Vol.11 No.7
【特 集】 我が国の農業基盤の強靱化に向けた最新技術


我が国の食料生産を支える農業水利施設の強靱化および長寿命化
元農研機構 農村工学研究部門    浅野 勇
 農業水利施設は,ダム,水路,パイプラインなどに代表的される農地に農業用水を供給あるいは排水する施設である。全国には再建設費ベースで約32兆円の農業水利施設ストックが点在し,我が国の食料生産を支えている。一方,農業水利施設は建設から40年以上が経過した施設が多く,基幹的農業水利施設の半数が標準耐用年数を超過しており,老朽化の進行に伴う突発事故も年間1,000件以上に増加している。本報では,我が国の食料生産を支える農業水利施設の現状を説明したのち,施設の強靱化および長寿命化の問題と課題について述べる。
(キーワード:農業水利施設,老朽化,ストックマネジメント,地震・豪雨,強靱化)
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コンクリート水路補修材の新たな現場付着試験方法
農研機構 農村工学研究部門    川邉 翔平
 劣化したコンクリート水路の補修に用いられる表面被覆工法には確実にコンクリートに接着し続ける付着性が求められる。施工された表面被覆の付着性を評価するために現場付着試験が行われている。本稿では,現行試験方法に潜在する課題を解決する新たな現場付着試験方法を紹介する。現行方法との試験値の比較や作業性の検証を行い,作業者の熟練度やノウハウに頼らず,現行試験方法よりも作業が容易な試験方法であることを確認した。
(キーワード:コンクリート水利施設,補修材料,評価,現場試験,付着性)
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取水(せき)の洪水被災を防ぐネット工法
農研機構 農村工学研究部門    常住 直人
 農業用取水堰は,圃場送水の便から河川中上流域に多い。このため,経年的な下流河床低下により堰下流部の護床ブロックの流失が起こりやすく補修費が増大しやすい。また,河床低下によって洪水時に堰直下流で洗掘域が拡大しやすく,洪水時には堰の損壊や決壊に至ることもある。これらを防ぐため,簡易かつ低コストのネット工法を開発した。この工法は,想定最大洪水まで護床ブロック流失や堰損壊を防げ,下流洗掘も抑えられて下流の護岸・堤防の安全も図れる。堰下流の落差工や静水池にも適用できるので,河床低下が進行し続けても同一の簡易工法で対応できることになり,取水堰を低コストで保全し続けるのに有効である。
(キーワード:取水堰,河床低下,防災,機能保全,長期供用コスト)
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炭素繊維ストランドシートを用いた水路トンネル覆工コンクリートの補強工法
日鉄ケミカル&マテリアル株式会社    鈴木 宣暁・小森 篤也
オリエンタル白石株式会社    堀越 直樹
 炭素繊維ストランドシートを補強材に,結合材として耐摩耗性に優れるセラミック混合型エポキシ樹脂モルタル,背面水対策として通水型アンカーを併用した水路トンネル無筋覆工コンクリートの補強工法を開発した。本工法の補強効果について,実物大トンネル模型の載荷試験により検証し,耐力および変形性能の向上を確認した。また,実際のトンネルを用い,施工性の確認と接着性能の長期モニタリングを行った。施工後3年経過後も補強層の健全な状態が確認された。
(キーワード:水路トンネル,補修補強,炭素繊維,エポキシ樹脂モルタル)
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固結工法による農業用パイプラインの耐震対策技術
農研機構 農村工学研究部門    有吉 充
 大規模な地震が発生した際には,農業用パイプラインにも大きな被害が発生する。特に,曲管やT字管などのスラスト力が作用する個所では,管が大きく動き,漏水する被害が多く見られる。そこで,本研究では,被害の原因となる埋戻し材の地震時の強度低下を防止するため,セメントなどの材料を埋戻し材である砂質土と混合あるいは地表面から薬液などのグラウト材を埋戻し材に注入する方法(以下,固結工法)を用いて,曲管やT字管周辺のパイプラインの耐震性を向上する技術を開発した。通常(1G)および遠心場での振動模型実験を行い,本工法の有効性を示した。
(キーワード:埋設管,固結工法,固化処理土,グラウト剤,耐震対策)
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ため池防災支援システムとため池DPを活用したため池管理のデジタル化
農研機構 農村工学研究部門    泉 明良・堀 俊和・寺家谷 勇希
 農研機構が開発したため池防災支援システムは豪雨・地震時のため池の決壊危険度と被害情報を国や自治体のため池担当者と共有する災害情報システムである。現在,農林水産省で運用されており,ため池の防災・減災対策を支援している。農研機構では,平常時のため池の管理状況を集約化することを目的に,ため池デジタルプラットフォームを開発した。ため池の管理状況を集約・共有することで,ため池の経年変化を把握することができ,災害時にため池防災支援システムの被害情報を組み合わせることで,ため池の被災前後の情報を迅速に把握することができ,より効果的な災害対応が可能となる。
(キーワード:ため池,防災,維持管理,デジタル化)
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鋼矢板排水路の健全度評価技術の開発および維持管理データベースシステムの構築
日鉄建材株式会社    原田 剛男
 近年,各種施設の維持管理に関して,ストックマネジメントの重要性が増している。施設管理を最適化するにあたり,施設の健全度調査と長期的な視点で施設の老朽化の進展状況を管理するシステムが重要となる。本稿では,農業用の鋼矢板排水路を対象とし,UAV により収集した鋼矢板画像を用いて健全度を評価する手法,ならびにこれら評価結果と現地での点検調査結果などを保存・活用可能な包括管理型データベースシステムについて報告する。
(キーワード:鋼矢板,排水路,画像診断,健全度,データベースシステム)
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