Vol.9 No.9
【特 集】 人と動物の共生に向けて


ポストコロナ日本社会におけるペットとのかかわり
―高齢化やコロナ禍の影響と課題―
ヤマザキ動物看護大学 動物看護学部     新島 典子
 ペットの高齢化による費用や労力の増加,飼い主側の特徴である未婚化,晩婚化,少子高齢化,高い社会的孤立度などによるペットの存在意義の高まりを示し,死生観・動物観の影響やペット介護の外部化,看取り支援の必要性などを取り上げ,ポストコロナ日本社会におけるペットとのより良いかかわりに向けた高齢化やコロナ禍の影響と課題を検討する。
(キーワード:社会的孤立,動物観,ペット介護,老犬ホーム,供養)
←Vol.9インデックスページに戻る

高齢期のペットロスとその適応プロセス
横浜国立大学大学院 環境情報研究院    安藤 孝敏
 近年のペットブームを経て,ペットと飼い主を取り巻く環境が大きく変化し,人と動物の関係性が劇的に変わってきた中,「ペットロス」という新たなトピックが注目されるようになってきた。急速な人口の高齢化により,高齢の飼い主が高齢のコンパニオンアニマルと生活することも珍しくなく,長い時間を共にしたコンパニオンアニマルが亡くなることは高齢の飼い主にどのような影響を及ぼすのだろうか。高齢期のペットロスとその適応プロセスについて紹介する。
(キーワード:ペットロス,悲嘆,コンパニオンアニマル,高齢者,高齢期)
←Vol.9インデックスページに戻る

アザラシ型ロボット・パロによるロボット・セラピーと
世界の医療福祉制度への組込み
産業技術総合研究所 人間情報インタラクション研究部門
     柴田 崇徳
 アニマル・セラピーを参考に,動物を飼えない場所や人のために,低コストのアザラシ型ロボット「パロ」を研究開発,実用化した。臨床評価や治験を重ね,パロのセラピー効果のエビデンスを蓄積し,人と動物との関係が深い米国と欧州ではパロを「医療機器」とし,日本では「福祉用具」とした。米国では,認知症,PTSD,ガン,脳損傷,パーキンソン病などの患者の不安,痛み,うつ,興奮(問題行動)などの診断後に,非薬物療法として「パロを用いるバイオフィードバック・セラピー」が処方・処置されると公的医療保険などにより費用が保険償還される。銀イオンを含む人工毛皮の掃除・消毒手順の安全性が認められ,感染症対策が厳しい小児集中治療室や急性期病棟でもパロが導入された。また,世界各地で各種医療福祉施設や在宅介護でパロの導入費用が公的に助成されるなど,医療福祉制度にパロが組込まれた。コロナ禍では,社会距離による孤独や人手不足の改善のためにパロが貢献している。将来は,火星探査など長期遠隔宇宙旅行への応用を目指す。
(キーワード:バイオフィードバック・セラピー,認知症の周辺症状,孤独,抑うつ,不安,痛み,興奮)
←Vol.9インデックスページに戻る

ゲノム獣医療―ゲノム科学を活用した獣医療の最新動向―
アニコム先進医療研究所株式会社 研究開発課     松本 悠貴
 近年,ヒトのゲノムを詳細に調べることで,ヒト疾患の診断や治療に役立てるゲノム医療が普及し始めている。イヌやネコをはじめとした伴侶動物を対象とする獣医療分野においても,ゲノム獣医療という同様の試みが進められている。現段階では,ゲノム獣医療に関連する研究報告は,ヒトのゲノム医療と比較して十分の一程度であるが,イヌやネコにおいても包括的なゲノム情報を収集するプロジェクトが開始され,その成果を使用した症例報告も増えてきている。今後,ゲノム獣医療を広く普及させるためには,関連する研究の発展に加え,ゲノム情報や医療情報データベースの整備,より多くの獣医療関係者への普及啓発が必要である。
(キーワード:獣医療,遺伝子,遺伝子検査,ゲノム,ゲノム獣医療)
←Vol.9インデックスページに戻る

人獣共通感染症を踏まえたペットとの暮らし方
北里大学 獣医学部    木村 祐哉
 ペットとヒトがより密接に関わるにつれ,動物たちを通じて人獣共通感染症に罹患するリスクが増してきている。人獣共通感染症には軽度なものから命に関わるものまでさまざまあるが,ヒトとの接点がほとんどなかったような野生動物と異なり,ペットとして以前から飼育されてきた動物種のもつ病原体の多くは既知のものである。適切な飼育法と予防によって管理可能なリスクなので,ただ闇雲に恐れるのではなく,ヒトとペット双方の健康を維持しながら,ともに暮らす利益を享受することが望まれる。
(キーワード:人獣共通感染症,予防,ワンヘルス)
←Vol.9インデックスページに戻る

ペットフードをめぐる最近の状況と今後の展望
北里大学 獣医学部    有原 圭三
 犬や猫といった愛玩動物のために加工調製されるペットフードは,約160年前にイギリスで事業化され,産業として発展してきた。日本におけるペットフード産業も60年ほどの歴史を有するに至っている。ペットの家族化やペットフード安全法の施行等により,ペットフードを取り巻く環境や消費者ニーズも大きく変化している。筆者らは,嗜好性や保健的機能性に優れたペットフードを求めるニーズに応えるべく,メイラード反応に注目した機能性ペットフードの開発を行ってきた。
(キーワード:ペットフード,愛玩動物,嗜好性,機能性,メイラード反応)
←Vol.9インデックスページに戻る