Vol.11 No.12 【特 集】 我が国の畜産におけるアニマルウェルフェア(AW)の現状 |
家畜のアニマルウェルフェアに関する新たな国の飼養管理指針について |
農林水産省 畜産局 眞壁 七恵 |
我が国における家畜のアニマルウェルフェアに関しては,基本的な考え方を農林水産省が示し,畜種別等の指針は民間団体が作成していた。しかしながら,国内外におけるアニマルウェルフェアへの関心の高まりや畜産物の輸出拡大の推進等を踏まえ,我が国のアニマルウェルフェアの水準を国際基準を満たす水準に引き上げることとし,農林水産省は,2023年7月26日付けで国際基準であるWOAHコードに沿った家畜のアニマルウェルフェアに関する飼養管理指針を新たに発出した。 今後は,生産現場における本指針の普及・定着を進めるとともに,消費者や流通・小売りなどを含む関係者に対し,理解醸成を図っていくこととしている。 (キーワード:家畜のアニマルウェルフェア,新たな国の指針,国際基準,WOAHコード) |
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我が国の家畜生産現場におけるアニマルウェルフェアの現状と課題 |
信州大学 学術研究院 竹田 謙一 |
アニマルウェルフェアとは家畜の状態であり,「5つの自由」の視点から総合的に評価されるものである。その評価項目の多くは,すでに生産者の多くが実践している内容で,丁寧に説明すれば,ほとんどの生産者は納得する内容である。しかし,土地の制約がある我が国において,「正常な行動を発現する自由」に関する項目の実践が課題である。本稿では,その解決策の一つとして,群飼を事例に解説する。また生産コスト上昇分を消費者に訴求できない今日,疾病罹患リスクを対象にすることで,生産コスト上昇分を相殺できることを提案する。 (キーワード:アニマルウェルフェア,5つの自由,群飼,正常な行動を発現する自由) |
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アニマルウェルフェアに基づく乳牛の飼養管理 |
酪農学園大学 森田 茂 |
アニマルウェルフェアは,動物が出生してから死に至るまでの期間,生活の質に配慮することである。泌乳量の多い乳牛は特に暑さに弱く,適切な暑熱対策は生産性を向上させる。栄養管理においても適切な管理を行うことが,生産性向上に直接結びつくことから,管理者は改善に取り組みやすい。一方で,断尾のようにその効果が認められていない処置を現在も実施している場合がある。また除角のように,実施はするが家畜の痛みを最小限にするための時期や手法が研究されている処置もある。生産者はこうした知見を参考として,飼養管理を高度化・効率化し,消費者に説明できる飼い方を求めるべきである。 (キーワード:暑熱対策,飼槽管理,休息環境,断尾,除角) |
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肉用牛のアニマルウェルフェアに関する国内の研究動向 |
農研機構 畜産研究部門 矢用 健一 |
我が国の肉用牛飼養では,今後,去勢,除角,鼻環等の痛みを伴う外科的処置についての対応が求められてくると予想される。痛みを伴う処置は若齢時に行うことが推奨されている。しかし,海外の肉用品種に比べ小型で性成熟が遅い黒毛和種での去勢適期,乳用牛と比較して遅い除角時期,海外では一般的ではない鼻環の装着など我が国特有の問題についての科学的知見が不足している現状である。 (キーワード:黒毛和種,外科的処置,去勢,除角,鼻環) |
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採卵鶏と肉用鶏の福祉 |
東京農工大学 農学部 新村 穀 |
ニワトリの中でも,採卵鶏のケージ飼いは,特に大きな批判の的となっており,それに代わるものとしてエンリッチドケージや放し飼いの飼育システムが開発されている。それらの飼育システムの比較の中で見えてくるものは,完璧な飼育システムは存在せず,いずれの方法にも一長一短が存在するということである。また,今なお長所を生かしつつも,短所を解消するための管理技術の進化も認められる。本稿では,飼育システムに焦点を当てつつも,採卵鶏あるいは肉用鶏の福祉を捉える上で,重要な項目を挙げ,その問題点および代替法について概説する。 (キーワード:採卵鶏,肉用鶏,ブロイラー,ケージ,ケージフリー) |
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ブタにおけるアニマルウェルフェアの現状と研究 |
東海大学 農学部 伊藤 秀一・�識福〕Ⅰ� |
ブタにおけるアニマルウェルフェア(AW)への対応について,繁殖豚のストール飼育は行動の制約が多いことから,ストールフリー飼育への移行が検討されているが,闘争行動の発生などの問題点も指摘されている。また,母豚の分娩ストールは子豚の安全確保のために有効であるが,妊娠ストールと同様に母豚の行動欲求を制約することから,様々な代替法が研究されている。さらに断尾や去勢などの痛みを伴う外科的処置についても,AW の向上と新たなアプローチが求められている。 (キーワード:妊娠豚の群管理,Free Farrowing System,外科的処置,免疫学的去勢) |
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採卵鶏生産システムのアニマルウェルフェア飼養導入の経済性評価 |
農研機構 畜産研究部門 加藤 博美 |
アニマルウェルフェア(AW)は世界の潮流であり,日本への導入は避けられず,畜産業に大きな影響を与えると考えられている。本研究では採卵鶏生産システムへのAW 飼養導入の経済評価を行った。対象施設は,コンベンショナルケージ,エンリッチドケージ,エイビアリーおよび平飼いの4施設,6タイプの飼養システムを設定した。結果としてAW の導入により卵の小売価格は1.1倍~2.0倍に高くなることが明らかとなった。また,生産システムの変更は小売価格以外にも,生産性,生産コスト,労働人数・時間,農場面積にいたるまで多くに影響を及ぼすことが明らかとなった。 (キーワード:アニマルウェルフェア,採卵鶏,農場出荷価格,小売価格,経済評価) |
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獣医師と動物福祉 |
公益社団法人日本動物福祉協会 町屋 奈 |
獣医師は国家資格を持つ動物の専門家であり動物福祉の専門家でもある。しかし,日本の獣医学教育で動物福祉学がコアカリキュラムとなったのは比較的最近のことであり,獣医療と動物福祉が連動していない獣医師が多いと考える。獣医学教育,獣医学的観点から考える産業動物の福祉や日本の畜産業における課題と当協会の取り組み等について述べる。 (キーワード:獣医師,動物福祉,産業動物,消費者意識,日本動物福祉協会) |
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