Vol.11 No.9 【特 集】 作物の突然変異利用のこれまでと今後―ガンマ線利用からゲノム編集まで― |
放射線育種場が育種学の発展に果たした役割 | ||||||
農研機構 作物部門 佐藤 宏之 | ||||||
農研機構作物研究部門の放射線育種場は,1960年に現在の茨城県常陸大宮市に設置された。放射線育種場は,我が国では唯一,屋外型のガンマ線照射ほ場(ガンマーフィールド)を備えた突然変異育種法の中核研究機関であり,放射線を利用した産官学の共同研究を約60年にわたり推進し,我が国の育種学の発展に貢献してきた。しかしながら,施設維持に関する経営上の判断から,放射線育種場は2022年度にガンマ線照射業務を終了した。本稿では,放射線育種場の設立から現在に至るまでの活動の軌跡を紹介するとともに,新たな突然変異原利用技術への期待について述べる。 (キーワード:放射線育種場,ガンマ線,ガンマーフィールド,突然変異,突然変異育種法) |
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わが国における新品種育成および分子遺伝解析のための突然変異の誘発 | ||||||
浜松ホトニクス 中央研究所 中川 仁 | ||||||
わが国の突然変異育種は,放射線育種場にガンマーフィールドが建設されて以来発展を続け,突然変異品種育成やゲノム解析に資する突然変異誘発に貢献してきた。この技術は,自然突然変異と同じ原理
に基づくことから,進化を加速する技術として広くパブリックアクセプタンスを獲得し,イネ全栽培面積の約18%,ダイズ全栽培面積の約9%で栽培されている。また,原子力平和利用の中で,照射効果が増殖する特徴が評価されてきた。毎年,ガンマーフィールドシンポジウムが開催され,突然変異に関するトピックが議論され,講演内容はGamma Field Symposia として公表されてきたことから,海外からの高い評価を得てきた。 (キーワード:ガンマーフィールド,Gamma Field Symposia,経済効果,栽培面積,レイメイ) |
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突然変異育種のこれまでとこれから | ||||||
東京大学大学院 農学生命科学研究科 井澤 毅 | ||||||
1960年に常陸大宮市に設立され,多くの新品種を生み出してきた放射線育種場が,2023年そのガンマ線照射業務を終えた。ここでは,突然変異育種の歴史を振り返りつつ,現在の育種の主流である人工交配育種との違いをゲノム情報からの知見を考慮しながら考察し,これからの突然変異育種としてゲノム編集技術を使う新しい技術に関して総括し,新しい突然変異育種法を提案する。 (キーワード:突然変異育種,人工交配育種,ゲノム編集技術,イネ) |
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RNA干渉を引き起こす顕性突然変異 | ||||||
広島大学大学院統合生命科学研究科 附属植物遺伝子保管実験施設 草場 信 |
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Lgc1 はイネの主要貯蔵タンパク質グルテリン含量が減少する顕性突然変異体である。グルテリン多重遺伝子族のうちGluB4 とGluB5 は逆方向反復配列の形で存在するが,Lgc1 ではこのうちGluB5 の第3エクソンから転写終結点を含む領域に約 3.5 kb の欠失が生じている。このためGluB5 からGluB4 に及ぶ転写産物が生成され,それが二本鎖RNA部分をもつヘアピンRNAとして作用した結果,グルテリン多重遺伝子族のmRNA が分解されるものと考えられた。これはRNA 干渉により突然変異形質が引き起こされることが示された初めての例となった。また,このような作用をもつ欠失は,複数箇所を標的としたゲノム編集によっても生成可能と考えられる。 (キーワード:イネ,種子貯蔵タンパク質,RNA 干渉,顕性突然変異体,欠失) |
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ゲノム解析を用いたイオンビーム 育種技術の高度化 | ||||||
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加速器施設で発生するイオンビームを用いた品種改良法は,日本で開発した世界を先導する技術であり,2002年以降創出した新品種数は花き植物を中心に89となった。イオンビームはイオンの種類や速度を選ぶことによって粒子が細胞に与えるエネルギーを選択することができる。一般的にこのエネルギーが大きくなると生物効果が大きくなる。加速器施設を持ちイオンビーム育種技術を開発している研究機関は国内に3つある。施設によって加速できるイオンの種類,実験できる時期,照射装置などが異なるので,材料によって使いやすい加速器施設を選ぶことをお奨めする。 (キーワード:テーラーメイド品種改良法,LET,欠失変異,染色体再構築変異) |
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量子ビームを照射した当代植物におけるゲノム変異検出法の開発とその応用 | ||||||
量子科学技術研究開発機構(QST) 量子技術基盤研究部門 高崎量子応用研究所 北村 智 |
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ガンマ線やイオンビームといった量子ビームは植物種を問わずに突然変異を誘発できることから,植物の品種改良に広く用いられてきた。これまでに,照射植物の子孫を用いて量子ビームが誘発する突然変異の特徴が明らかにされてきた。一方,照射された親植物から栄養繁殖を経てそのまま品種化に至った量子ビーム変異体も多く,このような変異体創出のさらなる効率化や,樹木や果樹といった永年性植物における品種改良を考えると,照射された親植物での突然変異の様相を解析することは重要である。本稿では,近年われわれが成功した照射当代植物におけるゲノム変異検出法の概要とその応用の可能性について紹介したい。
(キーワード:量子ビーム,照射当代植物 (M1),キメラ,全ゲノム解析,大規模変異) |
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中性子線を用いた突然変異育種への期待 | ||||||
茨城大学 農学部 久保山 勉 | ||||||
中性子線はこれまで国内では実用的な突然変異誘発に用いられてこなかった。しかし,中性子線は非荷電粒子による高LET 放射線であり,生物効果が高く少ない線量で高い突然変異誘発効果を持ち,透過性が高く厚い組織の中にも照射できるなどの利点を持つ。中性子線による機能欠損型変異の大半は欠失によることが知られている。私たちはJ-PARC 加速器を用い,イネ乾燥種子に中性子線を照射し,M2世代で様々な変異体を得た。アルビノの出現率は3.4%であり,J-PARC 加速器は実用的な突然変異誘発に用いることができると考えられる。今後,中性子線が突然変異誘発の一つの選択肢として活用されることに期待したい。 (キーワード:中性子線,突然変異,放射線,加速器,J-PARC) |
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変異創生技術としてのゲノム編集技術:G A B A高蓄積トマトを事例として | ||||||
筑波大学生命環境系 つくば機能植物イノベーション研究センター 江面 浩 |
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自然突然変異体や人為突然変異体を利用した農作物の重要育種形質の分子遺伝学的解析の結果,主要な農作物について重要育種形質の遺伝子変異の実態や重要育種形質発現の分子機構が明らかになってきた。一方,近年,標的遺伝子に正確に変異を創生できるゲノム編集技術がめざましく発展した結果,目的とした遺伝子変異を望みの系統に迅速に再現できるようになり,品種改良の高速化に大きな期待がかかっている。本稿では,変異創生技術としてのゲノム編集技術をGABA 高蓄積トマトの開発を事例に紹介する。 (キーワード:ゲノム編集技術,変異創生,GABA 高蓄積トマト,CRISPR/Cas9) |
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