Vol.8 No.4
【特 集】 第15回若手農林水産研究者表彰受賞者の業績


動物由来薬剤耐性菌の実態解明とその対策
酪農学園大学    臼井 優
 ヒトおよび動物の細菌感染症などに使用される抗菌薬に対して抵抗性を示す細菌(薬剤耐性菌)の出現が問題となっている。また,動物からヒトへの薬剤耐性菌の伝播が懸念される。抗菌薬の使用と薬剤耐性菌の出現・拡散は明確な関連があり,公衆衛生上および動物に対する抗菌薬の有効性の確保のため,獣医師が抗菌薬を慎重使用することは重要である。そのための一助として,われわれは抗菌薬の慎重使用に関する獣医師向けのガイドブックを作成した。また,薬剤耐性菌は,環境を介して生態系で循環していることが示唆されており,われわれもOne Health approachによる耐性菌対策を推進するための研究を進めてきた。今後,薬剤耐性に関する課題に対して,より有効な対策が求められる。
(キーワード:動物由来耐性菌,抗菌薬,薬剤耐性,One Health,ガイドブック)
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雨滴測定に基づいた森林内の雨と土砂の動きの解明
森林研究・整備機構 森林総合研究所    南光 一樹
 間伐などの手入れが不十分で樹木が過密になり,地面を保護する下層植生がなくなり深刻な土壌侵食が起きている森林がある。その問題解決を目指して,林内雨滴を連続測定できるレーザー雨滴計を開発し,多様な野外観測・室内実験・理論構築を行った。林内では枝葉から滴下する大粒の雨が半分以上の量を占めた。雨滴衝撃エネルギーの大小を決める林相条件を明らかにした。地表被覆による土壌侵食抑制効果を定量化し,被覆がない森林では大粒の雨が土壌侵食を加速し,その傾向が大粒の雨が多いほど強まることを明らかにした。表土保持機能を発揮するための森林構造が明らかとなり,今後,国土全体の総合的土砂管理に貢献する成果となる。
(キーワード:土壌侵食,雨滴,樹冠構造,地表被覆,レーザー雨滴計)
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牛ルーメン微生物を用いた効率的バイオガス生産技術の開発<
石川県立大学 生物資源工学研究所    馬場 保徳
 農作物の非可食部,雑草および古紙などのリグノセルロース構造をもつ植物バイオマスは,わたしたちの身の回りの至るところに存在する。エネルギーへの変換法を確立することができれば,化石資源の代替エネルギーとして利用できることに加えて,震災時にライフラインが復旧するまでのあいだのエネルギー源にもなりうる。わたしたちは,牛のルーメン(第一胃)液を活用し,植物バイオマスからの高効率バイオガス生産(メタン発酵)技術を開発した。さらに,その残さ液は肥料となり,かつ,植物病原菌の生育を抑制することを見出した。
(キーワード:植物バイオマス,メタン,ルーメン液,植物病原菌,次世代シーケンサー)
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侵入警戒を要するウイロイドの防除について
農研機構 野菜花き研究部門    松下 陽介
 ウイロイドは一本鎖環状RNAのみからなる植物病原体であり,ポスピウイロイド属のほとんどは植物防疫法で検疫有害指定されている要警戒の重要病害である。本研究では当該ウイロイドの1種であるトマト退緑萎縮ウイロイドの国内への侵入を報告した。発生地では1万本以上の苗が廃棄処分となり,農林水産省の緊急対策事業が開始された。本事業においてTCDVdの生物学的特性を明確にし,防除マニュアルを作成することで,発生地のウイロイド根絶に成功した。また同属のジャガイモやせいもウイロイドの国内初発生を確認したことで,レギュラトリーサイエンス事業を開始し,4種ポスピウイロイドの宿主範囲・病徴等を調査して検疫上の侵入リスクを明らかにした。これらの成果から植物防疫法施行規則の改正がなされ国内防疫の強化に貢献した。加えてウイロイドの主な侵入経路である種子伝染機構を世界で初めて解明し,国内外の種苗業界における種苗検査体制の強化に寄与した。
(キーワード:ポスピウイロイド,種子伝染,ジャガイモやせいもウイロイド,トマト退緑萎縮ウイロイド)
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LED光照射によるウンシュウミカンの腐敗軽減対策
静岡県農林技術研究所 果樹研究センター    山家 一哲
 近年問題となっているウンシュウミカンの貯蔵中の腐敗を軽減するため,果実の貯蔵性向上に向けた新たな技術開発に取り組んだ。その結果,青色LED光による貯蔵病害菌抑制,貯蔵性向上効果を明らかにした。また,実際のカンキツ貯蔵庫で活用するための青色LED光照射量,照射時間,照射方法を検討し,青色LEDカートラックの開発,壁面LEDによる貯蔵方法の考案,導入指針の作成を行った。冷風貯蔵庫における青色LED設置により従来貯蔵と比べ,貯蔵後の腐敗果率が半減し,4月まで貯蔵できることを明らかにした。本成果の普及により,果実の安定出荷と生産者の所得向上が期待できる。
(キーワード:ウンシュウミカン,青色LED光,冷風貯蔵,ジベレリン,腐敗軽減)
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