Vol.9 No.2 【特 集】 東北被災地復興に向けた農林水産技術の社会実装 |
東日本大震災とJATAFFジャーナル | ||||||||||||||||||
JATAFFジャーナル編集長(専務理事) 尾関 秀樹 | ||||||||||||||||||
2021年3月は東日本大震災,東京電力福島第一原子力発電所事故から10年を迎える。この間,被災地域の復興に向けて,農林水産業再生のための先端技術の導入・社会実装,放射性物質により汚染された農地等の除染と農林業再開のための対策が行われてきた。10年という節目に当たり,先端プロ等の技術実証の成果を中心に,公的研究機関,大学,普及関係機関などによる研究の取り組みとその成果を紹介する。 (キーワード:東日本大震災,食料生産地域再生のための先端技術展開事業,社会実装,除染,地震・津波被災地域) |
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岩手県における醸造用ブドウの垣根仕立て栽培技術を基軸とした生産振興 | ||||||||||||||||||
岩手県農業研究センター 石川 勝規・大野 浩 | ||||||||||||||||||
岩手県では,被災地域農業の復興に向け,2013年度から2017年度にかけて,「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」による実証研究を実施し,果樹では醸造用ブドウの省力的な垣根仕立て栽培技術開発に取り組んだ。その結果,定植2年目から収穫可能な赤用と白用の2品種を選抜し,垣根仕立てとレインプロテクションの組み合わせで,設置費用15%削減,労働時間は半減を達成するなど,低コストで省力的な垣根仕立て栽培技術を開発した。そして,先端プロの社会実装事業と県事業である「いわてワインヒルズ推進事業」との相乗的な効果で,本成果の社会実装が進み,本県醸造用ブドウの生産振興が図られている。 (キーワード:醸造用ブドウ,垣根仕立て,ワイン,食料生産地域再生のための先端技術展開事業,社会実装) |
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キュウリ先端肥大症の発症要因解明と対策技術の確立 | ||||||||||||||||||
岩手県農業研究センター 田代 勇樹 茨城大学農学部附属国際フィールド農学センター 佐藤 達雄 |
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夏期高温期に流通段階で果実先端が奇形肥大する障害「キュウリ先端肥大症」通称「フケ果」が発症し,産地の信頼の低下や単価の下落を招いている。東日本大震災被災地域のキュウリ産地復興の一助となるよう,本障害の要因解明および対策技術の確立を試みた。発症には品種や草勢などの影響を受けない一方,受精による種子形成の影響を受ける。鮮度保持フィルムを用いることで発症を抑制できることを実証し,岩手県内での社会実装を進めている。 (キーワード:キュウリ,先端肥大症,フケ果,鮮度保持フィルム,先端プロ) |
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大区画ほ場によるプラウ耕乾田直播技術の導入拡大 | ||||||||||||||||||
農研機構 東北農業研究センター 長坂 善禎・宮路 広武・赤坂 舞子 | ||||||||||||||||||
筆者らは津波被災地である宮城県の平野部において,2012年からプラウ耕グレーンドリル乾田直播技術の開発,実証に携わってきた。開発・実証の研究プロジェクト終了後は社会実装を促進するための事業に携わっており,県,JA,企業等と協力して実証とともに生産者と現場で対話しながら,乾田直播に取り組む生産者の技術的なサポートを行っている。2020年の宮城県での普及目標は1,000haであるが,生産現場の関心も高く,今後はそれを超えてさらに拡大が進むと考えられる。 (キーワード:乾田直播,大区画ほ場,プラウ耕,社会実装) |
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石巻地域におけるいちごの総合的病害虫管理(IPM)技術導入の取組みと普及 | ||||||||||||||||||
宮城県石巻農業改良普及センター 鈴木 香深 宮城県みやぎ米推進課 志賀 紗智 |
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宮城県石巻地域はいちごを中心とした大規模経営体による園芸生産が盛んな地域であり,ナミハダニやうどんこ病といった難防除病害虫の対策が急務となっている。
そこで,高濃度炭酸ガスくん蒸処理,天敵,気門封鎖型薬剤の使用によるハダニ類防除や紫外線照射によるうどんこ病防除などの総合的病害虫管理(IPM)技術の導入を目指した取り組みを行ったので報告する。 (キーワード:いちご,IPM,天敵,炭酸ガスくん蒸処理,紫外線(UV-B)照射) |
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水稲の放射性セシウム吸収に対する土壌の非交換態カリウムの抑制効果の活用 | ||||||||||||||||||
京都府立大学 生命環境科学研究科 矢内 純太 | ||||||||||||||||||
水稲による放射性セシウムの吸収は,土壌の交換態カリウムが土壌100g中25mg(K2O換算)という基準値以上であれば抑制されることが知られてきたが,交換態カリウムが基準値以下であっても非交換態カリウムが土壌100g中50mg(K2O換算)以上と比較的高ければ抑制されることが現地試験により実証された。従って,放射性セシウムの移行抑制のために実施してきたカリウム肥料の追加施肥を徐々に減らしていく際には,土壌の交換態カリウムだけではなく,非交換態カリウムも考慮して移行リスクの判断を行うことで,安全・安心な食料生産をより確実なものにできると期待される。
