Vol.9 No.5 【特 集】 ゲノム編集の国民理解醸成に向けた取り組み |
ゲノム編集の理解醸成に向けたSIPにおける新たなコミュニケーションの取り組み |
農研機構 企画戦略本部 高原 学 |
SIPバイオ・農業がめざす持続可能な循環型社会の実現に向けて,「ゲノム編集技術」はキーテクノロジーとして期待されるが,その利活用には国民・消費者の理解が欠かせない。われわれはSIPの中で,この技術に対する理解を醸成するため,ゲノム編集に関係する正確な情報を収集し,国民・消費者の情報源として大きな影響力を持つメディア・教育界・産業界・行政関係への効果的な情報発信を実践することに,特に教育面での活動に重点を置いて取り組んでいる。本稿では,SIPにおけるゲノム編集の理解醸成に向けた新たな取り組みの全体像を紹介するとともに,今後の展望や課題について概説したい。 (キーワード:ゲノム編集,コミュニケーション,アウトリーチ,SIP,バイオ戦略) |
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ゲノム編集技術の育種利用に関する最新情報の分かりやすい記事化の取り組み |
筑波大学 T-PIRC遺伝子実験センター 津田 麻衣 |
ゲノム編集技術の育種への適用に関する最新研究を一般向けウェブサイト「バイオステーション」で解説している。本稿ではサイトが発足した2019年以降の2年間に掲載した7本の記事の概要,ならびにこれら記事を通したゲノム編集技術への理解醸成を目指すうえで記事作成の際に心掛けているポイントを紹介する。 (キーワード:ゲノム編集技術,育種利用,最新研究紹介,ウェブサイト,理解醸成) |
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海外におけるゲノム編集の規制に関する動向 |
名古屋大学 大学院 立川 雅司 東京大学 公共政策大学院 松尾 真紀子 |
海外諸国におけるゲノム編集技術をめぐる規制動向に関して,アメリカ,EU,南米,オセアニアを中心に概観した。アメリカや南米などは,ゲノム編集技術を応用した作物などについて従来育種と同等として規制しない方針をとる一方で,EUやニュージーランドでは遺伝子組換えと同等として規制対象とされている。世界の規制動向は,このように大きく異なった対応がとられ,パッチワーク的状況が生じつつある。またアメリカでのゲノム編集動物の取り扱いも規制の見直しが検討されつつあり,なお流動的な様相を呈している。ゲノム編集技術の変化や周辺技術(デジタル技術など)との相互影響も含めて,技術変化とその含意にも今後注意を払う必要がある。 (キーワード:ゲノム編集技術,規制,アメリカ,EU,オセアニア) |
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ゲノム編集特許の最新の動向 |
セントクレスト国際特許事務所 橋本 一憲 |
ゲノム編集技術については,昨年,第三世代のCRISPR-Cas9がノーベル化学賞の対象技術となった。しかしながら,特許の世界では,出願時に先発明主義を採用していた米国において,いまなお発明日の優劣を巡る基本特許権者間の特許紛争が続いており,先願主義を採用する日欧においても,成立した基本特許に対して,次々と異議申し立てが行われている。その一方で,わが国では,国家プロジェクトを中心に,様々な国産ゲノム編集技術が開発された。これら技術の多くは,すでに,ベンチャー企業を通じて本格的なビジネスが開始されており,海外基本技術を基礎とする改良の場合には,必要に応じて,基本特許のライセンスインも含めたビジネス基盤の整備も進められている。そこで,本稿では,国内外のゲノム編集技術の知財に関する,これら最近の動向を中心に解説する。 (キーワード:先発明主義,先願主義,インターフェアレンス,異議申立,DETECTR,SHERLOCK,CONAN,PODiR) |
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ゲノム編集技術のコミュニケーション活動:海外の動向 |
国際基督教大学 山口 富子 |
