Vol.10 No.4
【特 集】 第17回若手農林水産研究者表彰受賞者の業績


病原糸状菌の感染戦略と植物の防御戦略
信州大学    入枝 泰樹
 作物病害の主要因である糸状菌病を防ぐには,糸状菌の感染戦略と植物の防御戦略を理解することが重要である。著者らは糸状菌−植物間相互作用の分子機構研究により,両者の巧みな生存戦略の一部を明らかにした。まず,ウリ類炭疽病菌の病原性因子(エフェクター)の蛍光可視化に成功し,宿主植物への分泌・輸送機構を解明した。同時に,エフェクター分泌を阻害する化合物スクリーニング系も開発した。また,植物の病原菌認識機構の中枢を攻撃するエフェクターを糸状菌で初めて報告した。さらに,機能未知であった植物の表皮葉緑体が免疫に寄与することを発見した。以上の成果が,今後の植物病理学研究や農業分野に貢献することを期待している。
(キーワード:病原糸状菌,炭疽病菌,エフェクター,表皮葉緑体,免疫)
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鳥獣被害問題の解決に向けて
―目指すべきシカ生息密度と被害対策を探る―
(地独)大阪府立環境農林水産総合研究所 生物多様性センター
    幸田 良介
 シカ等の野生鳥獣による農林業被害が全国的に深刻化しており,未だ被害低減への道筋は見出されていない。この背景には,被害と生息密度の関係性が解明されておらず,被害強度の変動要因も不明なままに対策が続けられているという問題点がある。そこで筆者は,シカ生息密度を簡便かつ高精度に推定できる手法を開発し,広域的なシカ生息密度分布を明らかにすることで,被害強度を様々なシカ生息密度間で比較解析することを可能にした。そして,農業被害強度が一定のシカ生息密度を超えると急激に増加することや,被害の大きさがシカの採食行動の変化等によって変動することを明らかにした。今後は,捕獲に傾倒しがちな現在の被害対策を,複数の被害対策を連携させた総合的な被害対策へと改善し,鳥獣被害問題の解決につなげていきたい。
(キーワード:獣害,ニホンジカ,糞塊除去法,生息密度,管理計画)
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光合成の動態解明に基づくイチゴの精密環境調節技術の開発
農研機構 九州沖縄農業研究センター    日高 功太
 イチゴ生産における増収を目指し,果実への光合成産物の転流動態の可視化に成功した。これらの知見に基づく複合環境調節による光合成促進と多植栽培を組み合わせることで,慣行比2.5倍の超多収生産技術を確立した。さらに,増収に加えて省エネも可能な局所CO施用技術の開発を進め,今後求められる持続的イチゴ生産体系構築の端緒を開いた。
(キーワード:イチゴ,光合成,省エネ,精密環境調節,増収,転流)
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ナスのゲノム基盤情報の整備と有用な遺伝資源の育種への応用
農研機構 野菜花き研究部門    宮武 宏治
 近年,ナスの生産現場では,農業従事者の高齢化や気候温暖化など,様々な問題への対応が急務となっている。筆者らは,ナスのゲノム情報基盤を整備し,省力・安定生産に資する単為結果性,とげなし性,半枯病抵抗性の3つの形質について,精度の高い選抜マーカーを開発した。これに加えて,青枯病抵抗性を含む4形質を付与した新たなナス品種候補系統の育成に成功した。また,DNAマーカーなど,ゲノム情報ツールを活用し,農研機構が保有するおよそ1,000点のナス遺伝資源から,100点の代表品種・系統をコアコレクションとして整備した。このコレクションを利用することで,新たな病虫害抵抗性等有望素材を見出すだけでなく,原因遺伝子の特定にも利用できると考えられる。
(キーワード:ナス,育種,ゲノム情報,選抜マーカー,遺伝資源)
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自動運転田植機と植付機構の電動化に関する研究
農研機構 農業機械研究部門 兼 農業ロボティクス研究センター
    山田 祐一
 熟練オペレータと補助者の2名以上が必要だった田植え作業において,非熟練者でも1名作業が可能な自動運転田植機を開発し,高速・高精度な直進・旋回性の確立とともに大幅な投下労働時間の削減効果を得た。加えて,機械的に車輪と連動していた田植機の植付機構の電動化に取り組み,GNSS連動による正条植制御など有機農業拡大に貢献する技術を開発した。これらは,田植え作業のスマート化およびみどりの食料システム戦略の実現に貢献することが期待される。
(キーワード:田植機,自動運転,電動化,電子制御,GNSS)
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