Vol.12 No.3
【特 集】 第24回民間部門農林水産研究開発功績者表彰受賞者の業績


ナチュラルオカレンス・セルフクローニングを利用した
鶏大腸菌症生ワクチンの実用化
日生研株式会社    永野 哲司・長井 伸也・北原 梨恵・鳥海 宏司
 養鶏産業に深刻な被害を及ぼす鶏大腸菌症を制御するため,ワクチン開発を目的としてサイクリックAMPレセプタータンパク質遺伝子を部分的に欠損した大腸菌株を作出した。この株はナチュラルオカレンス・セルフクローニングに該当すると確認され,噴霧投与用の生ワクチンとして製造販売承認されるに至った。本ワクチンを使用した農場では,鶏大腸菌症の予防や本症による生産性低下を改善するといった効果に加えて,治療として投与される抗菌剤の使用量を低減できる二次的な有用性も併せて確認された。これらの成果により,本ワクチンは国内での普及が進み,さらに現在では海外における普及も進みつつある。
(キーワード:鶏大腸菌症,弱毒生ワクチン,ナチュラルオカレンス,セルフクローニング,噴霧投与)
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十勝地域組合員総合支援システムによるスマート農業普及・推進
十勝農業協同組合連合会    鈴木 雅博・前塚 研二
 十勝地域組合員総合支援システム(TAF システム)は,個別圃場・作物の「過去の作付情報」「土壌分析情報」「生産履歴情報」などをマッピング表示する機能を有し,生産者と農協等がこれらの情報を共有できる。さらに,個別圃場の栽培管理に適用できる「土壌凍結深予測(ばれいしょの野良いも防除に利用)」,「地温予測(ばれいしょ収穫時の打撲低減に貢献)」,「衛星(NDVI)情報に基づく可変施肥マップ」,「気象情報に基づくモデルによるばれいしょポテンシャル収量(実際の収量と比較し生産技術を確認)」といった最新の研究成果も利用できる。
(キーワード:TAFシステム,マッピング,圃場管理,スマート農業,北海道十勝地域)
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サツマイモ基腐病を防除する種イモ蒸熱処理装置の開発と普及
三州産業株式会社    古垣 洋次・奥 竜郎
株式会社サナス    加治佐 博・平田 晃誠
三和物産株式会社    和田 彰
 2018年に国内で初めて確認されたサツマイモ基腐病は,南九州・沖縄地域では非常に深刻な問題となっている。三州産業(株)はそれまでに培ってきた熱帯果実の検疫処理方法である蒸熱処理技術をもとに, 新たにサツマイモ種イモ蒸熱処理装置を開発し,(株)サナス,三和物産(株)と共同で試験研究を行い,効果の確認検証を進め実証をしてきた。さらに農研機構や公設試との共同研究により,種イモの温度障害を回 避し,かつ高い消毒効果を有する合理的に実行可能な処理条件を見出し,サツマイモ基腐病被害の早期収束に向けて,本病をほ場に「持ち込まない」対策として,蒸熱処理装置をこれまでに生産現場に11台導入し, 2023年産向け種イモ推計287tの無病化に貢献してきた。
(キーワード:サツマイモ,基腐病,蒸熱処理,温度障害,消毒効果)
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素材生産業の安全性向上と木よせ機能の低価格化による林業活性
有限会社WEST    大野 憲一
 林業は,長期的なスギ・ヒノキの育成に多大な労力が必要な産業であり,日本の国土の約70%を占める森林資源の活用が重要である。主な課題には,労働災害の多さ,労働力不足,生産性の低さ,木材価格 の低迷が含まれる。これらの問題に対処するため,高性能林業機械の導入が求められており,当社は現場のニーズに基づいた製品開発を行っている。特に「グリップる®」と「アームウインチま〜たん®」は,林業作業の効率化と安全性向上に貢献している。当社は,これらの革新的な機械を通じて,林業の成長と地方創生に貢献することを目指している。
(キーワード:林業,コスト削減,林業活性化,地方創生,持続可能性)
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認知機能改善と体脂肪低減作用を有するビール苦味成分
「熟成ホップ」の発見と事業応用
キリンホールディングス株式会社    
阿野 泰久・福田 隆文・金子 裕司・近藤 恵二
 超高齢社会を迎えた国内において認知症は大きな社会課題となっており,科学的エビデンスに基づいた研究成果の社会実装が求められている。われわれは,適量の酒類摂取が認知症の防御因子となる疫学 報告に着目し,ビール原料のホップより認知機能改善成分「熟成ホップ」を独自に見出し,素材化することに成功した。熟成ホップは迷走神経を刺激し,中枢神経機能を調節することで,認知機能と併せて体脂肪低減 作用を示すことを明らかとした。臨床試験(RCT)によって,認知機能改善,不安感低減,体脂肪低減作用のエビデンスを取得し,機能性表示食品としてノンアルコールビール,サプリメントなどで社会実装を開始した。 健康課題解決に向けて,今後も継続可能な食を通じたエビデンスに基づく予防・健康づくりの普及を進めていきたい。
(キーワード:認知症,認知機能,生活習慣病,体脂肪,機能性表示食品,予防・健康づくり)
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母豚の発情を検知するシステムPIG LABO® Breeding Masterの開発
日本ハム株式会社 中央研究所    
助川 慎・森下 直樹・北川 絵理・奥田 雅貴・丸山 樹生
 デジタルトランスフォーメーションによる養豚産業の生産性向上は,これからの養豚の持続的な発展に向けて重要な課題である。養豚は生産工程の多岐にわたって人の手による判断・作業が必要とされるが, 母豚の繁殖における発情,種付け可否の確認もその一つである。母豚が発情しているかどうかの判定は人の感覚に頼っており経験と労力が求められるが,筆者らはカメラの映像から母豚の行動をAI(人工知能)で分 析することで発情を検知する技術を確立し,農場で運用可能なシステムPIG LABO® Breeding Masterとして製品化した。本技術の農場への導入によって繁殖成績の向上や技術の標準化の実現が期待できる。
(キーワード:母豚,デジタルトランスフォーメーション(DX),発情,AI (人工知能),行動分析
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