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Vol.12 No.11
【特 集】 スマート農業技術の現地実証と社会実装(Ⅳ)


スマート農業実証プロジェクトの概要と本特集のねらい
農研機構 みどり戦略・スマート農業推進室    栗原 光規
 スマート農業実証プロジェクトは,これまでに217実証課題が全国各地で展開されている。そのうち2022年から2年間の計画で産地単位の実証に取り組んだ23実証課題(水田作3,畑作7,露地野菜2,施設園芸3,果樹2,茶1,畜産2,ローカル5G が3(施設園芸1,果樹1,畜産1))が終了したため,特徴的な7課題を選定し,その取組概要,導入技術の効果と課題,今後の社会実装に向けた取り組みについて紹介する。
(キーワード:スマート農業,実証プロジェクト,シェアリング,産地)
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スマート農機のシェアリング・情報提供サービスの運営手法とその効果検証
エアロセンス株式会社    菱沼 倫彦
 米価は需給による変動が大きく,化学肥料原料の輸入価格は戦争などの世界情勢や円安による購買力低下の影響を大きく受ける。この中で農家が利益を確保するためにはスマート農機導入による生産費の削減や高利益作物の導入が必須である。一方で個人でのスマート農機導入は生産費削減効果よりも機械導入経費の負担が重く,品質向上による利益向上と同時にシェアリングによる導入負担の軽減が求められる。シェアリングを実施する際に発生しうる課題を解決するため,主要作物が異なる複数地域を対象とした運営組織を構成し,農家やJA および行政機関と協調しながら気象観測による作業適期判断に基づいたシェアリングを実施し,経費削減効果および品質別販売による利益向上効果を試算した。
(キーワード:作業適期予測,スケジューリング,地域連携シェアリング,運営組織,品質別収穫)
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センシング技術を活用した畑作物(大豆・小麦)の収量向上対策の実証
農研機構 東北農業研究センター    宮路 広武
 我が国農業において規模拡大が進展する中,より一層の生産の省力,効率化が求められている。農地の面的集積や圃場の合筆(がっぴつ)などにより,生産基盤の改善も進められているが,省力的な作物として,大豆・小麦などの畑作物栽培の展開も想定される。しかし,我が国の大豆・小麦の収量は低く,収量の向上が求められる。大豆・小麦の収量には様々な要因が影響するが,湿害も収量を低下させる要因の一つである。湿害の低減には,効果的な排水対策の実施が必要であるが,圃場内の高低差センシングに基づく排水対策の実施は有効であると考えられ,大豆・小麦の収量向上対策の一つとして期待される。
(キーワード:畑作物,排水対策,高低差センシング,生育センシング)
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水田転換畑でのニンジン栽培におけるスマート農業技術の実証
富山県砺波農林振興センター    浅井 雅美
 富山県南砺市の中山間地域に位置するJA 福光管内で,水田転換畑を用いてニンジンのスマート農業技術の実証に取り組んだ。直進アシストトラクタと超砕土成型ロータリなどを用いた播種作業,ICT 環境モニタリング装置を使用した遠隔での土壌水分把握,ドローンを使用した農薬散布により,作業時間の削減や軽労化,および増収効果が確認できた。ドローンのリモートセンシングを用いた画像解析によるニンジン株立数の推定から,収量予測と収穫日予測が可能となり,収量予想に基づいた有利販売と適期収穫に繋がった。
(キーワード:ニンジン,直進アシスト,環境モニタリング,ドローン,水田)
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センシングドローンとGPS レベラーのシェアリングによる
さつまいも産地における基腐病軽減技術の実証
鹿児島大学 農学部    神田 英司
 2018年に沖縄県でサツマイモ基腐(もとぐされ)病が初めて確認されて以降,鹿児島県内でも急速に感染が拡大し,さつまいも栽培に甚大な被害を与えてきた。そこで,サブソイラーによる心土破壊,額縁明渠による排水路の確保に加え,GPS レベラーによる圃場高整備によって圃場内停滞水の排水を徹底することで圃場内での感染の拡大を防止する技術,およびドローンでの空撮画像によるサツマイモ基腐病発病リスク判定結果に基づく発病株の早期抜き取り・適期防除の支援を行うことで圃場内での基腐病の蔓延を軽減する技術の実証を行った。
(キーワード:サツマイモ基腐病,GPS レベラー,センシングドローン,排水改善,リスク判定)
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ハウス内統合環境制御を活用した有機苗安定生産技術の実証
有限会社かごしま有機生産組合    上野 豊
 鹿児島県では新規就農者の2割以上が有機農業を選択しているが,有機苗の生産・入手が困難であり,規模拡大の足かせとなっている。かごしま有機生産組合では,有機育苗を行ってきたが,人員不足,熟練者の退職等が品質に大きく影響し,高品質な有機苗を安定供給できていなかった。そのため,統合環境制御システムを活用することで,病害虫の被害を最小限に抑えつつ,育苗者の経験に頼ることなく,高品質な有機苗を安定供給する技術を実証した。実証の結果,有機苗の供給量は導入前の58倍,供給割合も2%から90%に向上し,労働時間は導入前の14%と大幅に減少した。また,有機苗の供給量の増加等によって,生産者の販売額も14%増加した。
(キーワード:有機育苗,ハウス内統合環境制御,局所CO2施用)
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中山間カンキツ産地におけるスマート農機の活用とシェアリングモデルの実証
三重県熊野農林事務所 紀州地域農業改良普及センター    後藤 雅之
 中山間カンキツ産地におけるスマート農業の技術導入による省力化とスマート農機のシェアリング実証を行った。防除作業時間について,スマート農機を最大限に活用できる園地の場合77%の作業時間削減が可能であることが試算された。また,地域の水稲農家が所有する無人航空機(以下UAV)のカンキツへの利用の実証を行い,他品目とのシェアリングの可能性が示された。
 また,樹体画像から水分ストレスの状態をAI が診断し,自動でかん水管理を行うシステムによって,生産農家と同等の果実品質を生産可能であることが示された。さらに,AI が選果時の果実の画像データから外観阻害要因を診断する「AI 果実診断ロボット」の開発を行い,果実画像を用いたテストでは,適合率が90%以上と高い精度で診断できた。
(キーワード:カンキツ,スマート農業,AI,省力化)
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荒廃農地の再生による環境保全効果と生産性の高いスマート放牧体系の実証
農研機構 西日本農業研究センター    平野 清
 スマート技術を活用しつつ,無農薬・無化学肥料での持続的な放牧関連技術の導入実証を島根県大田市の三瓶山の荒廃農地を含むエリアで行った。導入した技術は,荒廃農地再生技術・放牧期間延長技術・GPS ガイダンスによる鶏ふん散布技術,放牧牛の位置看視技術,電気牧柵電圧監視技術であった。本技術導入により,放牧地の面積は31ha →64ha へ,放牧期間は182日→230日へ,放牧牛の頭数は30頭→53頭へ,それぞれ増加した。放牧地面積・飼養頭数増加により,通常では作業量は増えるが,本取組では放牧牛の位置看視技術などにより人員の増加無く2名で管理ができた。
(キーワード:スマート農業,荒廃農地,放牧,農地保全,持続的畜産)
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