政策と位置付け,2010年度より産学連携支援事業が継続的に措置されている。JATAFFを代表機関とする「地域産学連携コンソーシアム」は農林水産省からの委託を受け,全国に擁する「農林水産省産学連携支援コーディネーター」を軸に,様々な業種とのマッチング形成や競争的資金獲得に向けた支援,商品化・事業化に向けた支援等を実施し,イノベーションの創出に繋がる研究開発を推進している。 (キーワード:産学連携,農林水産省産学連携支援コーディネーター,「知」の集積と活用の場) |
←Vol.7インデックスページに戻る
|
農産物生産工程管理システムaprasの開発と商品化 |
NPO法人グリーンテクノバンク 折登 一隆 |
消費者から「安全・安心」な農産物が求められ農薬の適正使用への対応という新たな社会ニーズに応えて農研機構で開発されたクラウド管理の先駆けである生産履歴システムは,研究期間終了後に技術移転された。技術移転を受けた企業は,農協に加えて販売対象を直売所に拡大し,全国の販売網で販売した。ニーズの集約と実証試験協力農協を構成員とする協議会方式を採用した。技術移転の成功要因として,企業の小さなリスクが重要であった。活用範囲が広くさらなる普及が期待される。 (キーワード:生産履歴,apras,クラウドシステム,農薬,肥料,トレーサビリティー) |
←Vol.7インデックスページに戻る
|
もち小麦「もち姫」の種子から食卓まで,それを支える連携の輪 |
東北地域農林水産・食品ハイテク研究会 星野 次汪 |
盛岡農業普及センターが中心となって,「盛岡地方もち小麦の郷づくり研究会」を組織した。「もち姫」の優良種子の提供(東北農研センター),「もち姫」の種子増殖と生産(JAいわて中央),外部資金獲得による「もちもち食感の食パン」の商品化(白石食品工業),「もち姫」の広報活動・商品化支援(盛岡振興局)により,多くの企業の取り組みが加速した。また,料理講習会や親子もち小麦栽培体験などを通して,生産者・企業・消費者が相互理解を深め,産官学連携による「もち姫」の種子から商品化までの社会実装化に取り組んだ。 (キーワード:モチコムギ,もち小麦,もち姫,もちもち食感) |
←Vol.7インデックスページに戻る
|
空からの精密農業-自動運転農業用ドローンの開発- |
株式会社ナイルワークス 田谷 小百合 |
ドローンによる農薬散布は様々な圃場で応用が試みられているところであるが,ナイルワークスでは,水稲圃場を対象とする完全自動運転の実現に向けた研究開発を展開した。自動運転のポイントは,正確な位置制御,正確な薬剤散布である。2017年2月農薬工業会およびその会員農薬メーカーの参画のもと,宇都宮大学農学部付属農場でデモ飛行検討会を実施し,研究の方向性を確認したことで,前述のポイントを克服して実用化に至った。さらなる課題として,正確な成育診断にも取り組んでいる。 (キーワード:ドローン,農薬散布,自動運転,生育診断) |
←Vol.7インデックスページに戻る
|
家畜伝染病発生時のまん延防止用「防疫バッグ」の開発 |
NPO法人近畿アグリハイテク 北村 實彬 太洋工業株式会社 山野辺 敦 |
家畜伝染病予防法では,口蹄疫などのまん延防止に,殺処分家畜は焼却または埋却することとされているが,埋却が難しい場合には焼却施設まで安全に輸送することが課題となる。鳥インフルエンザの防疫措置を経験した幅広い"現場力"を有する京都府は,材質特性を生かす"ものづくり力"を有する太陽工業株式会社,遺伝子レベルでの"分析力"を有する京都産業大学と共同して,コーディネーターの支援のもと,農林水産省の競争的資金を活用し,「防疫バッグ」を開発し上市した。共通の課題認識のもと,2年間で10回の現地検討会を開催し,提案,試作,現場試験,改善のPDCAサイクルを繰り返すことで2年間という短期間でゴールに到達することができた。 (キーワード:家畜伝染病,まん延防止,ウイルス非透過バッグ,殺処分家畜輸送,備蓄資材) |
←Vol.7インデックスページに戻る
|
花粉症抑制効果を有するチシャトウ乾燥粉末の商品化支援 |
NPO中国四国農林水産・食品先進技術研究会 梶谷 浩一 |
大森食品㈱(岡山県,業務用食材の総合サプライヤー)は,日本で栽培実績の少ない健康野菜チシャトウに着目し,2009年には農協を通じて委託栽培を開始,さらに,チシャトウの栽培・供給は全農岡山が担い,大森食品が加工・販売を担う役割分担で「農商工連携」に応募,2010年に農商工連携事業に認定された。以来9年間,生のチシャトウ販売とレシピの普及および乾燥チシャトウを使った山くらげ,チシャトウ粉末,青汁,ミルクキャンデー,その他の商品を開発し,並行してチシャトウの花粉症抑制,その他の機能性を岡山大学との共同研究で明らかにしてきた。コーディネーターから見たその間の経緯を振り返る。 (キイワード:チシャトウ,野菜,乾燥粉末,機能性,花粉症抑制) |
←Vol.7インデックスページに戻る
|
茶園における少量農薬散布技術と天敵類保護 |
鹿児島県農業開発総合センター 鹿子木 聡 |
鹿児島県農業開発総合センターを中心とする産学官研究コンソーシアム(茶IPMコンソーシアム)は,チャ害虫の天敵類が茶樹葉層内部に生息していることと,保護対象の新芽が摘採面付近に形成されることに着目し,農薬散布の標的を摘採面付近に絞る少量農薬散布技術について研究を行った。当該技術については,クモ類や寄生蜂類等の天敵類の保護効果と害虫の発生量等の条件によって農薬散布量を慣行比10~65%まで削減できること,病害については,虫害対策よりも多く散布量が必要なことが分かった。少量農薬散布技術は現場普及が進みつつあり,技術の長所および短所を把握した適正利用が求められる。 (キーワード:農薬散布量,少量農薬散布機,クモ類,寄生蜂類,IPM) |
←Vol.7インデックスページに戻る
|