Vol.13 No.3 【特 集】 第24回民間部門農林水産研究開発功績者表彰受賞者の業績 |
認知機能維持に繋がる乳由来βラクトリンの発見とエビデンスに基づく社会実装 | ||||||||||||
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超高齢社会を迎えた我が国において,加齢に伴って低下する認知機能は重大な健康課題である。認知機能の低下は早期の段階で適切に生活習慣を改善すると,維持や改善が可能であると報告されており,食事も重要な行動変容の一つである。福岡県久山町での疫学研究より,牛乳や乳製品の摂取が認知機能低下リスク低減に有用であると報告された。われわれは,乳製品の中でも特に白カビで発酵させたカマンベールチーズが有用であることを解明し,有効成分として乳ペプチドであるβ ラクトリンを発見した。β ラクトリンは,摂取後脳へ届き,脳内の神経伝達物質であるドーパミンを増加する。また,物忘れを自覚する中高齢者対象の臨床試験で,認知機能の維持に有効であることを確認した。さらに,β ラクトリンが高含有な素材開発に成功し,機能性表示食品としてエビデンスに基づく社会実装を行った。 (キーワード:記憶力,乳製品,認知機能,ペプチド,β ラクトリン) |
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十勝地域組合員総合支援システムによるスマート農業普及・推進 | ||||||||||||
十勝農業協同組合連合会 鈴木 雅博・前塚 研二 | ||||||||||||
十勝地域組合員総合支援システム(TAF システム)は,個別圃場・作物の「過去の作付情報」「土壌分析情報」「生産履歴情報」などをマッピング表示する機能を有し,生産者と農協等がこれらの情報を共有できる。さらに,個別圃場の栽培管理に適用できる「土壌凍結深予測(ばれいしょの野良いも防除に利用)」,「地温予測(ばれいしょ収穫時の打撲低減に貢献)」,「衛星(NDVI)情報に基づく可変施肥マップ」,「気象情報に基づくモデルによるばれいしょポテンシャル収量(実際の収量と比較し生産技術を確認)」といった最新の研究成果も利用できる。 (キーワード:TAFシステム,マッピング,圃場管理,スマート農業,北海道十勝地域) |
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慢性炎症の抑制により肥満気味の方の腹部脂肪を減らす MI-2乳酸菌配合ヨーグルトの開発 |
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肥満の原因の一つは腸や脂肪組織の慢性炎症であり,糖・脂質代謝の悪化に繋がる。本研究開発では,免疫細胞に働きかけ抗炎症性物質の産生を強く誘導するMI-2乳酸菌による慢性炎症の抑制に着目し,肥満の根本的な予防・改善の実現を目指した。同乳酸菌の培養条件などを最適化し,特に高い抗炎症作用および糖・脂質代謝改善の機能性を有するヨーグルトの生産方法を開発した。ヒト対象研究では,肥満気味の方を対象に,同ヨーグルトの継続摂取による腹部脂肪の蓄積抑制,空腹時血糖値の低減および慢性炎症の抑制効果を実証した。同ヨーグルトはメタボリックドミノを最上流でせき止め様々な代謝性疾患の発症リスク低減にも寄与すると期待される。 (キーワード:MI-2乳酸菌,慢性炎症,ヨーグルト,interleukin-10,インスリン抵抗性) |
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2層式ストロー(FCMax®)の開発とその実用化 | ||||||||||||
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凍結精液の融解後の精子の品質を良好に保つために,ストロー内で凍害保護物質(グリセリン)を希釈し,有効な塩類や精子のエネルギー源(糖類)を添加できる手法を検討し,空気層を挟んで精子の入った精液層と精子を含まない希釈液層からなる2層式ストロー「FCMax®」を開発し,実用化した。人工授精試験では,従来の精子の入った精液層のみからなる1層式ストローと比較して,2層式ストローでは受胎率が5.9%向上した。2層式ストローを大量生産するための牛精液自動充填装置の開発により,本技術の普及を加速させた。 (キーワード:2層式ストロー,牛凍結精液,受胎率向上,牛精液自動充填装置) |
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ブロッコリー品種の継続的開発による生産拡大と周年供給への貢献 | ||||||||||||
株式会社サカタのタネ 川村 学・小林 茂俊・笹山 純一 | ||||||||||||
