Vol.8 No.10 【特 集】 品種を中心とした小麦・大麦の最新研究 |
小麦・大麦の品種育成に関する研究の現状と今後の展開 |
農研機構 次世代作物開発研究センター 柳澤 貴司 |
小麦・大麦は高度に加工利用される農作物であるため実需者と育成者との連携により多くの品種が生まれて普及に至っている。近年に育成された品種の状況や,今後どのような研究を進めていけば効率的に優良な系統を選抜できるのか,どういう分野と連携を進めれば育種研究が加速し深化するか,そしてできあがった品種を,広く大面積に普及させるにはどうするかの課題,特に関係機関との連携を図る取り組みの重要性について言及し,国産の小麦・大麦品種の価値について考察した。 (キーワード:小麦,大麦,品種育成,普及,実需者) |
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製パン適性に優れる東北・北陸地域向け小麦新品種 「夏黄金」 |
農研機構 東北農業研究センター 池永 幸子 |
農研機構東北農業研究センターでは,2016年に寒冷地向け強力小麦品種「夏黄金」を育成した。「夏黄金」は,穂発芽しにくく縞萎縮病に強い品種である。「夏黄金」は低分子量グルテニンサブユニットGlu−B3g を有しており,「ゆきちから」より生地の弾力性が強く,食パンを含めた様々なパン原料として利用できる。宮城県で奨励品種に採用された他,新潟県でも栽培が広がるなど,今後,東北・北陸地域を中心に普及拡大が期待される新品種である。 (キーワード:寒冷地,小麦,製パン適性,穂発芽耐性) |
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コムギ縞萎縮病抵抗性育種におけるDNAマーカーの開発と利用 |
農研機構 次世代作物開発研究センター 小島 久代・小林 史典 |
コムギ縞萎縮病抵抗性は古くから重要な育種目標の一つである。従来は圃場検定における病徴を目視により判定して抵抗性系統を選抜していたが,近年,複数の抵抗性量的遺伝子座(QTL)が報告されてDNAマーカーによる抵抗性系統の選抜が可能になった。コムギ品種「ゆめちから」は2D染色体長腕にコムギ縞萎縮病抵抗性QTL(Q.Ymym )を有し,DNAマーカーを利用した戻し交配によりQ.Ymym を導入した抵抗性品種「タマイズミR」が育成された。さらに,近年公開されたコムギのゲノム情報を活用してQ.Ymym 強連鎖マーカーが開発され,Q.Ymym 導入に伴う色相面の問題を解決しうる新規抵抗性育種素材の開発に繋がった。 (キーワード:コムギ,縞萎縮病,WYMV,抵抗性育種,DNAマーカー選抜) |
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多収で製粉性と製めん適性に優れる温暖地西部向け 日本めん用小麦品種「びわほなみ」 |
農研機構 西日本農業研究センター 伴 雄介 |
温暖地西部で広く栽培されている日本めん小麦品種である「農林61号」や「シロガネコムギ」は,製粉性や製めん適性などの品質面で輸入小麦銘柄よりも劣っており,その改善が求められている。そこで,農研機構西日本農業研究センターは,温暖地西部の平坦地での栽培に適する日本めん用小麦品種「びわほなみ」を育成した。「びわほなみ」は,「農林61号」や「シロガネコムギ」より多収で,製粉性や製めん適性が輸入小麦銘柄と同程度に優れる品種であり,滋賀県で奨励品種に採用された。滋賀県では「農林61号」から「びわほなみ」への置き換えが順次進められる予定で,今後,温暖地西部向けの日本めん用小麦として普及が期待される。 (キーワード:小麦,日本めん,多収,高製粉性) |
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フランスパンに適した暖地・温暖地向け小麦品種「さちかおり」 |
農研機構 北海道農業研究センター 松中 仁 農研機構 九州沖縄農業研究センター 中村 和弘 |
小麦新品種「さちかおり」は,農研機構作物研究所(現:次世代作物開発研究センター,茨城県つくば市),近畿中国四国農業研究センター(現:西日本農業研究センター,広島県福山市),および九州沖縄農業研究センターの連携により半数体育種法により選抜・育成された国内初のフランスパン用小麦品種である。「さちかおり」は,暖地・温暖地向けのフランスパン加工適性が優れた小麦品種として,2017年播種から佐賀県において一般栽培が開始され,2020年播種で320ha作付けされる予定である。 (キーワード:コムギ,準強力粉,フランスパン,暖地・温暖地向け) |
