Vol.8 No.8
【特 集】 生産現場への導入が進むスマート農業技術


スマート農業特集の企画にあたって
公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会    尾関 秀樹
 スマート農業実証プロジェクトにより,スマート農業技術の実証現場が全国各地に展開しつつある。今後,スマート農業技術の社会実装を加速させるためには,優れた開発者の不断の努力と,それを支える研究環境,公的研究資金などの支援が不可欠である。また,スタートアップ企業の農業への参入を促すためには,情報の集積と発信,開発技術と開発主体のマッチングが重要である。さらには,スマート農機などの初期投資の負担軽減を図るため,リースやシェアリングサービスなどのサービス産業の創出が求められる。このように,スマート農業は新たなビジネスモデルを生み出す可能性を有している。
(キーワード:スマート農業,スマート農業実証プロジェクト,AI,スタートアップ,ビジネスモデル)
←Vol.8インデックスページに戻る

農業の軽量化を目指した農業用アシストスーツの開発
パワーアシストインターナショナル株式会社    八木 栄一
 日本の農業は後継者不足から高齢化が急速に進み,農業従事者は収穫物などの重い荷物を持ち上げて運搬することが多く,また露地栽培では長時間中腰作業が続くことにより,腰痛を患っている方が多い。このような状況のもとロボット技術を活用してスマート農業を実現する取り組みが進んでいる。今回はスマート農業の一例として,装着して力を支援するロボットであるパワーアシストスーツを開発し,農作業を軽労化することができたので報告する。
(キーワード:パワーアシストスーツ,装着型ロボット,軽労化,腰痛防止,持ち上げ,中腰,運搬,歩行)
←Vol.8インデックスページに戻る

リモコン草刈機等の中山間地域の畦畔管理への適用
農研機構 西日本農業研究センター    奥野 林太郎・菊地 麗・清水 裕太
 中山間地域などの圃場畦畔の草刈作業は,安全性と重労働の点で大きな問題となっている。現在,市販されているリモコン草刈機は自走式の車両型で100kgを超えるものが多く,我が国の水田畦畔では,法面の傾斜や畦畔までの通路などが適用の可否に影響する。農研機構西日本農業研究センターでは,ワイヤにより畦畔から滑落しない,小型軽量な草刈ロボットを開発し,現行の機械が利用できない畦畔の管理の省力化を目指している。また,リモコン草刈機を運用しながら適用畦畔の条件を調べ,空撮画像による地形の3次元化により,適用可能な畦畔をマップ化する技術の開発を進めている。今後は,畦畔の情報の把握による多様な草刈機の使い分けが重要になる。
(キーワード:畦畔管理,中山間地域,リモコン草刈機,空撮画像)
←Vol.8インデックスページに戻る

「ロボット茶園管理機」の開発
鹿児島県農業開発総合センター    野邉 勝郎・深水 裕信
 担い手不足など茶業情勢が厳しい中,国際的な競争力を高め,茶業の維持発展を図るために,ロボット茶園管理機による無人作業システムを開発した。開発は,地元企業の松元機工(株)と(株)日本計器鹿児島製作所,鹿児島県農業開発総合センター茶業部の3者の共同研究で行い,衛星測位システム(GNSS)を使わずに,茶樹と空間部分を各種センサで検知し,茶うねに沿って走行させることで,無人走行を実現した。
(キーワード:ロボット,無人作業,茶園管理機,センサ,プログラム)
←Vol.8インデックスページに戻る

豚舎洗浄ロボットの開発
農研機構 農業技術革新工学研究センター    
川出 哲生・松野 更和・志藤 博克
 豚舎洗浄作業は疾病予防のため重要であるが,作業者への労働負担が大きく,軽労化が求められている。そこで,日本の中小規模の養豚農家の豚舎に適応する洗浄ロボットの開発を開始した。洗浄ロボットは,走行部,洗浄部,制御部で構成され,洗浄水は高圧洗浄機から供給される。作業者は事前に豚房形状に合わせて作業手順を記憶させるティーチング作業を行い,実際の洗浄作業はその記憶したプログラムを再生することにより行う。洗浄ロボットは広くてシンプルな構造の肥育豚舎用と,狭小で付帯設備が多い分娩豚舎用を開発した。
(キーワード:ロボット,養豚,洗浄作業,衛生管理)
←Vol.8インデックスページに戻る

施設園芸生産現場へのスマート農業技術導入の課題と展望
近畿大学    星 岳彦
 スマート農業を施設園芸生産現場の課題解決の技術的手段と考え,「生産性向上」,「省力化」,「持続的生産」の各目的で,課題解決への貢献と今後の展望をまとめた。日本の施設園芸の規模と装備の分布は極端なピラミッド構造であり,大部分を占める中小規模施設へスマート農業技術を適用して生産性の向上を図ることが必要である。また,需給バランスを考えながら単価が向上する方向での活用も重要である。省力化については施設内のロジスティックスを効率化すること,また,持続的生産を選択するアセスメントには示量性値の見える化が大切であると考える。
(キーワード:環境制御,持続的生産,生産性向上,施設設置面積,省力化)
←Vol.8インデックスページに戻る

自動野菜収穫ロボットとRaaSモデルによる次世代農業パートナーシップ
inaho株式会社    菱木 豊
 現在,日本の農業が抱える人手不足と経営課題に対して,私たちは自動野菜収穫ロボットとRaaSモデルで解決を目指している。ロボットを農家へ無料で貸出し,収穫高に応じて利用料を受け取るビジネスモデル「RaaS(Robot as a Service)」は,初期費用&メンテナンス費用不要で,貸出しからメンテナンスまでをサービスとして提供している。最新のパーツに交換していくことでロボットの性能を継続的に向上させて,農家の利益向上に貢献することにより,テクノロジーで農業を変え,より良い未来を目指す。
(キーワード:AI,農業,ロボット,RaaS,グローバル)
←Vol.8インデックスページに戻る

熟練農家の技能継承手法
キーウェアソリューションズ株式会社    
吉村 和晃・久保 康太郎・山根 一将・多田 寛生
 当社が農業で熟練技能継承の取り組みを始めて7年が経過しようとしている。近年,農業者の高齢化や担い手不足等の問題が取り上げられる事が多くなり,熟練農業者の技能継承は以前に増して注目を浴びていると感じている。当社は7年の短い間ではあるが,全国多数の産地とご一緒させていただき,日本の農業技術の奥深さと共に,技術継承の難しさを学ばせてもらった。熟練技能継承は地域,品種,組織,ビジネスモデルなど実に様々な要素が絡みあい,実に様々で簡単に統一的なプロセスにまとめ上げられるものではない。また,技能継承の仕組みができても,社会実装し永続的に運営する事にも様々な課題が付きまとう。本稿では当社が過去に様々な経験を積み重ねてきた中で,技能継承に重要になるポイントと事例を紹介する。
(キーワード:農業,技能継承,熟練農業者)
←Vol.8インデックスページに戻る