Vol.10 No.8 【特 集】 昆虫のコミュニケーションと害虫被害の抑制 |
昆虫における化学的情報や物理的情報によるコミュニケーション | |||||||||
千葉大学 園芸学部 中牟田 潔 | |||||||||
ヒトは五感を用いて他者とのコミュニケーションを行うが,昆虫も視覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚情報を利用して他個体とのコミュニケーションを行う。また餌などの必須資源を探索・発見する際にもこれらの情報を用いる。害虫を対象にこのような情報の働きを解明し,それを操作することができれば,害虫による被害を抑えることが可能になる。本号の特集では,害虫防除に結びつく研究例や実用化されている技術について紹介する。最初に本稿では昆虫のコミュニケーションに用いられるフェロモンなどの化学的情報や,光や色,振動,超音波などの物理的情報について紹介する。 (キーワード:昆虫,フェロモン,シノモン,アロモン,カイロモン,光,振動,超音波) |
|||||||||
←Vol.10インデックスページに戻る
|
|||||||||
国内における性フェロモンによる害虫防除 | |||||||||
千葉大学 園芸学部 望月 文昭 | |||||||||
性フェロモンを有効成分とした害虫防除資材は,農薬登録を必要としない「発生予察」用性フェロモン誘引剤と,農薬登録が必要な「大量誘殺」,「アトラクト&キル」,「交信かく乱」に大別される。現在の登録数はそれぞれ5剤,2剤,21剤である。国内最初の性フェロモン剤は1977年に農薬登録を取得した大量誘殺剤(農薬の名称;フェロディンSL)であった。それ以降,性フェロモン剤は,歩みは遅いが着実に浸透し登録数を増やしてきた。現時点で農薬登録を持つ性フェロモン剤の一覧表を示すとともにその特徴と利用法を紹介する。 (キーワード:発生予察,大量誘殺,アトラクト&キル,交信かく乱) |
|||||||||
←Vol.10インデックスページに戻る
|
|||||||||
植物の香り成分を用いた天敵誘引による害虫制御 | |||||||||
名城大学 農学部 上船 雅義 | |||||||||
植物は植食者から食害を受けると食害特異的な香り(Herbivory-induced plant volatiles (HIPVs))を放出する。HIPVsは,植食者の種,発育段階,密度によって変化するため,植食者を餌とする天敵にとって餌発見のための手がかりとなっている。HIPVs内に含まれる天敵誘引成分を明らかにすることで,天敵誘引剤を開発することができる。害虫のコナガの天敵であるコナガサムライコマユバチは,コナガ食害キャベツが放出するHIPVs内の4成分であるsabinene,n-heptanal,α-pinene,(Z)-3-hexenyl
acetateのブレンドに誘引された。このブレンドを剤型化し,天敵誘引剤としてミズナ雨よけハウスや露地キャベツ畑に設置することでコナガの発生を抑制することができた。この害虫制御技術は,他の害虫にも応用
できると考える。
(キーワード:食害誘導植物揮発性物質,シノモン,天敵誘引,害虫制御,生物的防除) |
|||||||||
←Vol.10インデックスページに戻る
|
|||||||||
振動を用いた昆虫の行動制御と害虫防除 | |||||||||
|
|||||||||
昆虫は,種内のコミュニケーションや捕食者や被食者との関係において,物理的情報である振動を用いている。昆虫の行動(摂食,定着等)は振動によって制御されることから,振動により害虫の行動を阻害して,被害を抑制することが可能である。これまで著者らは,野菜の害虫であるコナジラミ類,キノコの害虫であるナガマドキノコバエ類などにおいて,行動を制御する振動の周波数や振幅を特定してきた。さらに,特定した振動を作物に与えて,害虫の行動を制御する振動発生装置の開発を進めている。振動による害虫防除技術は,総合的害虫管理(IPM)に組み込める新技術となることから,化学農薬のみに頼らない持続可能な農業の実現に貢献すると期待される。 (キーワード:昆虫,振動,行動,トマト,シイタケ) |
|||||||||
←Vol.10インデックスページに戻る
|
|||||||||
超音波で蛾類害虫の農業被害を抑える | |||||||||
農研機構 植物防疫研究部門 中野 亮 | |||||||||
超音波を発する食虫コウモリから身を護るため,蛾類は超音波から逃避するよう進化した。この行動習性を害虫防除に利用すべく,本稿では,生態系と調和した植物保護を促進可能な,合成超音波パルスを利用した防除法を概説する。コウモリがエサとなる昆虫類を探索・捕食する際に発する超音波の時間構造を模倣し,合成した多様な超音波パルスをヤガ類に提示することで,これらに逃避行動を引き起こす超音波を特定した。この超音波パルスを水平方向の全方位に照射可能な超音波発信デバイスを開発し,栽培圃場の周囲に設置した。その結果,蛾類害虫の圃場への飛来を抑制でき,被害量ならびに化学殺虫剤の散布回数を減ずることを可能にした。 (キーワード:コウモリ,ヨトウ類,吸蛾類,持続的農業) |
|||||||||
←Vol.10インデックスページに戻る
|
|||||||||
光と色による害虫被害抑制 | |||||||||
|
|||||||||
昆虫の光や色に対する応答反応には,虫が夜の街灯に集まる「走光性」がよく知られているが,このほかにも昆虫はさまざまな光応答反応を示すことが知られている。これらの生理的メカニズムはすべて解明されているわけではなく,害虫防除技術として実用化途上のものもある。そこで本稿では,昆虫の光波長(色相)に対する応答反応に焦点をあてて基礎から応用への解説を試みた。昆虫種によって最も強く誘引される光波長(色相)は異なっており,天敵の波長選好性を利用して害虫を防除する技術,逆に赤色を避ける性質を利用した防虫ネットの開発について紹介する。 (キーワード:昆虫,視覚,光応答,光防除,天敵,赤色系防虫ネット,発光ダイオード) |
|||||||||
←Vol.10インデックスページに戻る
|