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小麦の新規穂発芽耐性をゲノム編集により導入 |
農研機構 次世代作物開発研究センター 安倍 史高 岡山大学 資源植物科学研究所 佐藤 和広 |
穀物の種子休眠は雨の多い地域で収穫前に穀粒の芽が出る「穂発芽」を防ぎ,コムギでは穀粒を製粉して得られる小麦粉の品質維持のため,オオムギではビール醸造に用いる麦芽を均一に加工するために重要な形質である。本稿では,二倍体のオオムギで同定された種子休眠性遺伝子の配列情報をもとに,ゲノム編集技術を用いて新規な遺伝変異による穂発芽耐性機構をコムギに導入したので紹介する。 (キーワード:穂発芽,コムギ,オオムギ,種子休眠性遺伝子,ゲノム編集) |
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機能性に優れ,新たな需要が期待できるもち性大麦 |
農研機構 次世代作物開発研究センター 塔野岡 卓司 |
大麦は水溶性食物繊維β-グルカンを多く含む穀物で,特にもち性大麦には豊富に含まれる。もち性大麦の優れた健康機能性がテレビ等のマスメディアで度々取り上げられるようになり,健康食材としての認知度が上がり消費量が急増している。農研機構や公設試では,もち性大麦の国内生産量を拡大するため,国内各地の気象条件に適合し,病害に強く多収で加工適性も備える新品種を育成し,その普及に力を入れてきた結果,もち性大麦の国内生産量はこの5年間で100倍近くに拡大している。 (キーワード:もち性大麦,新品種,β-グルカン,機能性,食味) |
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岡山県美作市のもち麦の普及の取り組みについて |
岡山県美作市 保健福祉部 谷口 啓子 |
美作市では,2016年から健康寿命の延伸と医療費削減を目的として,もち性大麦キラリモチの摂取普及活動を展開している。これは,もち性大麦キラリモチに豊富に含まれる水溶性食物繊維β-グルカンが持つ健康機能性に期待した取り組みである。この普及活動の端緒となったのは,2014年に行った美作市立老人保健施設の入所者を対象としたもち麦ご飯の提供による便秘改善調査であり,便秘傾向の改善とそれによる下剤使用量の減少を確認した。さらに2017年には,美作市民を対象に日常的なもち麦ご飯摂取が血中脂質などの健康指標にどう影響するか調査を行った。ここでは,二つの調査の結果および市民と連携したもち麦普及への取り組みについて紹介する。 (キーワード:もち麦,キラリモチ,便秘,脂質異常,地方創生) |
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大麦のチカラで日本を健康に! ―国産もち性大麦の需要拡大に向けて |
株式会社はくばく 購買部 林 恵子 |
独自の食文化を形成してきた経緯があったのに,こと健康機能性という点では世界のトレンドに遅れをとる日本。大麦の市場拡大の鍵を握るのは,潜在ニーズの顕在化であり,それには様々な方法がある。事例を紹介しつつ,今後の需要拡大に必要な取り組みを考察する。 (キーワード:麦ご飯,大麦,もち性大麦,健康機能性) |
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もち麦を作りこなし6次産業化で地域活性化を推進 |
農研機構 西日本農業研究センター 岡本 毅 |
もち麦は消費者の健康志向に応えた健康機能性を提供できる理想的な食品である。その継続的な摂取が生活習慣病の予防に役立ち,健康改善による医療費削減も期待できる。もち麦を知らない人はまだ多く,潜在的な需要を呼び起こせる余地は大きい。これまでもち麦は小規模生産者でも取り組める6次産業化の素材として各地で活用されてきたが,収量の低い事例が少なくない。今後より幅広い消費者層に向けてもち麦を普及し日常的に食べ続けてもらうためには,生産原価を抑えた適正価格で供給していくことが求められる。そこで,もち麦を作りこなし安定的に高い収量を得るための技術的なポイントを紹介する。 (キーワード:もち麦,地域活性化,健康機能性,標準作業手順書) |
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