Vol.11 No.5
【特 集】 食品・農林水産業にイノベーションを興す高専(KOSEN)発の研究


本特集のねらい
独立行政法人国立高等専門学校機構 本部事務局    宮地 保好
 約4,000名の研究者を擁す国立高等専門学校(KOSEN)は,社会・地域課題の解決に向けた実践的な研究を特徴とする。本特集では,農林水産分野における実践的研究成果を紹介する。KOSENの研究の一 端を知っていただき,さらにさまざまな生産現場,企業,自治体などと連携し,今後も社会・地域課題の解決に積極的に貢献していきたい。
(キーワード:KOSEN,地域発,イノベーション)
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下水再生水を活用した酒造好適米栽培
―酒どころ秋田発:環境配慮型清酒『酔思源(すいしげん)』―
(独)国立高等専門学校機構 秋田工業高等専門学校    増田 周平
 下水道資源を活用した資源循環型農業の構築に挑戦した。米どころ・酒どころの秋田において,下水再生水に含まれる栄養塩を活用した酒造好適米の栽培技術の開発に取り組んだ。3年間の模擬水田試験を経て実水田での試験に駒を進め,化学肥料を用いずに下水再生水のみで栽培した酒造好適米の収穫に成功した。醸造資金をクラウドファンディングで調達し,地元酒蔵とのコラボレーションにより,環境配慮型清酒「酔思源(すいしげん)」を生み出した。
(キーワード:資源循環型農業,下水道資源,下水再生水,酒造好適米,清酒)
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ローカルなリサイクル社会形成を目指した持続可能型農業技術の開発
(独)国立高等専門学校機構 群馬工業高等専門学校    宮里 直樹
 本稿では Bacillus 属細菌と自活性線虫を用いた,連作障害抑止に効果のある土壌改良資材および適用事例を紹介する。土壌改良資材の材料は,群馬県内などの地域で発生する廃棄物である,上水汚泥や下水汚泥,ため池底泥および杉や松のバーク材(樹皮)である。杉バークを含む各材料を混合発酵させ, Bacillus 属細菌と雑線虫が増殖した土壌改良資材を作成し,コンニャクイモほ場に投入した結果,連作障害を抑止していると考えられる結果を得た。また,松バークを用いた土壌改良資材を作成し,コマツナによる植害試験を行ったところ,影響は小さく,また約2万頭の線虫を確認できる土壌改良資材を作成することができた。
(キーワード:連作障害,未利用廃棄物,線虫, Bacillus 属細菌,持続可能)
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地域食材から分離した『ご当地乳酸菌』を用いた地域ブランド乳製品の開発
(独)国立高等専門学校機構 小山工業高等専門学校    高屋 朋彰
 日本のチーズ総消費量は増加しているが,輸入ナチュラルチーズ総量に比べて国産ナチュラルチーズ生産量の増加は微増に留まっている。国内のチーズ工房数は増加の一途をたどっており,国産ナチュラルチーズ開発の活性化が期待されているが,チーズ製造に利用される乳酸菌スターターの多くが海外からの輸入品となっているため,乳酸菌スターターの差異による外国のナチュラルチーズとの差別化に課題がある。本稿では,われわれが地域の食材(農産品・発酵食品)から採取に取り組んできた『ご当地乳酸菌』を活用した,チーズをはじめとするさまざまな地域ブランド乳製品の開発について紹介する。
(キーワード:乳酸菌,スターター,チーズ,ブランド乳製品,発酵食品)
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ブルーカーボン生態系保全のための技術開発
(独)国立高等専門学校機構 和歌山工業高等専門学校
楠部 真崇・園部 琢巳・中嶋 夢生
 アマモ場は沿岸域の重要な生態系や海洋に固定される炭素であるブルーカーボンとして注目されているが,その面積は年々減少しており,各地でアマモ場の保全や造成活動が加速している。しかしながら,種 子の直播や生殖株の植え替えなどは波浪状況による種子および株の流出の懸念がある。また,麻マットや生分解性プランターを用いた取り組みも考案されているが,いずれも底生生物への日光および酸素循環を遮 断するなどの問題を含んでいる。本研究では環境負荷の少ないアマモ場造成技術として海砂を海洋細菌の力で固化した「バイオセメント」を開発し,水槽試験と実装試験でアマモの発芽および生長の確認を行った。
