Vol.10 No.5
【特 集】 腸内環境に影響を与える食品素材
―基礎から開発まで―

エリンギ多糖類のコレストロール代謝改善機序と
腸内細菌叢への影響
千葉大学大学院 園芸学研究院    江頭 祐嘉合
 エリンギはきのこ類の中でも食物繊維含量が高く,欧米,中東,アジアなどで広く食されている。エリンギ多糖類は抗腫瘍作用など様々な生理機能が報告されている。筆者らはエリンギから抽出した多糖類(グルカン)が,高脂肪食を投与したマウスの内臓脂肪重量を減少させ,血液中の総コレステロール,LDLコレステロールを低下させる作用を見出した。さらにエリンギ多糖類の脂質改善作用メカニズムと腸内細菌(そう)への影響を調べたところ,エネルギー代謝を促進する短鎖脂肪酸産生菌の増加などがみられた。また,エリンギ多糖類は脂肪や胆汁酸の排せつを促進させることによりコレステロール代謝改善作用を示すと考えられた。今後エリンギの機能性野菜としての可能性を期待する。
(キーワード:エリンギ,食物繊維,LDLコレステロール,内臓脂肪,腸内細菌叢)
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大麦および大麦由来のβ-グルカンの腸内発酵を介した機能
大妻女子大学    青江 誠一郎
 大麦β-グルカンによる食後高血糖の抑制や血清脂質濃度改善の機序として,β-グルカンの粘性による栄養素の吸収抑制の寄与が大きいと考えられてきた。そこで,分子量の異なる大麦β-グルカンを用いて調べた結果,β-グルカンの分子量に依存した消化・吸収の抑制と分子量に依存しない腸内細菌由来の短鎖脂肪酸による糖・脂質代謝の改善が作用機序として存在することが明らかとなった。さらに,マイクロアレイ解析により遺伝子発現への影響を調べた結果,糖代謝改善作用は,短鎖脂肪酸によるGLP-1分泌の亢進(こうしん)が寄与したこと,一方,脂質代謝改善作用は,短鎖脂肪酸の増加による遺伝子の発現レベルの変動が寄与したことが明らかとなった。
(キーワード:大麦,β-グルカン,腸内発酵,短鎖脂肪酸,血糖値,血清脂質)
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腸内細菌叢を介した難消化性オリゴ糖のアレルギー抑制作用
北海道大学大学院 農学研究院     園山 慶
 これまでの研究により,発育初期の腸内細菌(そう)の変容(ディスバイオーシス)が発育後のアレルギー発症の危険因子となることが明らかになってきた。このことは発育初期の腸内細菌叢がアレルギー予防の標的となりうることを示唆している。そのような考えに基づき,腸内細菌叢を介して宿主の健康に寄与するプレバイオティクスである難消化性オリゴ糖を用いた介入試験が行われてきた。今後,難消化性オリゴ糖を日常的なアレルギー予防・治療に生かすには,作用機序の解明に加えて,さらにエビデンスのクオリティが高い介入試験の成果が望まれる。
(キーワード:腸内細菌叢,ディスバイオーシス,プレバイオティクス)
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難消化性デキストリンの腸内細菌,代謝産物および
生理機能に及ぼす影響
松谷化学工業株式会社 研究所     岸本 由香
 水溶性食物繊維「難消化性デキストリン」は腸内細菌により発酵(資化)されるプレバイオティクス素材である。腸内細菌(そう)を変化させることが報告されており,具体的にはBifidobacterium,Fusicatenibacter などを増加させる。また,腸内細菌は難消化性デキストリンを資化し,代謝産物として短鎖脂肪酸を生成する。短鎖脂肪酸の増加が難消化性デキストリンで報告されているさまざまな生理機能に深く関与していることが示されている。さらに,難消化性デキストリンの継続摂取により菌叢が変化した結果,デオキシコール酸など身体に悪影響を及ぼす代謝産物が減少することがヒト試験で確認されている。
(キーワード:難消化性デキストリン,腸内細菌叢,代謝産物,ビフィズス菌,デオキシコール酸)
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ラクトクロース(乳糖果糖オリゴ糖)の機能と製品開発
