Vol.9 No.4 【特 集】 第16回若手農林水産研究者表彰受賞者の業績 |
抵抗性遺伝子が担う植物のウイルス防御機構 |
農研機構 生物機能利用研究部門 石橋 和大 |
作物のウイルス病対策として,近縁野生種等との交配育種によってウイルス抵抗性作物が育成されてきた。このとき,導入された遺伝子を一般にウイルス抵抗性遺伝子とよぶ。本研究では,それぞれ商用品種にも導入されている,トマトのトマトモザイクウイルス(ToMV)抵抗性遺伝子Tm-1 およびダイズのダイズモザイクウイルス(SMV)抵抗性遺伝子Rsv4 を同定し,これらの遺伝子がどのようにウイルスの増殖を抑制しているのかを解明した。また,得られた知見を基に,新たにウイルス増殖抑制タンパク質の設計に成功した。 (キーワード:トマトモザイクウイルス,ダイズモザイクウイルス,トバモウイルス,ポティウイルス,プラス鎖RNAウイルス) |
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植物のオイルボディは次世代農業のための有用なバイオツールである |
千葉大学大学院 園芸学研究科 島田 貴士 |
植物脂質の資源確保は日本の喫緊の課題であり,次世代農業による新技術開発が必要である。著者らは植物の脂質貯蔵のための細胞小器官であるオイルボディに着目した。オイルボディの基礎研究から,形質転換体種子の視覚選抜法を開発した。また,葉のオイルボディが抗菌物質の産生に関わることを見出した。さらに,葉のステロールエステル量が増加した変異体植物を作出した。これらの研究から,葉での脂質増産を可能にするバイオツールの開発に成功した。有用脂質を葉に蓄積させることで,これまで不要であった葉を有効利用することが可能になると期待している。 (キーワード:植物脂質,オイルボディ,形質転換体選抜,老化葉,抗菌物質,ステロールエステル |
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アフリカの養分欠乏環境における効率的なイネ生産技術の開発 |
国際農林水産業研究センター 辻本 泰弘 |
飢餓人口が増え続けるアフリカの食料安全保障の実現は,国連の持続的な開発目標SDGsにも掲げられた国際的課題である。筆者は,アフリカで消費が拡大するコメの安定生産につながる研究に取り組んできた。西アフリカに広く存在する河川氾濫原では,土壌肥沃度(土壌有機物量)の空間変動と水の動きを局所的にとらえることに成功し,「土壌肥沃度が高くかつ洪水リスクが低い」未利用地の存在を明らかにした。加えて,これら未利用地では,畦畔や灌漑設備がなくても,極めて高いイネ収量が得られることを実証した。さらに,少量のリン肥料を加えた泥を苗の根に付着させてから移植する簡易処理P-dippingにより,施肥効率の大幅な向上と生育日数短縮による環境ストレス回避に繋がることを解明した。このように,灌漑水や肥料などが限られた地域でも,効率的にイネ収量を改善できる生産技術を開発してきた。現在,得られた成果を地域の稲作農家に普及するための活動を進めている。 (キーワード:アフリカ,イネ,SDGs,河川氾濫原,P-dipping,社会実装) |
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作物における品種識別技術の開発と遺伝育種学的解析 |
岡山大学大学院 環境生命科学研究科 門田 有希 |
近年,我が国で育成された作物品種の育成者権侵害に関わる問題が深刻化しており,品種識別技術の開発が急務となっている。筆者らは,レトロトランスポゾンという複製DNA配列を利用することで,従来法では困難であった加工品からの品種特定を可能にする新たな識別法を開発した。また,作物の育種はイネなど二倍体種中心に進められてきたが,作物種の大半は高次倍数性種であり,倍数性種にフォーカスした研究・解析は必須である。そこで筆者らは高次倍数性種の遺伝解析を精力的に進め,農業形質に関わる遺伝子座の特定や実用的な選抜DNAマーカーの開発を行った。これら成果は,国産品種の輸出強化やスマート農業とも密接に関連しており,我が国の農業の発展に大きく貢献することが期待される。 (キーワード:育種,DNAマーカー,品種識別,高速シーケンサー,倍数性) |
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6次産業化の商品開発手法の開発による農業復興への取り組み |
農研機構 東北農業研究センター 安江 紘幸 |
東日本大震災からの農業復興に向けては,機械・施設への投資などに伴う経費が増加する中で,必要な収益を確保することや農家の意欲減退防止などが重要な課題である。特に6次産業化等の新事業を始める時には,早期に収益を確保することが課題であり円滑な商品開発が求められる。その中で津波被災地域は,被災前と異なる圃場条件下で営農を再開しなければならない等の問題を抱えており,農家の営農意欲が削がれている。そこで本研究では,被災農家が新商品開発に自発的に取り組み収益改善を図れるよう,6次産業化における商品開発・技術普及を支援する実用的ツールを開発し,小規模事業単位であっても収益改善に活用できる可能性を明らかにした。 (キーワード:商品開発手法,6次産業化,農業復興,プロトタイピング) |
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