日 時 :平成23年2月24日(木)10:00〜17:00
場 所 :メルパルク東京
演題1:自給飼料の効率的生産・供給技術の開発
講演者:野中和久 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究センター 飼料調製給与研究チーム長
概 要:
耕畜連携の接点に当たる仕事をしている。
「新たな食料・農業・農村基本計画」(平成22年3月)では、WCS用稲及び麦を、平成32年度に10万ha程度までに拡大する(現状のWCS用稲は、15,939ha)必要がある。また、飼料米については、単収を500kg/10aとすると14万ha程度までとする必要がある(現状は、14,833ha)。
稲WCSの最適切断長は、3cm程度となる。1cmでは未消化子実が多くなり、5cmでは乾物摂取量が抑制されるためである。硝酸態窒素濃度が低いという利点がある。
稲WCS中には、ビタミンE(α−トコフェロール)が多いので、牛肉の脂質酸化、肉質の褐色化を防止でき、高付加価値牛肉生産が可能である。また、予乾した稲WCSの給与によって血液中のビタミンA濃度を低減することができる。
広域流通に伴って、ストックヤードの整備、保管及び輸送時の品質管理、生産履歴管理が必要となってくる。クレーム対応等を考えると、顔の見える取引が大事である。
飼料米について、玄米は、うま味成分といわれるオレイン酸が多い。畜種によっては、必須脂肪酸(リノール酸など)が不足するので副資材の添加が必要である。
飼料用米の加工には、ガーデンシュレッダ、麦圧ぺん機、飼料用米破砕機(デリカ社)などが使用されている。
飼料用米の牛への給与にからんで、多給によるアシドーシス(血液のpHが急に下がる、pH5以下だと危険である)が心配である。
この点については、粉砕・挽割・圧ぺん処理を行った飼料米をそれぞれ乾物で40%配合した発酵TMRを乾乳牛に9kg(乾物)給与して試験を行ったが、ルーメン液のpHは給与後も低下せず、アシドーシスの危険性は低いという結果がある。
牛への籾米最大可能給与量に関する農林水産省のプロジェクト試験の結果から、乳牛(秘乳中期〜後期)では、SGS及び破砕籾米給与の場合、TDN換算で濃厚飼料の30%の代替が可能、肉用牛(肥育全期間)では、蒸気圧ぺん及び粉砕籾米給与の場合、乾物換算で濃厚飼料の30%の代替が可能という結果がでている。
飼料用米は、平成32年度には、単収を800kg/10aとすると87,500ha程度まで拡大する目標となっているが、濃厚飼料の30%まで配合量を増やせれば、299,025haまで拡大することが可能である。今後、戸別所得補償対策による政府支援とコスト削減の努力によって、流通価格が、kg当たり30数円に近づき、現実的な動きになることを期待したい。
演題2:農業者戸別所得補償制度について
講演者:堺田輝也 農林水産省生産局農業生産支援課地域対策官
概 要:
農林水産業が、国政の中心に位置づけられ、農業者が誇りを持って営農できるように、先般、食料・農業・農村基本計画を改定し、戸別所得補償対策、もうけを確保するための6次産業化、食の安全・安心の確保を施策の3つの柱としたところである。
先ず、我が国の農業・農村の現状をみると、近年、農地の減少、農業所得の激減、農業従事者の減少・高齢化など危機的な状況にある。
一方、世界の穀物需給動向をみると、中国、インドなど新興国の人口増加や食生活の改善、輸出規制の実施等により、世界の穀物価格は高騰している。
このような状況下で、国内の食料自給率を50%に向上させることを目標としているが、そのための戦略として、例えば、小麦について2毛作の拡大による19万haの作付け増や1割弱の収量アップ、国産小麦や米粉を原料としたパンの製造・消費の増加などの対策推進を考えている。
食料自給率が向上することによって、食料の安定供給のみならず、洪水防止機能等多面的機能の維持増進等の効果が発揮される。
また、農業所得に占める政府からの直接支払額の割合をみると、EUが78%なのに対し、日本は23%と低い水準となっている。今後、透明性の高い農政を推進するためのも、戸別所得補償対策の実現が必要とされる。
今後は、減反に係るペナルティを廃止し、戸別所得補償制度により米の需給調整の実効を期して、減反からつくる農政への大転換を図る。
麦、大豆等の振興については、今までは、米の需給調整が前提であったが、これからは、減反に足を引っ張られずに本作化を実施したい。
平成23年度の戸別所得補償制度では、前年の米戸別所得補償モデル事業の内容に加えて、畑作物の戸別所得補償交付金を制度化している。また、規模拡大加算を導入し、農業の構造改革に資するようにしているところである。
最後に、新稲作研究会では、水田作のコスト削減、直播技術の確立、飼料稲や飼料米の生産、収穫技術の実証対応など、農政推進上の要となる技術の開発・普及を課題として取り上げれており、その成果の発信に大いに期待しているところである。
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