(キーワード:バイオセメント,アマモ場,ブルーカーボン,脱炭素,30 by 30)
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ファインバブル(微細気泡)を用いたアグリ技術
(独)国立高等専門学校機構 高知工業高等専門学校    秦 隆志
 気泡径 100μm未満の気泡をファインバブルと呼称することが国際標準化機構で規格化された。ファインバブルは自身の微細さから同じ気体量を気泡化させた場合でも目視が容易なcmサイズの気泡に比べてその数は格段に増え,結果,気泡総表面積の拡充が起こり気液界面での化学反応効率が飛躍的に向上する。そのため,空気を内包した場合は水中の溶存酸素量の獲得に繋がることから,その溶存酸素が重要な農水産業において利用が進んでいる。例えば,農業での灌水,水産業での密集工程などへの利用があり,それぞれにおいて現場の問題解決に生かされている。
(キーワード:ファインバブル,農水産業,溶存酸素,灌水,貧酸素状態)
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衝撃波―瞬間的高圧―による植物細胞の部分的破壊を利用した農産物加工
(独)国立高等専門学校機構 沖縄工業高等専門学校    嶽本 あゆみ
 音速を超える速度で物体に圧力を伝播する衝撃波は,百万分の一秒レベルの極めて短時間に,瞬間的高圧を物体に負荷し,密度変化面でスポーリング破壊を引き起こす。スポーリング破壊現象は植物細胞に対しても作用し,軟化や微量含有物質の抽出,製粉,殺菌など,静圧とは異なった様々な効果を得ることができる。これらを農産物加工の前処理として活用することで,農産物の加工に高付加価値化や安全・安心を付与することが,衝撃波により生じる瞬間的高圧の研究目標である。
(キーワード:衝撃波,瞬間的高圧,非加熱加工,高付加価値化)
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海なし県&高専発 水産養殖プロジェクト
(独)国立高等専門学校機構 一関工業高等専門学校    渡邊 崇
 日本の漁業・養殖生産量は過去10年横ばい傾向にあり,内湾で行われる海面養殖も停滞している。海面養殖に代わる養殖様式として,閉鎖循環式陸上養殖(陸に設置した水槽内で,一定水温下で飼育水を浄化しながら繰り返し利用する養殖法)が注目されているが,浄化技術とコストの二大課題があり,定着するに至っていない。国立高専機構の事業であるGEAR5.0 農林水産領域分野では,本陸上養殖が抱える課題を解決可能で,さらに環境にも配慮したシステム開発に取り組んでいる。そして,海なし県で温泉複合施設を運営する企業と連携し,高専発のシステムによるウニ生産の社会実装の準備を進めている。本稿ではその概要について紹介する。
(キーワード:閉鎖循環式陸上養殖,オゾン,DX技術,カーボンニュートラル)
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放射能汚染地域の未除染の山林から
原木シイタケ栽培に使用可能な原木林を見つけ出す!
(独)国立高等専門学校機構 仙台高等専門学校    加賀谷 美佳
 福島第一原子力発電所の事故により東日本の広い地域に放射性物質が拡散した。10年以上が経過した今でも山や森林は未除染のままである。原木を利用したシイタケ栽培がさかんに行われていた地域では,事故後には自県での原木調達率や生産量が大きく減少した。このような状況の中でも,林野庁が定める安全な原木の基準値以下の原木を選定することができれば,原木の調達率を回復させ,産業を復活させることができる。これを実現するために,本研究では立木や原木,ほだ木を非破壊検査可能な放射能検査装置の開発に取り組んできた。本記事では,これまでの装置開発の変遷について紹介する。
(キーワード:福島第一原発事故,放射性セシウム,放射能検査装置,原木シイタケ)
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