Vol.9 No.6
【特 集】 食のフロンティアとパラダイムシフト


ウシ3次元組織培養による次世代食肉生産技術の開発
日清食品ホールディングス株式会社 グローバルイノベーション研究センター  古橋 麻衣
東京大学大学院 情報理工学系研究科    竹内 昌治
 人口増加に伴う食肉需要の増加や食生活の多様化を背景に,培養肉への関心が高まっている。培養肉とは,動物の細胞を培養により増やし,増やした細胞を用いて組織形成することにより作られる。省スペース,省資源で作製可能なことから持続可能な新しい食肉として期待されている。畜肉と同じく動物性タンパク質をタンパク源とする培養肉は,より伝統的な肉に近いものを実現できる可能性を持つ。私たちは3次元組織工学の手法を生かし,筋肉の立体構造を再現し,肉本来の食感を持つ培養ステーキ肉の開発を試みている。
(キーワード:培養肉,ウシ細胞,代替タンパク質,3次元筋組織培養,食感)
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植物性タンパク質を用いた調理法と今後の家庭料理作成の望ましい学習法について
日本医療栄養センター     井上 正子
 日本医療栄養センターでは,生活習慣病の改善食をはじめとして,予防食または日常食に常備するような身近な食材として,健康管理に役立つ"植物性タンパク質の食事法"の研究と指導を行っている。植物性タンパク質を「生活環境に即して手軽においしく調理」を目標に,学生をはじめ料理教室の参加者等を対象に教育・指導を続けてきた。本稿では植物性タンパク質を普及するための活動の中から,料理教室における基礎的な調理と問題点となる嗜好特性についても取り上げ,植物性タンパク質の良さが無理なく定着し,家庭料理のお手本となるようにレストランでの「植物性タンパク質を用いたコース料理」の指導の取り組みについても紹介する。
(キーワード:植物性タンパク質,大豆タンパク,嗜好特性,料理教室,家庭料理,レストランメニュー)
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昆虫を活用した新たな食料生産システムの構築
お茶の水女子大学 由良 敬       東京農工大学 鈴木 丈詞
徳島大学 渡邉 崇人       長浜バイオ大学 小倉 淳
早稲田大学 朝日 透       水産研究・教育機構 生田 和正
農研機構 霜田 政美       国際農林水産業研究センター 森岡 伸介
東京海洋大学 佐藤 秀一       理化学研究所 中村 龍平
 ムーンショット型農林水産研究開発事業では,地球環境に負荷をかけることなく,これからの人口増加にも対応できる食料増産を実現する手段の確立を目指している。この目標を実現するプロジェクトの一つとして,「地球規模の食料問題の解決と人類の宇宙進出に向けた昆虫が支える循環型食料生産システムの開発」が採択された。このプロジェクトでは,高品質のコオロギとミズアブを短期間で家畜化し,食用および飼料用に大量生産できるしくみを構築する。プロジェクトがどのような最先端の技術と研究でささえられているかを以下に紹介する。
(キーワード:コオロギ,ミズアブ,家畜化,極限環境,資源循環)
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食選好に関するセグメンテーション研究に基づくコオロギフードの開発
FUTURENAUT株式会社    櫻井 蓮
 食用昆虫は栄養源としても,持続可能性の観点からも優位性を持つと評価されている。日本では昆虫の姿に抵抗感を持つ人も多いため,抵抗感緩和のためにパウダー化することが有効策の一つである。初期の市場を創造するためには,この新しい食品に最初に関心を示す消費者セグメント(アーリーアダプタ)を明らかにし,その集団に訴求する商品戦略を探究することが極めて重要である。本稿では,筆者らが行った食選好に関するセグメンテーション研究の結果から,アーリーアダプタとなる消費者の行動特性を概観する。また,この研究を踏まえた製品(クリケットフード)開発の歩みを紹介する。
(キーワード:昆虫食品,コオロギパウダー,ネオフォビア,消費者分析,マーケティング)
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JAXA宇宙日本食の現状と今後の展開
宇宙航空研究開発機構    佐野 智
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)では,2004年に宇宙日本食の開発に着手し,多数の食品企業の皆様との協力により,2007年に29品目(12社)が初認証され,現在47品目(26社)までに拡大している。宇宙産業自体が年々拡大している中,特に宇宙食は,認証され宇宙にたどり着くまでの困難さと,「食」という親近感をあわせもち,新規参入希望の多い宇宙事業領域でもある。また,JAXAでは月・火星探査に必要な健康管理技術(栄養不足など含む)を識別し,関連技術を有する企業・組織と協力し研究を進めている。引き続き,これらの分野で皆様と協力し,All Japan体制で宇宙事業・食品産業のさらなる発展に繋げていきたい。
(キーワード:宇宙食,パフォーマンス向上,長期保存,民間企業,月・火星探査)
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機能性宇宙食と宇宙植物工場の展望
徳島大学大学院    榊原 伊織・宮脇 克行・高橋 章・二川 健
 人類が宇宙開発を進展させる上で,宇宙で活動する宇宙飛行士に食を供給することは必須である。宇宙では無重力条件にさらされるため,酸化ストレスとそれに誘導されるCbl-bにより骨格筋の萎縮が起こる。この筋萎縮は,抗酸化作用をもつポリフェノールと大豆タンパク質グリシニンにより軽減することができる。筋萎縮の抑制効果を持つ食材・食事を「機能性宇宙食」と呼び,ポリフェノールを含む植物や大豆を栽培するための完全制御型植物工場を宇宙に設置することを目標に宇宙栄養研究センターの活動を行っている。
(キーワード:植物工場,機能性宇宙食,骨格筋,抗酸化,大豆)
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長期宇宙滞在と宇宙食の可能性
名古屋女子大学     片山 直美
 ステーションを用いた長期宇宙滞在が可能となり,さらに今後は月基地,火星移住を念頭に入れた宇宙開発が行われていく中で,生命維持には欠かすことのできない「食事と栄養」について注目が集まっている。宇宙における「健康を維持増進するための食事と栄養」に関する研究は,そのまま地球上における食糧問題にも関連することから,様々な栄養・調理面も踏まえた宇宙食の開発の可能性について考えてみたい。
(キーワード:栄養,培養肉・代替肉(植物性タンパク質),昆虫食,宇宙食)
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