Vol.9 No.10
【特 集】 最近の農林水産研究成果トピックス


植物によるタンパク質大量生産技術の開発と今後の応用の可能性
筑波大学    三浦 謙治
 組換えタンパク質の生産は,タンパク質の機能を同定するというアカデミックな研究において重要であるとともに,組換えタンパク質は食品や化学工業で使われ,診断,治療,製薬にも用いられている。多くの組換えタンパク質が微生物や動物細胞を用いて生産されているが,植物での生産は,低コストで動物細胞に関わる病原菌が混入しにくく,持続可能な発現システムとして注目されている。われわれは植物における一過的タンパク質大量発現を可能とする「つくばシステム」の開発に成功した。
(キーワード:一過的タンパク質発現システム,ベンサミアナタバコ,細胞死抑制,アスコルビン酸ナトリウム)
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イネの茎伸長の開始を制御する2つのスイッチ因子の発見と農業的応用
名古屋大学 生物機能開発利用研究センター    永井 啓祐
 作物の茎は倒伏性と密接にかかわっているために,重要農業形質としてこれまで育種対象とされてきた。特にイネではジベレリンの合成量の減少,コムギではジベレリンの情報伝達の減少により茎を短くすることで倒伏耐性の向上が行われた。本稿ではジベレリンの感受性による茎伸長の制御という新たな側面に注目し,著者らが近年同定したジベレリンに反応して節間伸長の開始を制御する2つのスイッチ因子と,これらの因子の農業的な応用展開の可能性について紹介する。
(キーワード:ジベレリン感受性,節間伸長,短稈化,洪水耐性,イネ科作物)
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有機農業実践現場の研究事例に基づく安定栽培マニュアル
農研機構 中日本農業研究センター    唐澤 敏彦
農研機構 農業環境研究部門    橋本 知義
 高冷地露地レタス栽培体系,ホウレンソウの施設栽培体系および暖地の水田二毛作体系の方法,導入技術,留意点などを生産者にわかりやすく解説し,また,有機栽培育苗土の病害抑制効果などの科学的知見も掲載する「有機農業の栽培マニュアル」を紹介する。有機農業取組面積の大幅な拡大に向けては,農業者が有機農業に取り組みやすくするための技術開発とともに,多様なステークホルダーの理解促進が必要である。
(キーワード:有機農業,みどりの食料システム戦略,取組面積25%拡大,新規参入者,栽培マニュアル)
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「臭気マップ」を活用した畜産農場における臭気低減対策
栃木県農政部畜産酪農研究センター    田崎 稔
 畜産臭気対策における現地指導の支援ツールとして,臭気マップ作成手法を考案した。畜環研式ニオイセンサで測定した農場内各ポイントの臭気指数(相当値)を,その値に応じて色分けし,地図上に表示することで農場内の臭気発生状況を一目で確認できるようになった。この臭気マップを活用した畜産農場における臭気低減対策について,事例を交えて紹介する。
(キーワード:臭気マップ,畜産環境対策,臭気低減)
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発酵哺乳飼料による子牛の腸炎防御効果の直接証明
北海道大学大学院 獣医学研究院    今内 覚・岡川 朋弘
 生乳などを原料とする発酵乳は,子牛の下痢症対策に長年利用されている。しかし,従来の発酵乳は「発酵品質が不安定であること」や「雑菌が増殖し不衛生であること」などに加え,「効果を証明した報告がない」ことから賛否両論であった。そこで本研究では,発酵品質が安定で雑菌の混入がない「高品質で安全な発酵哺乳飼料」として代用乳を原料にした発酵代用乳を開発し,ロタウイルスによる感染実験および下痢発生農場での実証試験を実施し,発酵代用乳の効果を検証した。その結果,発酵代用乳の給与が子牛の腸炎の重症化を防ぐ効果があることを初めて実験的に証明しただけでなく,農場における子牛の腸炎発生数や死亡例を減少させる効果も実証された。
(キーワード:発酵哺乳飼料,プロバイオティクス,発酵代用乳,乳酸菌,子牛,下痢症)
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スギ雄性不稔遺伝子MS1 の識別マーカーの開発と利用
新潟大学 農学部農学科 フィールド科学人材育成プログラム    森口 喜成
森林研究・整備機構 森林総合研究所    上野 真義・長谷川 陽一・
丸山 E. 毅
 スギ花粉症は,我が国の大きな社会問題の一つになっている。一方で,無花粉スギの原因遺伝子(雄性不稔遺伝子(MALE STERILITY 1 MS1 )))を持つスギを正確に識別できるDNA分析法はこれまでなく,MS1 の同定とその識別手法の開発が期待されていた。われわれの研究グループでは,MS1 を同定し,識別マーカーを開発した。現在は,開発した識別マーカーを用いて,全国のスギから雄性不稔遺伝子を持つ育種素材の探索を進めている。また,無花粉スギの組織培養苗を作出する技術の開発を行った。
(キーワード:花粉症,雄性不稔,マーカー利用選抜,DNA解析)
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日本の漆文化を継承するために国産漆の持続的生産を目指して
森林研究・整備機構 森林総合研究所 東北支所    田端 雅進
 縄文時代から塗料や接着剤などとして用いられてきた漆は,国宝・重要文化財の修復などに欠かせない存在である。今後,国産漆の持続的生産を目指すためには,ウルシの特性を理解し,ウルシ林の遺伝的多様性などに関する調査データや知見を蓄積し,ウルシ林の造成や植栽木の育成などに活用していくことが重要である。現在,日本に現存するウルシ林の遺伝的多様性や遺伝資源管理は,ウルシ林の造成のために重要な研究課題の一つとなっている。
(キーワード:ウルシ,漆,樹皮,遺伝的多様性,遺伝資源管理)
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魚類の免疫不全系統を用いた生殖幹細胞移植法
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所     酒井 則良・河崎 敏広
 免疫不全により成体において非自己の組織を拒絶しない系統は,種々の移植実験を可能にする。ゼブラフィッシュrag1 変異体は成熟T細胞,B細胞を欠損しており,これに生殖巣の解離細胞から作製した再集合塊を用いた移植法を展開した。その結果,系統が離れたホンモロコの生殖幹細胞を移植でき,配偶子産生の時間も短縮できることがわかった。魚類において異種の生殖幹細胞を成体に移植して配偶子を産生する,新たな配偶子産生技術が見えてきた。
(キーワード:生殖幹細胞移植,異種移植,配偶子産生,rag1変異体,ゼブラフィッシュ)
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飼料脂肪酸組成の最適化による養殖ブリの生産効率改善
と高付加価値化
高知大学 農林海洋科学部    深田 陽久
 ブリの体は夏には脂肪の少ないほっそりとした体型をしており,冬には脂肪を蓄えふっくらとした体型になる。これは,ブリが季節(水温)によって飼料由来の脂質の利用法を変化させているためである。ブリは高水温期には脂質をエネルギー源として利用し,低水温期には脂質を脂肪として貯蔵している。また,それぞれに適した脂肪酸があることが示唆されている。そこで本研究では,飼料に配合する脂質の脂肪酸組成をブリの脂質利用法に適応させることで,養殖ブリの生産効率と高付加価値化を行った。
(キーワード:ブリ,飼料,脂肪酸組成,脂質代謝,生産効率,高付加価値化)
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