Vol.13 No.8
【特 集】 技術革新を支える研究人材の育成


大学における農業情報工学とスマート農業に関する研究人材の育成
近畿大学 生物理工学部    星 岳彦
 スマート農業に関する研究・開発・教育のできる人材育成に関して,大学において実施している文部科学省高等教育局の人材育成事業・カリキュラム認定制度と,研究開発から人材育成教材までシームレスに活用できるユビキタス環境制御システムの大学教育での利用について,事例紹介した。情報リテラシーや断片的な先端技術の教育を一歩進めた実践的研究人材の育成には,先端的な情報工学技術の点を繋ぐ線や,その起源を考えること,研究と教育が同一のプラットフォームで展開されることが重要と考える。
(キーワード:人材育成事業,情報プラットフォーム,文部科学省,プログラム認定制度)
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大学における研究人材育成と農学教育
京都大学    近藤 直
 世界の食料─環境問題の解決には農学教育におけるグローバルな人脈形成およびリーダの育成が重要となる。農学が扱う対象は多様でばらつきを持つことから,それを理解させる教育,問題解決能力を養う教育,基礎的研究能力から技術導入までを学べる教育等が必要とされる。本稿では一つの形として,自由な発想による議論を可能とする多層教育構造を紹介する。農学教育が地球規模の問題解決を目指し,産業分野における高い国際競争力育成に貢献するには,教育の国際化がポイントとなる。特に,人,地域の多様性に対応した多面的議論に基づく食料生産の基盤づくりやグローバルな人材育成は産官学が連携して取り組むべきと考える。
(キーワード:食料,環境,人材育成,国際化,産官学連携)
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農業研究で望まれる多様な人材のキャリアパス
千葉大学 園芸学研究院    中野 明正
 日本における農業研究を中心に,現状の教育や研究そして,成果の現場展開に必要な人材育成について整理・考察した。たとえば,大学等教育機関を経た後の,ステークホルダーにおける,独自の教育プログラムやリカレント教育は,多様なキャリア形成に寄与し人材の流動性を促す。また,食に関するスタートアップなど,新たな就業の場の創成も昨今活況である。筆者が関わってきた研究,行政,教育機関等の事例を交えつつその多様性を紹介する。食と農に関わる多様で高度な人材育成を通じて,あるべき社会への着地点を目指して,農業や食産業の活性化が図られることが期待される。
(キーワード:食産業,分野横断,URA,スタートアップ,地方創生)
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農研機構における人材育成の取り組みについて
農研機構    西田 智子
 農業・食品産業技術総合研究機構は,農業・食品分野における「Society 5.0」の実現を目指し①食料安全保障と食料自給力向上,②農産物・食品の産業競争力強化と輸出拡大,③生産性向上と環境保全の両立を目標としている。その達成には,多様な人材の確保と育成が必要であるが,現在の労働力需給の状況や社会情勢の下では,人材確保や育成のために,従来よりも大幅な努力が求められる。そのため,人材確保では,研究機関としての魅力そのものを向上する努力に加え,一般的な広報活動も含めたリクルート活動を強化している。また,人材育成では,試験採用者を対象とした育成計画や,若手研究者全般を対象にした育成制度,また,昨年度から新たに始めたマルチ人材育成プログラム等により,多様な人材の育成に取り組んでいる。
(キーワード:人材確保,人材育成,魅力度の向上,プレゼンス向上,マルチ人材育成)
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農研機構におけるダイバーシティ推進の取り組み
農研機構 本部人事部    林 茂彦
 農研機構は,ダイバーシティ推進方針のもと,生き生きと働ける職場環境を整え,多様な人材が活躍できる職場風土の醸成に取り組んでいる。キャリア形成支援のほか,ワークライフバランス支援,外国人研究者支援,情報発信を継続的に実施してきたことで,厚生労働省から「えるぼし」,「プラチナくるみん」の認定を受けた。このような取り組みにより,研究者個人の成長に留まらず,組織全体の研究開発力のアップ,イノベーションの創出につなげていく。
(キーワード:女性活躍推進,キャリア形成,外国人研究者支援,ワークライフバランス,出産・育児・介護)
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東京都農林総合研究センターにおける研究者育成の課題と対策
(公財)東京都農林水産振興財団 東京都農林総合研究センター    濱松 潮香
 東京都農林総合研究センターは,東京都の農業関係における公設試験研究機関であり,研究職員の多くは都からの派遣職員として行政,普及,試験研究の部署間での定期的な異動を行っている。また,東京都での農業は畑地を中心に,狭い農地での少量多品目栽培を特徴としている。こうした中での研究者を育成するにあたっての課題についてまとめる。
(キーワード:東京都,部署の異動,研究者育成,少量多品目)
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現場の研究者から見た若手が魅力を感じて成長する研究組織像
農研機構 畜産研究部門
農研ワンヘルス株式会社
    大池 秀明
 最近は研究者の将来像が描きづらく,筆者の卒業大学(農学部)でも,博士課程の進学率が低下していると聞く。日本の大学,海外の大学,そして国の研究機関(農研機構)で研究を行ってきた40代の現役研究者として,どのような研究環境や職場環境が若手研究者にとって魅力的なのかを整理する。そこから,学生に人気の外資系コンサルタントに負けないような,若手人材が集まり,成長しやすい魅力的な組織作りについて検討する。
(キーワード:キャリアパス,留学,研究環境,コンサルタント,働き方改革)
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DXに求められる人材の育成・確保の課題と取組方策
独立行政法人情報処理推進機構(IPA) 国際・産業調査部    河野 浩二
 農林水産業や食品産業分野における生産性・付加価値向上や食の安全性のためのデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められる中,その担い手となるデジタル人材の育成・確保が急務となっている。DXはデジタルによる事業変革を含めた取組であり,その推進には,デジタル技術や事業改革等,DX推進に関する専門性に加え業務従事者全体のデジタルリテラシーの向上が必要となる。本稿では,国勢調査,DX動向2024からDXに求められる人材の育成・確保の動向や課題を示し,育成・確保の取組方策として,必要となる人材像やスキルの明確化,デジタル技術活用側と提供側双方に対する人材育成,知識習得やスキル向上に対するマインド醸成の重要性を述べる。
(キーワード:DX,スキル,デジタルリテラシー,マインドシフト)
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民間企業における研究人材の確保・育成に関する調査結果
(公社)農林水産・食品産業技術振興協会    尾関 秀樹
 民間企業における研究人材の確保・育成に関する代表的な調査としては,総務省統計局が毎年度,実施している「科学技術研究調査」と文部科学省科学技術・学術政策研究所が毎年度,実施している「民間企業の研究活動に関する調査」があげられる。前者の「科学技術研究調査」は企業,公的研究機関,大学等を対象に,研究活動に関する基礎的な数値データを中心に取りまとめられている。また,後者の「民間企業の研究活動に関する調査」は民間企業を対象に,研究開発投資,研究人材の確保,研究連携など,より広範囲で詳細な内容について取りまとめられている。本稿では,これら直近の調査結果の中から本号特集テーマである人材の確保・育成に関連した調査結果の概要を紹介する。
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