塩水港精糖株式会社 糖質研究所     藤田 孝輝
 ラクトスクロース(乳糖果糖オリゴ糖)は,ショ糖と乳糖に微生物酵素を用いて製造される三糖類であり,ショ糖と同様の甘味質であり,物性・安定性も類似する。難消化性であり,腸内細菌の発酵によって短鎖脂肪酸を生成し,健常人ばかりではなく高齢者や妊婦でも腸内環境改善(腸内細菌(そう)改善・便性改善・便通改善)効果が示されている。また,カルシウム吸収促進,乳糖不耐症の症状軽減,口腔内環境改善,ストレス低減,花粉症の症状軽減がヒト試験で確認されている。さらに,動物試験ではあるがウイルスや細菌に対する感染防御など,免疫調節機能も報告されている。ラクトスクロースは,機能性を有する多種多様な食品への応用が期待される。
(キーワード:ラクトスクロース,乳糖果糖オリゴ糖,腸内環境,免疫調節,口腔内環境,ストレス低減)
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ガラクトオリゴ糖の機能と製品開発
株式会社ヤクルト本社 中央研究所     柴田 慎也
 ガラクトオリゴ糖は乳糖にガラクトース転移活性のある酵素を反応させて得られるオリゴ糖で,ヒトの消化酵素では分解されずに下部消化管まで到達し,ビフィズス菌を増殖させる効果を有する機能性食品素材である。ガラクトオリゴ糖の主な機能として,腸内環境改善作用(整腸作用)があり,特定保健用食品の許可を得ている。近年では,乳酸菌やビフィズス菌といった有用菌(プロバイオティクス)と組み合わせたシンバイオティクスとして,周術期の医療現場でも使用されている。本稿では,ガラクトオリゴ糖のヒトでの機能性,開発の歴史および製造法について紹介する。
(キーワード:ガラクトオリゴ糖,ビフィズス菌,特定保健用食品,プレバイオティクス,シンバイオティクス)
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熱安定性プロバイオティクスの産業利用
千葉大学大学院 園芸学研究院 ・ 理化学研究所 生命医科学研究センター ・ 株式会社サーマス 研究部門 宮本 浩邦
理化学研究所 生命医科学研究センター 児玉 浩明
株式会社サーマス 研究部門 大野 博司
 国連の提唱する「持続可能な社会を構築するための目標」,いわゆるSDGs(Sustainable Development Goals)は国際社会に浸透してきているが,17の目標を達成するためにはさらなる研究開発を加速すべき分野が数多く存在している。なかでも,将来的に懸念される薬剤耐性菌のまん延防止を目的としたAMR(Antimicrobial resistance)は,喫緊の対策が必要なターゲットである。本稿では,腸内の共生システムの基礎的知見を論述するとともに,その観点からとらえられる人工抗生物質の代替剤候補として,筆者らが進めている熱安定性・有胞子性プロバイオティクスの研究事例について紹介する。
(キーワード:SDGs,AMR,腸内の共生システム,熱安定性プロバイオティクス)
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日本食品標準成分表2020年度版(八訂)で採用された
食物繊維の分析方法について
一般財団法人日本食品分析センター    吉田 幹彦
 近年,食物繊維は多くの生理的効果が報告されてきており注目を集めている栄養素の一つである。しかしながら,食物繊維は定義に基づく栄養素であるため,分析方法は定義と表裏一体の関係にある。このような中,2020年に公表された日本食品標準成分表2020年度版(八訂)では新しい食物繊維の分析方法であるAOAC2011.25法が採用された。従前のプロスキー変法からは測定できる食物繊維画分が異なり,国際的な食物繊維の定義に即した食物繊維含量が測定されるようになった。本稿では食物繊維の定義,分析法の分類,各種分析法の酵素反応について解説した。
(キーワード:八訂成分表,AOAC2011.25法,プロスキー変法)
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