Vol.8 No.2 【特 集】 持続的な水産と海洋環境を支える研究 |
ニホンウナギの完全養殖技術開発の現状と展望 | |||||||||||||||
水産研究・教育機構 増養殖研究所 ウナギ種苗量産研究センター 野村 和晴 |
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ニホンウナギは我が国の重要養殖種であるが,現在の養殖は100%天然の稚魚に依存しており,漁獲量の変動に伴う価格の乱高下や不安定な供給がウナギ養殖業を圧迫している。また,近年絶滅危惧種に指定され,天然資源の持続的利用も不安視されている。そのため天然資源に依存しない完全養殖の実用化が切望されているが,現状ではただちにウナギ養殖の莫大な需要に応えるほどの稚魚生産能力を備えるには至っていない。大量生産のボトルネックは仔魚から稚魚までの飼育方法にあり,現状のままでは生産コストが高すぎて実用化に向かない。技術開発の要諦は,卵質改善・餌と飼育システムの改良・育種にあり,これらの課題に産官学で連携して取り組んでいる。 (キーワード:ニホンウナギ,完全養殖,人工種苗生産,レプトセファルス,シラスウナギ) |
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ゲノム編集技術を使った肉厚マダイの作出と 品種改良期間の短縮 |
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京都大学大学院 木下 政人 | |||||||||||||||
ゲノム編集技術は,生物のゲノムDNA上の狙った部位を正確に改変できる技術で,外来遺伝子を挿入せずに新品種を迅速に作出することができる。水産の分野でもこの技術が活用され,短期間で筋肉量の増加したマダイが作出され,これを用いた効率的で持続可能な陸上養殖の期待が高まっている。ゲノム編集魚を社会実装するためには,安全性を担保し,正確な情報を発信することにより一般社会の理解を広める必要がある。加えて,品種作製速度をより早めるゲノム編集を用いた取り組みが始まっている。 (キーワード:ゲノム編集,マダイ,陸上養殖,ミオスタチン) |
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スマートブイを用いたスマート漁業実証実験の取り組み | |||||||||||||||
株式会社KDDI総合研究所 スマートコネクトグループ 井戸上 彰・宇都宮 栄二 |
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IoTを活用した漁業の効率化,活性化を目的としたスマート漁業の取り組みについて紹介する。スマート漁業では,主に沿岸の定置網漁を対象に,漁場付近の海洋データや気象データと実際の漁獲量を合わせて分析し,海洋データや気象データから漁獲量を予測することを目標としている。海洋データ取得のために導入しているスマートブイの開発経緯や仕様を述べるとともに,宮城県東松島市や三重県尾鷲市で行っている実証実験の概要と実際の水温測定結果例を示しながら,漁獲量予測実現に向けた取り組みを紹介する。 (キーワード:IoT,ブイ,水温測定,定置網漁,漁獲量予測) |
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陸上養殖技術の開発動向と産業的利用 | |||||||||||||||
東京海洋大学学術研究院 遠藤 雅人 | |||||||||||||||
陸上養殖とは,陸上に施設を建設してその中で養殖対象種を飼育する生産形態のひとつである。近年,これまで世界各国で行われてきた試験研究の成果を生かして幾つかの企業が大型施設を建設し,年間生産量数百tから数千tの出荷が実現している。また,最近では異業種の新規参入の検討や実際に生産を行う企業が出現しているなか,生産管理の一部を自動化し,これまで人間が経験と勘で行ってきた水産物の飼育
における「職人技」をさまざまな数値データに置き換え,分析を行ったうえで適正な飼育管理に生かす試みがなされている。今後,さらなる水産養殖の多様性の拡大と生産の維持・増大が望まれる。 (キーワード:陸上養殖,循環式養殖,流水養殖,水処理装置,IoT/AI) |
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鉄鋼スラグを用いた藻場造成技術の開発 | |||||||||||||||
日本製鉄株式会社 スラグ・セメント事業推進部 木曽 英滋 | |||||||||||||||
製鉄副産物である鉄鋼スラグを用いた海の森づくりが,各地で成果を挙げている。森から海へと供給される鉄分を人工的に生成する技術を開発し,鉄分が不足して磯焼けが生じた海域で藻場を再生している他,浅場の消失が藻場の減少の主要因となっている都市部の海域では,自然環境の保護のために入手が困難となりつつある天然石砂に代わり軟弱な浚渫土を活用する技術や人工石を製造する技術を開発することで,浅場造成の促進を図っている。鉄鋼スラグで再生された海の森は,ブルーカーボンとして二酸化炭素を吸収・固定し,地球温暖化防止に役立つことも期待されている (キーワード:鉄鋼スラグ,藻場造成,浅場造成,海域環境改善,ブルーカーボン) |
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東北被災地域における通電加熱を利用した高付加価値水産加工品の開発 | |||||||||||||||
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通電加熱は,食品自体に電気を流して加熱する方法であり,かまぼこ製造で実用化された省力・省エネ技術である。その後さまざまな形状や特性の水産加工食品製造が可能となり,本技術を用いて,東日本大
震災被災地域においても水産加工品の高付加価値化を目指した取り組みが行われた。
(キーワード:通電加熱,ねり製品,イクラ,ウニ,海藻,省エネルギー,高品質化) |
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環境DNAを用いた生物多様性の評価と水産資源推定の可能性 | |||||||||||||||
北海道大学大学院水産科学研究院 笠井 亮秀 | |||||||||||||||
水や土壌といった環境中に含まれるDNAを総称して環境DNAと呼ぶ。近年の環境DNA研究の発展は目覚ましく,生物を直接捕獲しなくても,在/不在やバイオマス,個体数,さらには遺伝情報を得ることが可能
となってきた。これには,世界に先駆けて行ってきた日本の環境DNA研究が大きく寄与している。本稿では,環境DNAのメタバーコーディング分析による魚種の多様性評価に関する研究や,種特異的検出法による資
源量評価についての研究例を紹介する。
(キーワード:環境DNA,多様性,資源量) |
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地球温暖化によるマリントキシンの拡大とリスク管理 | |||||||||||||||
新潟食料農業大学 長島 裕二 国立医薬品食品衛生研究所 大城 直雅 |
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海洋生物毒素(マリントキシン)により魚貝類が毒化され,それを人が食べて食中毒が起こることがある。日本ではフグによる自然毒食中毒が最も多いが,地球温暖化による熱帯性有毒フグの日本沿岸への出
現と自然交雑フグの頻発が新たな問題に加わった。また,地球温暖化はマリントキシンの拡大を招き,熱帯海域における有毒魚類による食中毒シガテラや熱帯性有毒プランクトンによる貝類の毒化も脅威となる。魚
貝類の食の安全を守るため,今まで以上にマリントキシンのリスク管理が重要になってきた。
(キーワード:マリントキシン,シガテラ,貝毒,フグ毒,地球温暖化,リスク管理) |
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