(キーワード:雲母鉱物,土壌,農耕地,非交換態カリウム,放射性セシウム) |
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高速汎用施肥播種機による被災地水田と畜産をつなぐ多収水田輪作システム | ||||||||||||||||||
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高速汎用施肥播種機を用いたプラウ耕鎮圧体系による乾田直播水稲−極早生子実用トウモロコシ−ダイズの水田輪作体系下において,トウモロコシの作け付前に家畜ふん堆肥を導入するとともに,収穫したトウモロコシを給与した家畜からの堆肥を再び循環利用し,トウモロコシ作付け後に緑肥を導入した多収水田輪作システムを開発した。福島県浜通り地域の営農再開農地において乾田直播水稲600kg/10a,ダイズ250kg/10a以上の多収性を実証した。 (キーワード:乾田直播水稲,高速汎用施肥播種機,耕畜連携,子実用トウモロコシ,ダイズ) |
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貝類養殖業の安定化,省コスト・効率化のための実証研究 −新しいカキ養殖技術の社会実装− |
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宮城県水産技術総合センター 伊藤 貴 | ||||||||||||||||||
食料生産地域のための先端技術展開事業(先端プロ研)(2013〜2017年度)において,外観や風味に特徴のある高品質な一粒カキ「あまころ牡蠣」,「あたまっこカキ」の生産技術を開発し,試験販売で好評を
得た。社会実装事業においては,すでに販売を開始していた「あまころ牡蠣」の販売数の増加やこれら高品質一粒カキの養殖技術の普及・定着に取り組んだ。技術普及は一定の成果を得たものの,販売に関してはコ
ロナウイルス感染症の影響により目標とした成果は得られなかった。しかし,漁協,生産者を中心に地元関係者が連携することで販売に取り組む体制ができ,生産者も意欲的に生産活動を進めている。このことから,
引き続き安定的な技術の定着と継続的な販売を目指した取り組みを進めていきたいと考えている。
(キーワード:社会実装,未産卵一粒カキ,潮間帯干出カキ,あまころ牡蠣,あたまっこカキ) |
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ICTを活用した福島県沿岸漁業の操業効率化と資源管理の推進 | ||||||||||||||||||
福島県水産海洋研究センター 坂本 啓 | ||||||||||||||||||
ICTを活用して海洋環境情報・操業情報・市況情報を一元的に収集・発信する操業支援システムを構築した。海洋環境情報・市況情報は新しく開設したインターネットWebサイト(「ふくしま Marine
System」)で毎日発信され,操業情報はデジタル操業日誌の開発によりこれまでの紙媒体の情報よりも集計作業が大幅に削減された。本システムの運用により,これまでになかった情報の発信と迅速な資源状況や漁
場分布の把握が可能となり,効率的な操業と資源管理の促進,福島県沿岸域の漁業の発展が期待できる。
(キーワード:ICT,支援システム,デジタル操業日誌,操業の効率化,資源管理) |
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魚類における性格(行動)の育種の可能性 | ||||||||||||||||||
東北大学大学院 中嶋 正道 | ||||||||||||||||||
アユは内水面漁業において漁獲対象種としてだけではなく遊漁としても重要な種である。遊漁,友釣り,としての重要性は縄張り形成能によるところが大きい。縄張り形成能の高い系統の育種は重要課題であ
ると言える。しかし魚類における性格の遺伝性や育種の可能性に関する研究は少ない。ここでは魚類だけではなく家畜などの動物における性格の遺伝研究を紹介するとともに,アユにおける性格の解析結果と育種
の可能性に関して述べる。また,魚類においても高密度DNAマーカーが開発されていることから,これらを用いたゲノム育種の可能性についても述べる。
(キーワード:アユ,縄張り形成,遺伝率,DNAマーカー,ゲノム育種) |
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原発事故による森林への放射能汚染の影響と山村の復興支援に向けた技術開発 | ||||||||||||||||||
森林研究・整備機構 森林総合研究所 篠宮 佳樹 | ||||||||||||||||||
森林総合研究所では,原発事故直後から森林内に降下した放射性セシウム分布を追跡してきた。2019年の時点では,森林内の放射性セシウムの大部分は,落葉層や土壌表層に蓄積していることを明らかに
している。また,木材の放射性セシウム濃度の変動傾向から,森林生態系における放射性セシウムの動きは平衡状態のステージに近づいていることがうかがえる。他方,原発事故は,山村の暮らしに彩りを添えてい
た,きのこや山菜を広範囲にわたって放射性物質で汚染し,山村の暮らしぶりも大きく変化させた。野生きのこは種類別に放射性セシウム濃度特性に違いがあることが明らかにされ,現在一括されている野生きのこ
の出荷制限を種類ごとに決められる可能性が出てきた。山菜については調理法により放射性セシウムを削減できることがわかってきた。放射性セシウムが落葉層や土壌表層に集積していることが分かっていても,森
林から汚染部分を除去することは莫大な費用がかかることや多面的機能の低下の懸念があるため,極めて難しい。発想を転換し,工夫して現実に適応していくことも重要である。
(キーワード:原発事故,森林,放射性セシウム,野生きのこ,山菜) |
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