|
Vol.12 No.4 【特 集】 第19回若手農林水産研究者表彰受賞者の業績 |
| 森林における放射性セシウムの初期動態に関する研究 |
| 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 北海道支所 今村 直広 |
| 福島第一原発事故から５年間にわたり，汚染程度の異なる９つの森林の葉，枝，樹皮，幹材，落葉層，鉱質土壌層の放射性セシウム蓄積量を調べた。また，これら蓄積量から森林内の空間線量率を推定するモデルを開発した。その結果，事故直後に樹木に多く付着していた放射性セシウムは，時間の経過とともに樹木から土壌に移動し，その多くは深さ５cm 以内の表層土壌に留まっていること，空間線量率は鉱質土壌層から主にもたらされていることを明らかにした。このことは，事故後２年以降，落葉層を取り除く森林除染を実施しても，空間線量率を減らす効果はあまり期待できないことを示唆していた。本成果は，奥山における森林除染実施の判断材料に活用された。 (キーワード：福島第一原発事故，森林，放射性セシウム，空間線量率，森林除染） |
|
←Ｖｏｌ．12インデックスページに戻る
|
| 被覆肥料に由来するマイクロプラスチックの環境動態解明 |
| 石川県立大学 生物資源環境学部 勝見 尚也 |
| 海洋プラスチックごみ問題が大きく取り上げられるようになったことで，農耕地で使用されたプラスチック資材の適正処理や，圃場外への流出防止が求められるようになった。その中でも被覆肥料に由来するマイクロプラスチック（被膜殻）は農耕地のみならず海洋でも多く見出されていることから，流出抑制につながる知見が必要となっている。そこで筆者は，水田，農業用水，海岸線を調査フィールドに設定し，各要素間における被膜殻のフラックスや滞留時間を実測することで，陸域における被膜殻の動態を定量的に評価した。今後，得られた知見を基に流出抑制・回収技術を開発することで，陸と海に配慮した持続的な農業の発展に貢献することが期待される。 (キーワード：マイクロプラスチック，被覆肥料，被膜殻） |
|
←Ｖｏｌ．12インデックスページに戻る
|
| 統計的因果推論による漁業管理及び水産政策評価 |
| 東京大学大学院 農学生命科学研究科 阪井 裕太郎 |
| 統計的因果推論は，社会科学において物事の因果関係やその効果の大きさを推定するための分析ツールである。そのエッセンスは，自然科学における実験とできるだけ近い状況を見つけ出すことで物事の因果関係に迫ることである。この枠組みを用いて漁業補助金が水産資源に与える影響を分析したところ，その効果は補助金と漁業管理の両方に依存することが示された。また，この枠組みでプール制と呼ばれる日本独自の漁業管理の効果を分析したところ，魚価を約25％向上させる効果があったことが示された。我が国の水産業を復興させるためには，有効な政策や管理の在り方の解明が急務であり，統計的因果推定はそのための強力なツールである。 (キーワード：統計的因果推論，漁業管理，漁業補助金，沖合底曳網） |
|
←Ｖｏｌ．12インデックスページに戻る
|
| 森林および竹林の水土保全機能に関する研究 |
| 宮崎大学農学部 篠原 慶規 |
| 近年，防災対策など，様々な場面で「自然の力」の活用が模索されており，「自然の力」を最大限発揮させる森林管理手法の開発が待たれる。著者は，課題抽出，技術開発，評価という３ステップで研究を行うことで，森林の質的変化（管理，樹種転換，成長など）が水土保全機能に与える影響を明らかにした。特に「竹林の拡大」に関しては，既往の研究も含めて評価を行い，「竹林の拡大」は水土保全機能に大きな影響を与えないという結論を得た。森林の質的変化が水土保全機能に与える影響が明確になることにより，地域の実情にあった森林管理が促進され，国民全体で森林の恩恵を実感しやすくなることが期待される。 (キーワード：水資源，洪水，表層崩壊，表面侵食，蒸発散） |
|
←Ｖｏｌ．12インデックスページに戻る
|
| ゲノムと画像情報を活用した果樹の効率的な育種法の開発 |
| 千葉大学 国際高等研究基幹 南川 舞 |
| ゲノミック選抜やゲノムワイド関連解析などのゲノム情報を活用した解析や育種法が果樹育種に有用であることが，カンキツ，ナシ，リンゴの実データから示された。また，画像解析と機械学習の組み合わせにより，カンキツの剥皮性・果実硬度にかかわる果実形態が明らかとなった。果実形質に関連する形態の自動的かつ大量な収集を可能とし，ゲノミック選抜（Genomic Selection: GS）やゲノムワイド関連解析（Genome-Wide Association Study: GWAS）の高精度化に貢献すると期待される。さらに，リンゴゲノムから多数の花粉側自家不和合性の候補遺伝子が同定された。開発されたゲノム育種の枠組みは他の果樹育種へも応用が可能だが，これらの技術を育種現場へ実装するためには，直感的に使いやすいシステム作りも必須であろう。 (キーワード：果樹育種，ゲノミック選抜，ゲノムワイド関連解析，画像解析，自家不和合性） |
|
←Ｖｏｌ．12インデックスページに戻る
|