Vol.8 No.7 【特 集】 気候変動に対応した農林水産研究 |
気候変動分野における農林水産業の現状と取組状況 | |||||||||||||||
農林水産省 大臣官房 久保 牧衣子 | |||||||||||||||
気候変動は世界的な食料価格の上昇をもたらすと予測されており,気候変動への対応は,われわれの食生活にも農林水産業にとっても喫緊の課題である。パリ協定の下,2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減に向けて,農林水産業の振興と気候変動問題の解決を同時に図る革新的なイノベーションとその実装が鍵となる。さらに,気候変動による被害の防止・軽減を図るため,高温耐性品種の開発・普及に加え,これを機会ととらえて新たな品種・品目や熱帯果樹等の栽培に取り組むことも含め,地域の関係者で適応策に係る検討が進められることが期待される。 (キーワード:パリ協定,農林水産省地球温暖化対策計画,革新的環境イノベーション,気候変動適応策) |
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地球温暖化が台風に及ぼす影響 | |||||||||||||||
国土交通省 気象庁気象研究所 山口 宗彦 | |||||||||||||||
地球温暖化が今後さらに進行すると,台風に伴う雨がより強くなることが予想されている。加えて,日本の位置する中緯度帯では台風の移動速度が遅くなることも指摘されている。降水の強化と移動速度の減速の相乗効果で,台風に伴う被害が将来さらに激甚化する可能性がある。一方,個々の台風の予報精度は近年格段に向上しており,例えば台風の進路予報の誤差は最近の20年間で半分以下となっている。外国の気象局のデータを使ったり,機械学習による手法を新たに取り入れるなど,気象庁の発表する台風予報は年々改善,改良されている。 (キーワード:台風,台風の統計,台風予報,地球温暖化,気象庁) |
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過去30年間の気候変動による穀物生産被害は 世界全体で年間424億ドルに上る |
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農研機構 農業環境変動研究センター 飯泉 仁之直 | |||||||||||||||
世界の平均気温は産業革命以前に比べて0.87℃上昇した。こうした気候変動により世界の農業生産に影響が生じている。本研究では,気候変動が主要穀物の過去30年間(1981−2010年)の平均収量に与えた影響を世界全体について評価した。その結果,気候変動によりトウモロコシ,コムギ,ダイズの世界平均収量がそれぞれ4.1%,1.8%,4.5%低下したと推定された。金額換算ではトウモロコシ223億ドル,コムギ136億ドル,ダイズ65億ドルに上り,気候変動による生産被害額は合計で年間424億ドルと見積もられた。すでに気候変動による穀物生産被害が生じており,気候変動への適応策の開発・普及が急務である。 (キーワード:気候変動,主要穀物,生産影響,影響評価) |
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気候変動によるわが国の水稲生産への影響と適応策 | |||||||||||||||
農研機構 農業環境変動研究センター 石郷岡 康史 | |||||||||||||||
農業において地球温暖化の影響はすでに現われており,わが国の主要穀物である水稲においても近年頻発する夏季の高温による品質低下が顕在化している。今後予測される温暖化により,影響はさらに深刻化すると危惧されている。本稿では,まず近年の夏季の高温出現の特徴とそれによる水稲生産への影響の事例と影響軽減のための有効な適応技術について述べる。そして最近の研究成果として,将来予測される温暖化によるわが国の水稲生産への影響予測と,適切な移植日の選択による影響軽減の効果に関する研究事例の一部を紹介する。 (キーワード:水稲,影響評価,適応策,外観品質) |
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家畜生産における温室効果ガスの排出削減技術 | |||||||||||||||
農研機構 畜産研究部門 長田 隆・野中 最子 | |||||||||||||||
人為的排出の24%を占める農林業・土地利用起源の温室効果ガス排出に,反すう家畜からのメタンと家畜排せつ物管理からの温室効果ガス排出削減が期待される。搾乳ロボット等を活用したメタン産生量測定システムが開発され,メタン産生量の少ないウシを選んで増やす育種改良による削減方策が確立,またメタン産生量の少ないウシに特徴的な細菌群が増加する飼養環境の理解が進んだ。浄化処理における炭素繊維リアクターによる一酸化二窒素削減,亜硝酸酸化細菌添加や含水率調整による堆肥化処理からの温室効果ガス削減法に加え,無駄なアミノ酸給与を減らして排出窒素を低減することで温室効果ガス削減が可能となる環境負荷低減型配合飼料の導入が始まっている。 (キーワード:反すう家畜,ルーメン,家畜排せつ物,堆肥化,汚水浄化) |
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生物多様性の保全と温室効果ガス排出削減策の 両立可能性を評価する |
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本研究では,パリ協定が目指す「2℃目標」の達成が全球規模で生物多様性保全にもたらす効果を,2つの生物多様性への影響,すなわち「気候変動による影響」と「温室効果ガス排出削減策に伴う土地改変による影響」を考慮して,社会経済・土地利用・生物多様性の状態を推定する複数のシミュレーションモデルを組み合わせることにより総合的に評価した。その結果,排出削減策に伴うバイオ燃料の原材料用の農地や植林地の拡大といった土地改変による影響を考慮しても,気温上昇を2℃以内に抑えることで,生物多様性の損失を抑えられるということが明らかになった。 (キーワード:土地改変,2℃目標,生態ニッチモデル,潜在生息域,共通社会経済シナリオ) |
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海水温の変化が水産資源に与える影響と 日本の水産業における適応策 |
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水産研究・教育機構 東北区水産研究所 木所 英昭 | |||||||||||||||
北太平洋における数10年スケールの海水温の変化は日本周辺海域の小型浮魚類の資源変動を引き起こしてきた。さらに,気候変動による海水温の変化が水産資源の分布・回遊を変化させることで日本の水産業にも影響を及ぼすことが懸念されている。本稿では,近年の高水温による漁場の変化と漁業の対応事例として,日本海におけるサワラの急増による各地の対応の経過と,北西太平洋のサンマ漁場の変化が与えるサンマの漁獲量減少と今後の国際的な対応の重要性をまとめた。海洋環境の変化への水産資源の応答は種によって異なり,適応策も対象種・地域によって様々である。そのため各地の適応事例を積み重ね,情報共有しながら対応方法を検討していくことも効果的である。 (キーワード:気候変動,資源変動,漁場,サワラ,サンマ) |
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浅海生態系における炭素(ブルーカーボン)貯留機能の評価 | |||||||||||||||
海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所 桑江 朝比呂 | |||||||||||||||
海洋生物によって大気中の二酸化炭素(CO2)が取り込まれ,海洋生態系内に貯留された炭素のことを,2009年に国連環境計画(UNEP)は「ブルーカーボン」と名付けた。全球の海底泥には,毎年1.9〜2.4億トンのブルーカーボンが新たに貯留され,長期間(数千年程度)保存される。浅海域には年間貯留量の約73〜79%ブルーカーボンが貯留される。本稿では,浅海域にブルーカーボンが貯留されるメカニズムや貯留速度,他の様々な気候変動緩和技術と比較した場合のブルーカーボン活用技術の長所短所,そしてブルーカーボンを活用した取り組みに関する国内外の最新動向について紹介する。 (キーワード:海藻,海草,生態系の活用,気候変動緩和策,吸収源対策) |
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