Vol.9 No.12 【特 集】 森と木の可能性を科学する |
木材腐朽菌による木質成分の酵素分解メカニズム解明と今後の応用可能性 | |||||||||
北海道大学大学院 工学研究院 堀 千明 | |||||||||
自然界で木質系資源であるリグノセルロース分解利用の中心となっているのは木材腐朽菌である。最近では,森林生態系内で木材成分の分解・変換・利用法を獲得するよう進化してきた微生物として木材腐朽菌をとらえることができるようになってきた。そこで本稿では,本菌が分解に利用している主要な木質構成成分の酵素分解に関する最近の研究動向として,ゲノム情報を利用した研究トピックを紹介する。さらに,このような木材腐朽菌の分解酵素に関する知見が将来的な木質系資源利用へどのように応用可能であるかについて考察する。 (キーワード:木材腐朽菌,木質分解,木質成分の分解酵素,ゲノム解析) |
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国産トリュフの栽培に向けた研究と今後の展望 | |||||||||
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近年,国内市場において輸入量・額ともに急増しているトリュフは,その国内消費のすべてが海外からの輸入品で賄われている。しかし輸入品とは種類が異なるものの,日本国内でも20種以上のトリュフが自生し,その中に食用として有望な種がいくつか存在する。このような日本特有の資源を新たな国産食材とする産業へ発展させるために,われわれは2015年から国産トリュフの栽培化研究を開始した。本稿では,これまで行ってきた研究について紹介し,最後に,国産トリュフの栽培システムを構築するための課題や今後の展望について述べたい。 (キーワード:食用菌根性きのこ,林地栽培,苗木生産,里山,特用林産物) |
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樹木精油の特性を生かした未活用森林資源の高付加価値化 | |||||||||
森林研究・整備機構 森林総合研究所 楠本 倫久 | |||||||||
天然物に対する消費者ニーズの高まりにより,世界的に精油の生産量は増加傾向にある。流通している精油の多くは,農作物として栽培・収穫された植物を原料としており,香料をはじめ様々な化成品等に利用されている。一方で,樹木由来の精油では,枝打ちや伐採作業で排出される枝葉をはじめ木材加工時に排出される端材等を原料とする場合が多い。樹木精油の原料特性や化学的特性を理解して未活用な現状にある森林資源に高い付加価値を見出すことで,我が国の林業や林産業の発展に貢献することができる。 (キーワード:樹木精油,森林産業,テルペン,環境因子,生物活性) |
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新しい牛用飼料資源としての木質パルプの活用 −林畜連携の勧め− |
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明治飼糧株式会社 寺田 文典 | |||||||||
森林資源を牛用飼料として利用することは,畜産,林産の両者にとって大きなメリットとなる。木質パルプ飼料は繊維含量が豊富でありながら消化性に優れることから,牛の反すう胃の健全性を高めることができるエネルギー飼料として注目されており,成牛の周産期や子牛の哺育・育成期の飼料としての有用性が確認されている。森林と畜産を結ぶ林畜連携のツールとしても活用していきたい素材である。 (キーワード:クラフトパルプ,牛,飼料,林畜連携) |
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新たな野生鳥獣対策と産官学連携による鹿肉ペットフードの開発 | |||||||||
小諸市役所 産業振興部 竹下 毅 | |||||||||
人口減少により税収が減少している地方自治体は,市民生活にかかわる野生鳥獣対策であっても高額な予算をつぎ込める状況ではない。また,野生鳥獣対策に従事する人材も減少しており,野生鳥獣対策は予算も人材も不足する状況にある。長野県小諸市は,猟友会主体から行政主体の捕獲体制へと移行することによって加害鳥獣の捕獲数増加ならびに被害減少を実現したが,その弊害として対策費用が高騰することとなった。そこで費用削減を目的として,麻布大学獣医学部と連携し,捕獲したニホンジカをペットフードに加工・販売する事業に着手,黒字化することに成功した。野生鳥獣対策の質を維持し,費用削減を実現した小諸市の取り組みについて紹介する。 (キーワード:野生鳥獣対策,ジビエ,ペットフード,産学官連携) |
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木を直接発酵して造る,香り豊かな「木の酒」の開発 | |||||||||
森林研究・整備機構 森林総合研究所 大塚 祐一郎 | |||||||||
木材の細胞壁の厚さを砕く新しい前処理技術「湿式ミリング処理」は,熱処理や薬剤処理なしに木材を直接糖化・発酵することを可能にする。われわれはこの技術を応用して世界初の「木の酒」の試験製造を行った。スギ,サクラ,シラカバ材から試験製造した「木の蒸留酒」では樹種ごとに特徴的な香りが醸し出されることが明らかとなり,また市販の酒との比較においては,「木の酒」はどの酒とも異なる風味を持つことが示された。「木の酒」はこれまでの人類の歴史になかった新しい酒であるため,実現のためには安全確認を進める必要があるが,樹種ごとに異なる風味の酒が作り出されることや,樹齢という時間のストーリーを含む高付加価値な酒の製造も可能であることから,国産材需要の拡大および国内林業振興への貢献が期待される。 (キーワード:木の酒,湿式ミリング処理,木材,リグノセルロース,バイオマス利用) |
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国産間伐材等を活用したカンナ削りの「木のストロー」 | |||||||||
株式会社アキュラホーム 西口 彩乃 | |||||||||
木のストローは,環境問題化しているプラスチックストローの代替素材として,活用方法が問題となっている間伐材を利用し,木造注文住宅会社アキュラホームが世界で初めて開発・量産化したものである。日本の古来の職人の技である「カンナ削り」から着想を得て,間伐材を極薄にスライスし,加工する手法により開発に成功し,間伐材の新たな素材用途を提示した。海洋環境の改善および適切な間伐による森林管理の動機付け・経済的支援となることを目的としている。現在は,自社のみで製造するのではなく,製法・ノウハウを自治体に展開し,木材の加工は地元森林組合が,ストローの手作業による成形は地元身障者が担当する地産地消モデルを構築している。 (キーワード:木のストロー,森林保全,間伐材,脱プラ,SDGs) |
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森林サービス産業の創出・推進による新たな山村価値の向上 | |||||||||
林野庁 森林整備部 梅原 徳晃 | |||||||||
林野庁では今年6月に閣議決定された森林・林業基本計画に掲げられた施策「新たな山村価値の向上」の達成のため,森林空間を健康,観光,教育など多様な分野で利用する「森林サービス産業」の創出・推進に取り組んでおり,様々な関係者との交流・連携を図りながら,健康面におけるエビデンスの取得等を支援しているところである。 (キーワード:山村振興,森林空間,森林サービス産業,健康経営) |
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森林の空間的利用と森林サービス産業への展望 | |||||||||
森林研究・整備機構 八巻 一成 | |||||||||
森林空間のレクリエーション・健康・教育的利用は森林の空間的利用と呼ばれ,生きがいや生活の質といった,人間社会の非物質的な豊かさに深くかかわっている。森林空間での体験を楽しむ森林浴は,心身をリラックスさせる効果や,ストレス対処能力に寄与する可能性など,健康面での効果を持つことが明らかになってきている。また,森林を訪れ体験することは,人と自然との関係を直接学ぶための機会を提供している。こうした森林の空間的利用を産業として発展させるために,「森林サービス産業」への取り組みが始められており,森林空間という資源を活用した新たな産業の可能性が期待される。 (キーワード:森林,空間的利用,レクリエーション,健康,教育,森林サービス産業) |
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