Vol.8 No.9
【特 集】 食品の冷凍保存技術


食品の冷凍保存技術の現状と今後の課題
東京海洋大学 学術研究院    渡邊 学
 食品の冷凍保存が実用され始めてから100年余り,冷凍保存技術の高度化はいつの時代も重要な課題であった。かつては凍結工程の改善ばかりに注力されていたが,最近では,凍結前処理から解凍までのすべての工程が重要であると認識され始めている。本稿では,まず凍結工程に関する最新の研究事例を紹介する。次いで,その他の工程,特に解凍と水産物の凍結前処理が,冷凍保存された食品の高品質化に有効であることを述べる。また,冷凍保存食品が不当に低く評価されている現状とそれを打破するために品質評価技術の進展が必要なこと,さらに冷凍保存の積極的な利用がSDGsに貢献し得ることを説明し,われわれの 取り組みを紹介する。
(キーワード:凍結,保存,解凍,品質評価,SDGs)
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食品冷凍・解凍プロセスにおける非破壊計測技術の利用
株式会社前川製作所     河野 晋治
 凍結・解凍プロセスにおいて,食品の内部状態やその温度変化を把握することはプロセス管理上重要である。しかしながら,一般に広く使用されている温度計測機器を用いて内部を計測する際には破壊を伴うことから,全数検査は困難である。従って,凍結および解凍プロセスにおける食品の内部温度や状態に関するオンライン計測は実施されていない。これらが実現できれば,凍結解凍がかかわる食品の品質管理だけでなく,関連する装置の効率的な運転制御にも繋がる。このような課題に対して,マイクロ波および近赤外光を利用して内部状態を非破壊にて計測できる手法を開発したので本稿にて紹介する。
(キーワード;食品凍結,食品解凍,マイクロ波共振,近赤外光,非破壊計測)
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冷凍野菜の品質向上に向けた技術的取り組みと研究動向
農研機構 食品研究部門    安藤 泰雅
 冷凍野菜の持つ利便性や価格安定性などの利点が消費者に受け入れられ,その消費量は近年増加傾向にある。しかし,野菜は冷凍することで組織の軟化や保水性の低下が起こるため,多くの品目では依然として凍結・解凍後の品質は生鮮状態には及ばず,現在でもしばしば食感の悪化などが問題となる。本稿ではまず,凍結時に野菜の組織内で起きる現象と品質変化について概説する。また,品質低下の改善に向け開発されている技術として,超音波や高圧力を利用した技術やIsochoric freezing(定積凍結)といった新たな凍結技術の開発動向について紹介するとともに,今後求められる研究開発の方向性について述べる。
(キーワード:氷結晶,組織軟化,超音波,圧力移動凍結,定積凍結)
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冷凍水産物の品質劣化要因と適正な凍結・貯蔵条件の解明
東京海洋大学    岡崎 恵美子
水産研究・教育研究機構 水産大学校    中澤 奈穂
 冷凍水産物の品質には氷結晶が大きく影響すると考えられているが,解凍後の品質への影響の程度は,魚種,死後段階,タンパク質変性,加工品であればその加工条件や原料ならびに添加物の性状など各 種の要因により異なる。生鮮魚の冷凍肉では,pH低下などの生化学的変化の影響も大きい。本稿では,各種水産物やその加工品の冷凍による品質変化に及ぼす各種要因の影響と適正な凍結・貯蔵条件について, 近年得られた知見を含めて紹介する。
(キーワード:水産物,水産加工品,氷結晶,解凍ドリップ,貯蔵温度,タンパク質変性)
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