Vol.12 No.6
【特 集】 第79回農業技術功労者表彰受賞者の業績


環境負荷を低減したキュウリ・トマトの土壌病害虫の防除技術の開発
千葉県農林総合研究センター    大木 浩
 実用的な処理方法が明らかでなかった低濃度エタノールを用いた土壌還元消毒法に着目し,キュウリのネコブセンチュウ,ウリ類ホモプシス根腐病およびトマト萎凋病に対する防除技術の開発に取り組んだ。土壌深層部まで安定した効果が得られる季節や温度条件,処理量,処理期間等を解明するとともに,水保ちが異なる土壌の種類ごとに希釈水量と処理濃度の適正値を明らかにして,これらをマニュアル化した。
(キーワード:環境保全型農業,土壌還元消毒,エタノール,土壌病害虫)
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除草剤抵抗性水田雑草の発見と生態的特性に基づく防除法の確立
前 (地独)北海道立総合研究機構 農業研究本部    古原 洋
 スルホニルウレア系除草剤(SU剤)に対する抵抗性の水田雑草のミズアオイおよびイヌホタルイを日本で最初に発見し,これらは作用機作の異なる除草剤によって防除できることを明らかにした。また,抵抗性イヌホタルイの発芽と生存期間に関する生態的特性から,現場での指導に有益な情報として,①水稲移植直後からイヌホタルイの発生を観察し除草剤の処理時期を逸しないように注意して使用すること,②5年以上の中・長期的な対策が必要であることを示した。全国でも抵抗性イヌホタルイが確認され,本研究成果は防除を推進する際の貴重な知見となっており,水稲作における労働生産性の向上に大きく貢献している。
(キーワード:スルホニルウレア系除草剤,抵抗性,発芽,生存期間,防除)
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水田におけるメタン発生抑制と硫化水素「見える化」技術の開発
前 新潟県農業総合研究所    白鳥 豊
 新潟県は水稲の栽培面積,収穫量ともに全国第1位の農業県であり,水田からのメタン発生抑制に早期に取り組む必要があった。また,水田土壌の還元化に伴ってメタンとともに硫化水素が発生し,水稲に根腐れを引き起こすことから,土壌の還元化を抑制する技術が必要であった。そこで,稲わらの秋すき込みや中干し期間の延長,暗渠排水によるメタン発生抑制技術を開発して普及を行った。さらに,銀めっき板を用いた硫化水素「見える化」技術を開発し,これまで勘と経験に基づいて判断されてきた硫化水素の発生を生産者自らが診断して,適切な栽培管理と土づくりを行うことを可能とした。
(キーワード:温室効果ガス,土壌診断,水田,メタン,硫化水素)
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酒造好適米評価体系の確立と醸造特性に優れる「雪女神」の育成
前 山形県農業総合研究センター水田農業研究所    中場 勝
 水稲酒米品種の育成において,育成の早期から酒造好適米としての醸造特性を評価する体系を確立した。従来の心白発現率,心白率および玄米粗タンパク質含有率等の分析に加えて高度搗精(とうせい)試験を行うとともに,山形県工業技術センターと連携し,酒米の吸水性や消化性,小仕込み試験等の醸造特性を育成の早期から明らかにすることで,大吟醸酒醸造を想定した適性を見極めていく体系を確立した。その結果,山形県初となる大吟醸酒向け水稲品種「雪女神」を育成するとともに,「雪女神」栽培マニュアル等を取りまとめ,山形県酒造適性米生産振興協議会と連携して,「雪女神」の普及定着を図っている。
(キーワード:酒造好適米,新品種育成,醸造特性,大吟醸酒,雪女神)
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イチゴの品種育成と高品質安定生産技術の開発による産地振興
奈良県農業研究開発センター大和野菜研究センター    西本 登志
 県内イチゴの生産者高齢化と生産面積の減少が顕著となる中,産地の再興を目指し,品種育成と技術開発を行った。臭化メチル剤全廃を見据え,土壌伝染性病害を回避できる低コストかつ安全性・省力性に優れたベンチ無仮植育苗法を開発した。次いで,販売経路の多様化に対応して,食味に特徴のある品種「古都華(ことか)」を育成した。さらに,全国各地の大学・国研・公設試・企業等との共同研究により,加温機排気から分離・貯留した二酸化炭素の再利用,ミツバチ代替昆虫としてのヒロズキンバエの利用,収穫・管理支援用運搬台車,間欠冷蔵による花芽分化促進など,県内産地と次世代のイチゴ生産を支えるための技術開発に取り組んだ。
(キーワード:イチゴ,無仮植育苗,新品種,花粉媒介昆虫,二酸化炭素施用,花芽分化促進)
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水稲の高温登熟性評価手法と高温耐性品種の開発
鹿児島県農業開発総合センター    若松 謙一
 温暖化に対応した水稲の安定生産を図るため,登熟期の高温が玄米外観品質に及ぼす影響について,高温条件で発生する背白米の発生量に着目し,温度の影響を受ける時期,湿度,日射量,窒素施肥量など,出穂後の環境要因と白未熟粒との関係を解明した。また,背白米発生の品種間差異は遺伝的であることを明らかにし,選定した基準品種を用いた品種・系統の高温登熟性の評価手法を開発した。品種育成では,2007年に登熟期の高温を回避する良食味品種「あきほなみ」,その後,高温登熟性の強い良食味品種「なつほのか」,「あきの舞」など14品種を育成した。
(キーワード:玄米品質,高温,背白米,白未熟粒,品種間差異)
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