Vol.14 No.9
【特 集】 森から始まるサステナブルイノベーション


森林土壌温室効果ガス測定を高速化する新たな分析手法
―多地点・高頻度観測を可能にするポータブルガス分析計の活用―
森林研究・整備機構 森林総合研究所 立地環境研究領域     阪田 匡司・橋本 昌司
森林研究・整備機構 森林総合研究所 九州支所     森 大喜
 森林土壌による温室効果ガス(二酸化炭素やメタン)の吸収・放出量を正確に把握することは,気候変動対策において重要である。本稿では,広域観測に適した従来の「ガスクロマトグラフ(GC)法」と,迅速な分析が可能な「ポータブルガス分析計(PGA)法」の長所を組み合わせた新たなガス分析手法を紹介する。本手法では,現場で真空バイアルに採取した少量のガスサンプルを,窒素をキャリアガスとする開放通気方式により,実験室に設置したPGA を用いて測定する。分析時間は従来法の最大1/7に短縮され,GC 法と同等以上の高い測定精度が確認された。本手法の導入により,森林土壌における温室効果ガスの多地点・高頻度観測の効率化が進むと考えられる。
(キーワード:森林土壌,温室効果ガス,ポータブルガス分析計,ガスクロマトグラフ法,気候変動)
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森林に生息するカミキリムシを不妊化させる共生細菌ボルバキア
森林研究・整備機構 森林総合研究所 きのこ・森林微生物研究領域    相川 拓也
 ボルバキアは昆虫類を含む節足動物の細胞内に感染する細菌で,宿主に生殖異常を引き起こす。本研究により,森林昆虫の一種であるビロウドカミキリにボルバキアが感染していることが示された。ボルバキアが宿主であるビロウドカミキリにどのような生殖異常を引き起こしているのか調べたところ,感染雄成虫と非感染雌成虫との間の交配では次世代が作れなくなる,細胞質不和合が生じていることが明らかとなった。ボルバキアは害虫に対する生物的防除資材としての利用が期待されていることから,今後森林害虫とボルバキアとの関係性をより詳細に調べることで新しい防除技術の糸口が見えてくるかもしれない。
(キーワード:ボルバキア,森林昆虫,ビロウドカミキリ,生殖異常)
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人工林に広葉樹を残して鳥類を効率的に保全する
森林研究・整備機構 森林総合研究所 森林植生研究領域     山浦 悠一
北海道立総合研究機構 林業試験場     雲野 明
 人工林は世界的に拡大しており,人工林林業における生物多様性の保全が社会的な課題となっている。本稿では,針葉樹人工林の主伐時に広葉樹を残す「保持林業」に着目し,北海道の道有林での大規模実証実験の結果を紹介する。鳥類調査データを解析したところ,広葉樹をわずかに残すだけでも森林性鳥類の個体数が大きく増加し,生産と保全の間のトレードオフは小さいことが明らかとなった。針葉樹人工林で広葉樹を保持する保持林業は,木材生産と鳥類保全を両立するための有効な手法であり,今後の人工林林業において重要な役割を果たすと期待される。
(キーワード:皆伐,集約化,生物多様性,土地の節約・共有,林業)
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エリートツリーの開発と特定母樹の普及
森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センター    三浦 真弘
 林木育種は,林業生産や公益的機能に有用な特性(成長性,材質,少花粉性など)を改良することである。エリートツリーは精英樹選抜育種により生み出された優良系統であり,これらは育種集団を構成し,それらの選(え)りすぐりが農林水産大臣により特定母樹に指定され,採種穂園を形成する。特定母樹はスギ,ヒノキ,カラマツなどで指定され,採種穂園での種苗生産を通じて一般造林地への普及をはかり,林業生産性および森林のCO2固定機能の向上や花粉症対策に寄与することが期待される。
(キーワード:エリートツリー,特定母樹,花粉症対策)
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造林作業を省力化する電動クローラ型1輪車の開発
森林研究・整備機構 森林総合研究所 林業工学研究領域    山口 浩和
 造林作業における苗木運搬の省力化と作業効率向上を目的として,急傾斜不整地における荷物運搬に適用可能な電動クローラ型1輪車を開発した。本機を活用することにより,30度の傾斜地で60 kg の荷物を安全に運搬できる。現地実証試験の結果,苗木運搬能率は人力の約2.5倍となり,植栽作業全体の生産性は苗木運搬距離が長いほど高くなった。また,作業者の労働負担については,「きつい」に分類される作業時間の割合が大幅に減少し,労働負担の軽減効果が確認された。本機は,再造林作業だけでなく,土木資材や捕獲個体の運搬など幅広い用途への活用が期待される。
(キーワード:電動運搬車,苗木運搬,省力化,効率化,造林作業)
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立木に作用する風荷重を計測する手法の開発とその応用
森林研究・整備機構 森林災害・被害研究拠点    宮下 彩奈
 人工林の風害リスクは間伐後に増大することが経験的に知られており,施業(せぎょう)方法とリスクの関係を定量的に理解することが求められている。しかし,これまで立木(りゅうぼく)に作用する風荷重を直接計測する手段がなかった。そこで著者らは,対象物の変形量を高精度に計測できる「ひずみゲージ」を利用して,樹木に作用する風荷重を動的に計測する手法を開発した。また,この手法を利用して間伐前後の林分で風荷重がどれだけ変化するかを計測した。その結果,間伐方法に応じた風荷重の変化を実測ベースで明らかにすることができた。今後はさらなるデータの蓄積を行い,人工林での風害リスク評価に生かしたい。
(キーワード:風荷重,樹木力学,森林気象害,ひずみゲージ,風害)
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難燃薬剤処理スギを用いた耐火集成材の開発と適用
森林研究・整備機構 森林総合研究所 木材改質研究領域    上川 大輔
 わが国で中高層建築を建てるには耐火構造の部材が必要となる。難燃薬剤処理したスギを無処理の集成材の周囲に配置することで,全断面が木材で構成され木材が目に見える形で使われつつも耐火性能を持つ部材を開発した。開発のキーポイントはインサイジングによる薬剤ムラの抑制と無処理表面層の適切な厚さであった。研究開発により1時間の耐火構造としての国土交通大臣認定が取得され,現在では多くの建築物に使われている。また,3時間耐火の性能まで確保できることが明らかとなっており,今後のさらなる木材利用が期待される。
(キーワード:耐火構造,難燃薬剤処理,スギ,燃え止まり,中高層木造)
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木質新素材・改質リグニンを利用した高機能フェノール樹脂とその用途
森林研究・整備機構 森林総合研究所 新素材研究拠点     大橋 康典・松本 悠佑・
サボー ラスロー・ティティネー
大阪産業技術研究所 森之宮センター     木村 肇・下川路 朋紘・
米川 盛生
森林研究・整備機構 森林総合研究所 企画部
株式会社木質素研究所
    山田 竜彦
 日本固有の樹種であるスギの木粉(もくふん)を安全な薬剤であるポリエチレングリコールで処理することで得られる新素材・グリコール改質リグニン(略称:改質リグニン)について,年間1,000 t規模の製造プラントが建設中であるなど社会実装に向けた取り組みが進んでいる。今後大量に供給されることが確定しつつある改質リグニンの需要創造が急務であることから,リグニンの化学構造との親和性が特に高いと推測されるフェノール樹脂関連での用途開発を行った。その結果,材料中のバイオマス度を85%程度まで高めても,改質リグニン利用フェノール樹脂は石油系の既存フェノール樹脂を上回る物性を示した。
(キーワード:スギ,リグニン,ポリエチレングリコール,フェノール樹脂,高バイオマス材料)
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