Vol.11 No.4
【特 集】 第18回若手農林水産研究者表彰受賞者の業績


小規模農家向けの経営計画モデルを利用したアフリカ農業支援
国際農林水産業研究センター     小出 淳司
 開発途上地域の食料・貧困問題や気候変動に対応した新しい生産体系,技術の普及を促進させるため,大多数を占める小規模農家の意思決定を効率的に支援できる手法の開発が求められている。本研究 は,こうした意思決定支援手法の一つとして新たな農業経営計画モデルを構築し,アフリカにおける多数の小規模農家の経営改善策の策定,生計向上を実現した。また,現地の稲作,畑作,畜産を対象とした我が国 の技術開発事業において,同モデルを活用し,農家が食料自給や所得向上などを効率的に実現するための作付計画や技術導入計画を策定した。
(キーワード:アフリカ,小規模農家,意思決定支援,所得向上,技術協力)
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鳥獣害の発生メカニズムから効果的な被害対策を考える
農研機構 畜産研究部門    小坂井 千夏
 鳥獣害の解決は,国民の安心安全な暮らしを担保する重要課題であり,筆者は被害発生メカニズムの正しい理解に向けた研究に取り組んできた。昨今頻発するツキノワグマの出没について,冬眠前の食欲 亢進が本来定着性の高いメスも含めた出没を促すことを明らかにした。また,農作物の収穫残さがアライグマなどの外来種にとってもエネルギー獲得効率の高い餌となっており,食べさせない対策を徹底する重要性 を示した。さらに,現場の実状に合った技術開発に取り組み,出没リスクが高い時期の提示や,安価で簡単に設置できる防護柵と設置時間を短縮する装置を開発するなど,対策を確実に社会実装させることを目指し た技術開発を行っている。
(キーワード:ツキノワグマ,アライグマ,大量出没,外来種)
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なぜサケ科魚類の野生魚の保全は重要なのか?
国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産資源研究所    佐橋 玄記
 農林水産業は,生物多様性が健全に維持されていることで成立している環境依存型の産業である。しかし,日本の水産重要種であるさけます類の資源管理においては,野生魚の貢献とふ化放流の問題点が 考慮される機会は乏しかった。著者らは,サケ科魚類を対象として,1)野生魚には,回遊コストのばらつきに応じて種内レベルの多様性が生じること,2)ふ化放流が野生魚とは異なる魚を生み出し,資源を増やして いない場合があること,3)野生の血が放流魚の野外における生存率を高めること,を明らかにした。これらの知見は,水産業の持続的な発展のために,多様な野生魚を保全することの重要性を示唆する。
(キーワード:サケ科魚類,野生魚,生物多様性,資源管理,水産業)
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低コスト再造林に向けた下刈り省力化に関する研究
福岡県農林業総合試験場 資源活用研究センター    鶴崎 幸
 下刈りは,労働負担の大きい作業かつコストの面では初期育林の4割弱を占める大きな経費が投入されている作業であり,省力化は再造林を進める中で喫緊の課題である。近年,現実的な省力化の方法は 回数の削減とされているが,下刈り対象である植物は種類やその成長が多様なため,一律に回数を減らすことはできない。そこで,林地の植栽木や競合植生の状況から,現場に応じて下刈りの要否を判断できる基 準を明らかにした。本基準は,これまで全国的にあいまいであった,植生に応じた下刈り要否の判断基準づくりに貢献した。
(キーワード:低コスト再造林,下刈り,初期育林経費,競合植生,スギ)
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ゲノム情報を用いた果樹の育種の高度化と新品種の育成.
農研機構 果樹茶業研究部門    西尾 聡悟
 果樹は播種してから結実までに数年を要するために,個体の形質評価を行うのに長い年月が必要である。また,個体サイズが大きいため栽培管理や個体の維持に相当な労力と広大な圃場が必要となる。この年数と労力が,多数の個体や多様な遺伝資源を評価する上で大きなボトルネックとなっていた。そこで果樹において効率的育種を行うために,ニホングリの「ぽろたん」の渋皮剥皮性に連鎖するDNAマーカーを開発し,育種の現場で幼苗段階の早期選抜を実施するシステムを構築した。また,ニホンナシおよびニホングリの国内外の遺伝資源についてDNAマーカーを用いた分類を行い,遺伝資源を効率的に育種利用するための遺伝情報を整備してきた。これらの研究成果を活用して9つの果樹新品種を育成した。
(キーワード:DNAマーカー,早期選抜,遺伝資源,ニホンナシ,ニホングリ)
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