1990年代,日本の気象環境により国内での高品質花蕾の周年栽培が困難なため,輸入品割合が高かったブロッコリーでは,国産品への転換が強く求められた。そこで,早生性・耐暑性・低温伸張性を有した適応性の広いブロッコリー品種'ピクセル','おはよう','SK9-099',低温に鈍感で湿害に強く,花蕾肥大性に優れた'グランドーム',根こぶ病耐病性をもつ'グリーンキャノン','アーリーキャノン'などを開発した。結果として,国内のブロッコリー販売種子シェアの6割を獲得するとともに,ブロッコリー品種の継続的な開発により,国内での周年生産・作期拡大,作付面積と消費の拡大,水田作への導入と加工業務用需要への対応,省力・低コスト・農薬使用量の削減に貢献した。 (キーワード:ブロッコリー,安定供給,早生品種,加工業務用,根こぶ病耐病性) |
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急勾配対応のリモコン式小型ハンマーナイフ草刈り機 | ||||||||||||
株式会社IHIアグリテック 牧 洋文・木島 悦男・佐野 修一 | ||||||||||||
急勾配な傾斜地においてもリモコンを用いて安全な場所から遠隔操作で能率の高い作業を行うことができる小型のハンマーナイフ式草刈機を開発した。開発機は10kW のガソリンエンジンを搭載し,走行と刈取部を油圧駆動とした軽量コンパクトな低重心設計により最大適応傾斜角45度を達成すると共に,軽トラックでの運搬を実現した。本製品は,安全かつ草刈現場の条件に限定されずに高能率作業を行うことができるという特長を持ち労働負担の低減に大きく寄与できることが確認されており,発売以降全国各地のさまざまな草刈現場への普及が進んでいる。
(キーワード:草刈機,リモコン,遠隔,ハンマーナイフ,急勾配,法面) |
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でん粉原料用馬鈴しょ品種「コナヒメ」の開発 | ||||||||||||
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北海道の畑作物において,でん粉原料用馬鈴しょの生産は輪作体系上重要である。しかし,その生産量は減少しており,原因の一つとして重要害虫のジャガイモシストセンチュウの発生が考えられた。今回,ジャガイモシストセンチュウ抵抗性のでん粉原料用品種「コナヒメ」を育成した。「コナヒメ」のでん粉収量は「コナフブキ」並,熟期も中晩生で「コナフブキ」並で輪作体系に組み込みやすい。また,同時期に開発された複数の抵抗性品種によって,北海道のでん粉原料用品種をジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種に置き換えることができた。 (キーワード:でん粉原料用馬鈴しょ,馬鈴しょでん粉,ジャガイモシストセンチュウ) |
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リンゴ黒星病の発生低減に貢献する落葉収集機の開発 | ||||||||||||
株式会社オーレックR&D 谷山 英世・今戸 実沙紀 | ||||||||||||
青森県では,リンゴ黒星病の発生源となる原因菌の飛散胞子数を減らす目的で前年の落葉を収集する必要があったが,秋の落葉前に積雪が始まるため,雪解け後に地面に張り付いた状態の落葉を収集しなければならなかった。しかしながら手作業による張り付いた落葉収集では能率が低いため,効率的に収集することができる落葉収集機の開発が要望されており,これらの課題に対し,著者らは新たに牽引式落葉収集機と,専用レーキセットの2種類を開発し,乗用草刈機に取付けて作業することで落葉収集の作業能率を手作業に対し,約30倍と効率化を実現することができた。リンゴ黒星病以外にも落葉収集により防除できる果樹病害虫も存在していることから,今後も普及が見込まれる。 (キーワード:リンゴ黒星病,省力化,落葉収集機,効率化,草刈機アタッチメント) |
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再生可能エネルギーにより脱酸素を実現させた施設園芸モデル | ||||||||||||
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2009年に県内で発生する未利用な木質バイオマス資源を燃料として活用し,バイオマスボイラーを稼働させ蒸気熱エネルギーの生産と利用を始めた。この熱エネルギーを食用油製造に使用することで石油換算として年間9,000kL 削減とCO₂排出量を23,000t 抑制できた。さらに,ボイラーからの余剰の熱エネルギーと食用油製造から排出される温水エネルギーを冷暖房として活用する施設園芸型トマト栽培に着手した。現在,トマトの生産規模は,栽培面積3.2ha,年間生産量は約800t となり,140名の新たな雇用も創出できた。近年では,木質バイオマスの含まれるヒノキ材からヒノキ精油の蒸留を行う資源のアップサイクルを進めている。 (キーワード:木質バイオマス,熱エネルギー,カーボンニュートラル,施設園芸,複合環境制御システム |
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