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カイガラムシの防除



1 カイガラムシの防除は難しい  2 カイガラムシ発見のコツ   3 防除  4 防除薬剤


1 カイガラムシの防除は難しい。その理由は、

気が付いたら大発生になっていることが多い。
介殻や蝋を被っているので、薬剤が虫体にまで達しにくい。
カイガラムシの種類によって薬剤の効果の差が大きい。
同じ薬剤でも発育段階で効果が異なる。
 卵と成虫には効果がないと考えた方がよい。
幼虫に効果があっても、成虫の産卵期間が長いものが多く、孵化が長びくが、一方、薬剤の残効性は意外に短いので効果が上がらない。
何よりも、使える農薬が少ない(後で触れます)。

2 カイガラムシ発見のコツ

葉にすす病がでたら、要注意。その上部にカイガラムシ、アブラムシ、コナジラミがいる。
アリが樹を上り始めたら、要注意。カイガラムシ、アブラムシ、コナジラミがいる可能性がある。
枝や幹、葉の裏に注目。
樹の根元や幹の窪みにアリが土などを被せていたら要注意。コナカイガラムシを中に隠していることがある。

 カイガラムシは小さいので、正確に見るにはルーペ(虫眼鏡)が必要です。倍率は8〜10倍で十分ですが、カタログに12×と書いてあっても12倍ないことが多いのでご注意。 それでも6〜8倍はあるので、十分使用に堪えます。製品によっては正10倍と書いてあるのがあります。20倍のルーペは慣れないと使いにくいです。

 レンズの色収差を補正したAchromatic Lens と書いてあるレンズは明るくて見やすいが高価になります。


3 防除


 種々の規制の厳しい日本では、農薬の使用についても厳しく規制されております。樹木でも果樹では多くの農薬が多くの病害虫に登録されておりますが、 庭木やその病害虫にはあまり登録がありません。

 一般の家庭では毒性が普通物−この表現は分かりにくいかもしれませんが、毒物や劇物でなく、平たくいえば毒性の低いスミチオン、オルトラン、 マシン油乳剤くらいしかホームセンター等では手に入らないでしょう。これらの薬剤の適用害虫をカイガラムシとロウムシについて挙げてみましょう。

スミチオン コデマリのカイガラムシ
オルトラン 単独の薬剤ではカイガラムシ、ロウムシに適用はない。
マシン油乳剤 落葉性庭木、アオキ、カナメモチ、サザンカ、サンゴジュ、ツツジ、ツゲ、ツバキ、モッコク、マサキのカイガラムシなど、ハダニ類。

 なんと、庭木のカイガラムシにはマシン油乳剤のみしか使えません。

 しかし、後で述べますが、スミチオン、オルトラン、アレスリンなどの混合剤が多く家庭用に作られて、カイガラムシ、ロウムシに対応出来ます。

 散布にあたって注意するのは薬害です。特に鑑賞用の高価な植物の場合、同じ植物の安価な品種で薬害が出るかどうかを試した方が無難です。 どれくらいで薬害が出るかは植物で違いますので何とも申せません。私のカンキツでの経験では、約2週間で葉に斑点が出た例から、 翌春の新葉に異常が出た例まであります。

 この様に薬剤が少ないと、また薬剤の嫌いな方には「テデトール」しかありません。方法は各自で工夫されるでしょうが、意外に便利なのは、 使い古しの筆の毛を1cm程残して切り落とし、反対の柄(竹)の先を斜めに切って先をとがらした道具です。葉などの広い場所の掃除には筆の毛を用い、 凹凸や狭い場所の掃除には竹の先で落とします。

 筆の先を使用する場合、葉が硬ければ筆を押すように使用するとムシは落ちやすくなります。

 この方法の欠点は、孵化したばかりの小さな幼虫は体長0.2mmほどで、葉の色に似ており、幹や葉にしわがあると、見逃すことと、葉や枝に傷を付け易いことです。 勿論、手間がかかります。しかしカイガラムシの成虫は跳ねたり飛んだりしませんし、幼虫は歩いてもたかだか1分間に1cm程度の早さですので、 腰を落ち着けて作業できます。

 幹に多数寄生している場合は、タワシなどで擦り落としてください。しかし意外に掃除ミスがありますので、ご注意を。

−余談1−
 ロウムシやコナジラミによってすす病が出た場合、落葉樹では冬に落葉してきれいになりますが、常緑樹では見苦しいままです。 モチノキなどのように機械油乳剤が散布できる樹ではその100倍液を冬に散布すると、薬液が乾いた後、ススが風できれいに剥がれてきます。



4 防除薬剤


 前にも書きましたが、樹木でも果樹では多くの農薬が多くの病害虫に登録されておりますが、庭木やその病害虫にはそれほど多くなく、カイガラムシ類とロウムシ類に以下のように登録されています。 この登録状況は年により変わりますので、販売店で確認してください。

 なお、前にも触れましたが、一般の家庭で入手のしやすい毒性の少ない普通物の薬剤のみを示します。

1.カイガラムシ類に登録の有る薬剤と対象樹種(平成19年9月現在)

