Vol.7 No.7 【特 集】 森林・林業活性化に向けた最新技術 |
ICTを活用したスマート林業の技術 |
鹿児島大学 寺岡 行雄 |
持続的な森林経営の確立や林業成長産業化のためには,ICTを導入したスマート林業を目指すべきである。スマート林業の構築に資するICT等の新しい技術として,森林クラウド,航空レーザ計測,木材サプライチェーンマネジメントおよびバリューバッキングの各技術について紹介した。高精度森林情報やクラウド等のICTを活用した情報技術の社会実装のためには,これまで林業界との関係が薄かった他業種の技術者との協業が必要である。先端技術を活用して森林施業の効率化や需要に応じた木材生産を行う「スマート林業」を目指すことで,新しい林業の展開が期待される。 (キーワード:森林クラウド,航空レーザ計測,木材サプライチェーンマネジメント,バリューバッキング) |
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木造建築の可能性を広げるCLTの開発と普及 |
一般社団法人日本CLT協会 森田 聖 |
年々増加している森林資源の活用方法の一つとして,CLTが注目されている。森林資源は地域資源であるため地方創生の側面も持ちあわせ,地方都市でも熱心に取り組まれている。2014年に国内第1号のCLT建築物が竣工して以来,昨年度末には全国で累計300棟を突破し,全都道府県で実例ができることとなった。海外では,CLTにより木造でも高層建築が数多く建てられており,日本でも実現すべく多くの研究開発が行われている。今後は建築用途のみならず,様々な分野でCLTが利用されるような検討も始まった。 (キーワード:CLT,直交集成板,木造建築,森林資源,SDGs) |
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国内林産資源を活用したナノセルロース複合材料の開発 |
信州大学 先鋭材料研究所 野口 徹 東京大学大学院 磯貝 明 |
我が国の国土の67%が森林であり,この森林を守ることが国土を護ることと同義である。今,林業が衰退する中で,森林を守ることは木材を活用する方法を見出し,成長産業に変えることにほかならない。この方法の一つとして,幅3nmのナノセルロースの登場は画期的である。なぜなら,超極細繊維状物質は,様々な先端素材となりうるからである。その中で,従来の直径10μmの繊維をフィラー(隙間を埋める材料)とする複合材料は,より細い繊維を求めた歴史がある。それは,繊維径が細いほど繊維とマトリックスの織り成す空間がナノサイズとなり,これまでの複合理論が根底から覆される,いわゆるナノサイズ効果が発現する可能性が高まるからである。その可能性の高いナノセルロースをフィラーとする高分子複合材料の作製と特性について概説する。 (キーワード:セルロースナノファイバー,ナノセルロース,TEMPO触媒酸化法,複合材料,ナノサイズ効果) |
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森林のシカを管理する −シャープシューティングとローカライズドマネジメント− |
森林研究・整備機構 森林総合研究所 多摩森林科学園 小泉 透 |
シカによる深刻な森林被害に対処するため全国でシカの捕獲が奨励されている。この結果,日本のシカ捕獲は,入猟税を支払って行う狩猟から対価を得て受注する事業へと急速に移行しつつある。これからの捕獲事業者には高い実行力が求められており,北米で実施されているシャープシューティングとローカライズドマネジメントを紹介した。両者を組み合わせて伊豆および富士山国有林で実証試験を行った結果,短期間にシカを減少させることができた。他の地域への技術移植するために作成した「きちんとシカを獲るためのルール」を紹介した。 (キーワード:シカ管理,森林,シャープシューティング,ローカライズドマネジメント) |
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原発事故による森林への放射能汚染の影響と 林業の復興を目指した技術開発 |
森林研究・整備機構 森林総合研究所 三浦 覚 |
森林総合研究所では,原発事故により森林に降下した放射性セシウム分布の調査を継続し,森林内の放射性セシウムの大部分は,事故発生から数年のうちに,落葉層や土壌表層に移動して集積していることを明らかにした。渓流水のモニタリング結果もこれと整合性があり,森林流域からの放射性セシウムの流出は限定的であった。一方で,東日本の広い範囲で放射能汚染の影響により,きのこ原木林での生産が停止している。森林土壌中の交換性カリウム量が原木林広葉樹の放射性セシウム濃度に強い影響を及ぼすことが明らかにされており,これを利用して,利用再開が可能なきのこ原木林を見出すことが期待されている。 (キーワード:原発事故,森林,放射性セシウム,きのこ原木林,交換性カリウム) |
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津波で失われた海岸林再生のための技術開発 |
森林研究・整備機構 森林総合研究所 坂本 知己 |
東日本大震災後の海岸林の再生では,単なる造り直しでなく,これまでより,津波に耐え津波被害軽減機能の高い海岸林が求められた。しかも大面積に短期間に植栽を終える必要があった。そこで,津波を受けても流失しにくいようにクロマツの根を深く張らせるために生育基盤盛土が造られた。苗木不足ならびに植付け作業の集中に対しては,効率的に植えられて活着率が高いとされ,植栽時期・植栽技能に対する要求が少ないコンテナ苗が採用された。植栽本数はこれまで一般的だった1万本/haではなく,5,000本/haが採用された。また,硬い生育基盤盛土に対応する苗木植栽ロボットが開発され,今年度からの稼働が予定されている。 (キーワード:海岸林,津波,生育基盤盛土,コンテナ苗,植栽本数,苗木植栽ロボット) |
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花粉発生源対策品種開発の取り組み |
森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センター 倉本 哲嗣・三嶋 賢太郎・坪村 美代子・平尾 知士 |
社会的な問題となっている花粉症に対する林木育種面からの対策とし,森林総合研究所林木育種センターと都府県が連携し,花粉対策品種等を開発している。2018年度末時点で,全国で少花粉スギ146品種,低花粉スギ11品種,少花粉ヒノキ56品種が開発され,また花粉が生産されないという特徴を持つ無花粉(雄性不稔)スギ品種5品種を開発した。今後,近年開発したDNAマーカーによって無花粉遺伝子をヘテロで保有するスギをスクリーニング可能とする技術の利用や,新たな少花粉品種等を短期間で開発する技術開発を進めること等により,より短期間で,各地域の林業に合った形で花粉発生源対策を推進していくことが可能になると期待される。 (キーワード:スギ,ヒノキ,花粉症対策品種,DNAマーカー) |
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森林浴と木材セラピー研究の現状と将来展望 |
森林研究・整備機構 森林総合研究所 池井 晴美 千葉大学 環境健康フィールド科学センター 宋 チョロン・宮崎 良文 |
森林や木材等の自然に触れると体がリラックスすることは,経験的に知られているが,科学的データの蓄積は少ないのが現状である。一方,森林浴と木材セラピーにおいては,日本における研究が最も進んでおり,約30年前に初の生理実験が報告された後,少しずつ,データ蓄積が進んでいる。本稿では,森林浴と木材の嗅覚ならびに触覚刺激がもたらす生理的リラックス効果に関する最新データを紹介するとともに将来展望に
言及する。 (キーワード:森林浴,木材セラピー,生理的リラックス効果,予防医学的効果,QOL) |
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