ゲノム編集技術が世界的な広がりを見せる中,ゲノム編集技術に関するコミュニケーション活動も広がりを見せる。そこで本稿では,欧州や米国での実践を中心にゲノム編集技術のコミュニケーション活動を俯瞰する。欧米では,コミュニケーション活動の射程が広くゲノム編集技術についての情報を提供する活動や市民と繋がるための取り組みなど,さまざまな活動が展開する。そして,そこから分野を超えた人々のコミュニティが形成されつつある。日本においても活動の射程を広げることで多様な人がかかわるコミュニティが形成されることが期待される。 (キーワード:ゲノム編集技術,コミュニケーション活動,コミュニティの形成) |
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情報ウェブサイトを基盤としたメディアなどに対する情報発信 |
農林水産・食品産業技術振興協会 藤井 毅 くらしとバイオプラザ21 佐々 義子 |
先端バイオテクノロジー,特にゲノム編集技術に対する国民の理解を増進するため,ゲノム編集にかかわる正確な研究開発情報と,関連する法令や知財情報などを分かりやすく解説する情報ウェブサイト,「バイオステーション」を構築し公開した。また,公開と同時に,本サイトの記事の更新や最新研究開発情報などを,逐次,マスメディア関係者などに提供するプッシュ型情報発信を開始した。こうした取り組みや新企画の立ち上げなど,内容の充実に努めたことにより,月当たりのアクセス者数は右肩上がりに上昇,公開後1年半後には公開時の10倍に達し,累積アクセス者数は延べ7万人を超えた。
(キーワード:ゲノム編集,ウェブサイト,情報発信,国民理解,育種) |
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ゲノム編集技術の認知度と応用に対する推進意向の定点観測 |
北海道大学 農学研究院 齋藤 陽子 |
本稿では,ゲノム編集技術に関する認知度と,研究シーズを含むさまざまな応用に対する一般市民の推進意向について,2016年から継続する定点観測の結果を紹介する。調査開始以降,認知度は継続的に上昇し,とりわけ医療応用に対する強い期待が示された。一方,その便益が一般消費者には理解が難しい,あるいは間接的で見えにくい研究シーズについては,必ずしも強い推進意向とはならなかった。ただし,推進意向が強いとはいえない場合でも,ゲノム編集技術を応用する目的について,食料や資源問題,医療技術の進歩といった,解決しようとする社会課題をその背景と合わせて分かりやすく説明することで,理解を得ていくことができる。 (キーワード ゲノム編集技術 認知度 消費者便益 生産者便益 医療応用) |
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Web情報のAI解析による国民意識の効果的な把握 |
農研機構 企画戦略本部 赤間 剛・大田 方人 |
ゲノム編集食品の社会実装のためには,消費者に必要な情報を適切に提供し国民理解の醸成を図ることが必要不可欠であり,そのためには国民の意識動向の現状を把握することが求められる。われわれはこれまでにTwitter解析が意識動向を探る上で即時的なセンサーとして有用であることを示しているが,新たにTwitterデータおよびWebアンケートによるゲノム編集食品に対する意識動向の調査を検討した。ツイートのセンチメント分析およびアンケートの回答結果から受容度を明らかにし,さらに自由記述を対象としたテキストマイニングによって話題を可視化して解析対象によって異なる特長を明らかにした。得られた成果は理解醸成のための効果的な情報発信に応用可能であると考えられる。 (キーワード:ゲノム編集食品,Twitter,Webアンケート,テキストマイニング,AI解析) |
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中等教育向け教材開発を通じた新しいアウトリーチ |
株式会社リバネス 教育開発事業部 西山 哲史・立花 智子 くらしとバイオプラザ21 佐々 義子 |
株式会社リバネスでは2020年度,ゲノム編集をテーマとして中学校,高等学校向けに学校の授業の中で利用される教材プロトタイプを開発し,その実施モデル校を募集した。2020年3月時点で13校で実施が進行しており,今後も実施校を拡大していく予定である。この形式は従来の出張授業や公開セミナーなどのイベント型アウトリーチとは異なり,学校教員を巻き込みながら自律的に伝え方と伝える場が拡大していく新しいアウトリーチの形式となりうる。 (キーワード:アウトリーチ,教育,教材開発) |
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