薬 剤 成 分 対象樹種
アクテリック ピリミホスメチル,乳剤 ツバキ、マサキ
オルトランAスプレー オルトラン・アレスリン、エアゾル サルスベリ
オルチオン オルトラン・スミチオン,乳剤 ツツジ
カダンK アレスリン・マシン油,エアゾル 樹木、アオキ、ゲッケイジュ、サザンカ、サンゴジュ、ツツジ類、ツバキ、マサキ、モクセイ、モチノキ、モッコク、マツ類、スギ、ツゲ
スミチオン スミチオン,乳剤 コデマリ
ベニカX乳剤 ペルメトリン・ミクロブタニル,乳剤 サルスベリ、マサキ(幼虫)
ベニカDX アプロード・ペルメトリン・ミクロブタニル,エアゾル サザンカ
マシン油エアゾル マシン油,エアゾル ゲッケイジュ、サザンカ(幼虫)、ツツジ(幼虫)、ツバキ(幼虫)
マシン油乳剤 マシン油,乳剤 ゲッケイジュ、サザンカ、ツバキ


2.ロウムシ類に登録の有る薬剤と対象樹種

薬 剤 成 分 対象樹種
カダンK アレスリン・マシン油,エアゾル 樹木、アオキ、ゲッケイジュ、サザンカ、サンゴジュ、ツツジ、ツバキ、マサキ、モクセイ、モチノキ、モッコク、マツ類、スギ、ツゲ
カルホスエアゾール カルホス,エアゾル マサキ
タイクーン ダニカット・アプロード,乳剤 サザンカ(幼虫)、ツバキ(幼虫)
マシン油A乳剤AL アレスリン・マシン油,乳剤 アオキ、ツバキ、マサキ

注:商品名が一つの場合は、分かりやすいように成分に商品名を使用しています。
  例えばスミチオンは農水省での名称はMEPですが、スミチオンとしました。
  マシン油乳剤は多くの商品名があるので省略しました。
  登録に「樹木」とある場合は広く木本植物に使用できることを示します。
  登録状況は新規登録や登録抹消があり年によって変わります。

 マシン油乳剤には95%剤と97%剤とがあり、一般的にはハダニ類には95%剤の方が効果は大きいのですが、カイガラムシ類には97%剤の方がより有効です。 登録樹種と対象害虫によって登録マシン油は決まっております。ご注意下さい。

 マシン油乳剤はマツ類とサツキ類で品種により薬害が出ることがあります。

 アプロードは脱皮阻害剤です。幼虫は成長するときに脱皮しますが、それを阻止して殺す薬剤です。成虫には無効で、幼虫でも若いほど良く効きます。

 ダニカットは殺ダニ剤ですが、なぜかロウムシ類の若い幼虫に効きます。

 ペルメトリンやアレスリンは蚊取り線香の成分:ピレスロイドから誘導された合成ピレスロイド系で、アブラムシやケムシにすばやく効きます。 なお、一般的に魚に毒性が強いので、近くに池のある場合は散布液が池にかからないようにご注意下さい。

 スミチオン、オルトラン、アクテリックは低毒性の有機燐剤です。若い幼虫ほど有効です。

 と言って、幼虫が発生したらすぐに散布するのは考えものです。多くのカイガラムシの幼虫は1ヶ月以上にわたりだらだら出るのが多く、 一方、有機リン剤は散布後5日もすれば効果のないことが多く、一般の人が考えているほどは意外に残効性がありません。 孵化幼虫の1齢期間はムシによって異なりますが、10日近くあるので、幼虫発生が見られたら1週間〜10日後に散布するのが効率的でしょう。 但し、この期間はムシによって変わりますので、発育を注意深く観察してください。


 エアゾルは調合しなくてもすぐに使えるので、一寸した防除に便利ですが、吹き出た直後の霧は断熱膨張のため温度が低いので、30cmくらい離さないと、 葉などに低温障害を起こすことがあります。

 使用濃度はそれぞれの薬剤のラベルを良く読んで下さい。

 カイガラムシ防除が成功する手助けになれば幸いです。

―余談2―
 脱皮阻害剤をアブラムシに試験したとき、散布時期が遅くなり終齢幼虫になっていたのか、脱皮もせず、長く幼虫のままで吸汁加害を続け、 却って被害が出た苦い経験があります。

―余談3―
 低毒性農薬といっても無毒ではありません。特に原液が口から入らないように注意してください。参考までに前に挙げた3種でもっとも毒性の高いスミチオンを例に取ると、 試験動物で値が異なりますが、50%致死薬量(経口)の小さい値がラットで体重1kg当り330mgです。人もラットと同じ毒性と仮定すると、 60kgの人で19800mg(約20g)、スミチオン乳剤の有効成分は50%ですので、2倍にして原液約40gを飲めば半数の方が亡くなる計算です。 普通では考えられませんが、化学物質アレルギーの方がおられるので注意するにこしたことはありません。

 ご参考までに食塩と砂糖のラットの50%致死薬量(経口)は体重1kg当りそれぞれ約3g(3,000mg)と約30g(30,000mg)と言われます。



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