ホーム > 読み物コーナー > 釣り餌の"商虫"列伝 > 商虫列伝(1) 国産の天然もの

クロバエ類 (写真L-1〜4)
 グロオビキンバエ Chrysomya pinguis
 ケブカクロバエ Aldrichina grahami
 ホホクロキンバエ Phormia regina
[釣り餌名:ジャンボウォーム]

 後述の「さし」(ヒツジキンバエ・ヒロズキンバエの幼虫)に似たウジで、「さし(キンバエ類)」と同様に、ビニールの小袋にオガクズとともに100匹内外を入れて100円程度で売られている。 袋には何の表示もなく、「さし」ほど普遍的ではないが、「ジャンボウォーム」の商品名で1992〜93年ころから釣具店に出回っている。通常の「さし」が体長10mm内外なのに対し、 これはその名のように約13mmとひと回り大型である。

 その正体は、釣り餌の虫の取材でぼくを訪ねてきた雑誌記者(後述の「さし」の項参照)を通じて東京の池袋の釣具店のものが国立科学博物館の友国雅章氏によって、すでにケブカクロバエと同定されていた(注10)。 しかし、ぼくがその翌年の1996年に、同じ池袋の店と土浦市(茨城県)の釣具店で同名の商品を求め、羽化した成虫を倉橋氏(前出)と友国氏に同定していただいた結果は、ほとんどがホホグロオビキンバエで、 少数(約10%)のクロキンバエが含まれていた。この結果は、「ジャンボウォーム」の構成種の中には少なくとも標記の3種が単独または混在していることを示す。

L-1 「ジャンボウォーム」(クロバエ類の幼虫)
の売品の包装袋
L-2 ホホグロオビキンバエの幼虫

L-3 ホホグロオビキンバエの成虫 L-4 クロキンバエの成虫

 メーカーは単に大型のウジに「ジャンボ」という統一名を与えただけで、その本体の種類には関心がないであろうが、同じ容器の中にこうした複数の種が混在している事実は、後述の「さし」の場合とは違って、 その生産が自然発生のハエでまかなわれていることを物語る。

 3種はいずれもクロバエ科に属し、幼虫は人畜糞、動物の死体、生ゴミなどで発生する。

 ケブカクロバエは1属1種で、成虫の体長8〜11mm、日本全国で普通種。近年、都市化が進むにつれてなじみのオオクロバエが都心から姿を消したが、本種は都心にも住みつき、冬でもその姿を見ることができる。

 ホホグロオビキンバエは成虫の体長8〜12mm、本州以南の各地で見られる。森林性のハエで、都市では公園緑地に多く、成虫は晩秋に好んでヤツデの花に集まる。

 また、クロキンバエは国内では1属1種で、成虫の体長8〜10mm。日本では北海道だけから記録されていたが、近年、本州に移入して現在は関西地方まで分布を拡大している。


ヤマトアミメカワゲラモドキ Stavsolus japonicas (写真M-1・2)
[釣り餌名:川虫・キンパク]

 魚と同じ環境に棲息し、川底の石を起こせば容易に見つかるカワゲラ・カゲロウ・トビケラ類など、いわゆる「川の虫」の幼虫は本来渓流魚の主食である。このため、ベテランの釣り師はこれを自分で採集して使っているが、 もし、商品化されれば相応の需要があろう。しかし、これらの虫は生かして保存することがたいへん難しく、いかに優れた餌でも商虫にはなりにくいことは前述した。ところが近年、これらが、 意表をつく真空パックという"近代的手法"によってついに商品化された。

M-1 「川虫」(ヤマトアミメカワゲラモドキ幼虫)
の真空パックの売品
M-2 同、中の幼虫の拡大

 ぼくがこれを最初に発見したのは名古屋市内の釣具店で、1992年のことであるが、その後東京ほか各地の釣具店でもよく見かけるようになった。虫30匹を真空パックにしたもので、総発売元は「TOMBO FISHING TACKLE」、価格は720円。

 種類は、専門家の元・奈良女子大学の川合禎次氏の同定によって、日本特産で1属1種の標記のヤマトアミメカワゲラモドキの終齢幼虫(一部中齢幼虫混入)と判明した。本州中部以北から北海道に分布し、 水のきれいな中程度の河川の石礫の間に普通に見られるとのことである。このため実際には、ほかの川虫と一緒に本種の幼虫も釣り人に多用されてきたことであろうが、この正確な種名が釣り餌として記録されたことはまだないと思う。

 1匹当たり24円という価格の妥当性はぼくにはわからないが、正確に30匹を人力で配列してパックする手間だけでも大変であろう。また、例によって採集場所や採集方法などは一切不明である。



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